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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第1章

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第37話 二人きりの花火大会③


「あれ、遊介じゃん! 偶然だな、こんなところで」


「ほ、星野……」


「よっす!」


 花火大会のこの人混みの中、知り合いとバッタリ会ってしまう確率はどれくらいなのだろうか。

 ベンチに座って氷川と屋台飯を食べていると────突然、星野から声をかけられた。


「どうしたんだよ、こんなとこで……」


「そりゃ、デートに決まってんだろ! そういえば、遊介は会うの初めてだったよな」


 俺たちの秘密の関係を見られた焦りからか、星野の隣に人がいたことも全く気づかなかった。



「こいつが俺の彼女! どうよ、可愛いっしょ?」



「はじめましてっ、五十嵐来実いがらしくるみです! 透也がよく話してるから、遊介って名前は聞いたことあるよ!!」



「あ、あぁ……はじめまして」



 元気な人だな……。陸上部って言ってたし、体育会系なだけはあるか。

 黄色の浴衣がその明るさを表しているようだった。


「にしても、遊介さんよぉ……」


 星野のこのノリはきっと面倒なことになるな。

 その予感だけは、自分も絶対に外れるとは思ってなくて。



「めっちゃ可愛い彼女じゃねぇかよ」



 高いテンションから発された言葉を聞いて、俺は喧騒にも負けないため息をつく。

 隣に座っているのが氷川だとはバレてなさそうだけど、彼女だとは思うわな。



「彼女じゃねぇよ。ただの知り合いで────」



 俺が必死に否定しようとしたところで、ふと、夏の暑さがかき消されるほどの冷たいオーラを感じて言葉に詰まる。


 星野もそれを感じたのか、急に青ざめた表情になって……。


 一緒になってそのオーラの正体を探すと、それはすぐに見つかった。

 氷のような視線で星野を見つめていた星野の彼女からだ。


「あ~わりぃわりぃ……。俺の中では来実が一番可愛いに決まってるだろ」


「えへへ……もう、透也ってば。たくさん人がいるのに~」


 ああ、他の女子に『めっちゃ可愛い』って言ったのが、彼女的には気に入らなかったわけか。

 そんな些細なことで、と感じる時点で俺に恋愛は向いてないなと改めて思う。


「はぁ……イチャつくなら、人目のつかないとこでやってくれよ」


「これくらいのこと、祭りなんだから誰も意識して見てねぇって」


「俺に見せつけるなって言ってるんだよ。リア充の嫌味にしか思えないぞ」


「んなこと言って、遊介もちゃっかり作ってんじゃねえかよ。彼女さんごめんね、俺たちだけで話し込んじゃって」


「い、いえ……私のことはお気になさらず」


 星野のターゲットは、完全に影を潜めていた氷川に移る。

 うつむき気味でなんとか顔を隠そうとしているみたいだけど、星野の彼女は興味津々とばかりに覗き込んでいた。


「すっごいお顔整ってる……! 綺麗~」


「そ、そんなことないですよ。来実さんのほうがよっぽど可愛いですから」


 氷川の表情がやたらと固い。しかも、なんでそんなかしこまった言葉遣いなんだ……。


「ないないない! 私よりも…………えへへ、まだお名前聞いてなかった」


「えっと、『あい』っていいます……」


「あいさん! 私よりもあいさんのほうが可愛いって!」


 緊張しているのがこっちまで伝わってくるほど、氷川の様子はいつもと違った。

 やっぱり、俺たちの関係性を知られたかもしれないと思うと、そんな反応にもなるか。

 けど、星野が発した言葉で、俺はひとまず胸を撫で下ろすことになる。


「あいさんか。こいつ、無愛想ですけど良いやつなんで! 見捨てないでやってくださいね」


 やはり、俺の隣に座っているのが氷川だと、星野は気づいてないらしい。

 それだけが救いではあるけど、このまま会話を続けていたらいつかはバレてしまうだろう。

 なんとか氷川から意識をそらさせようと、無理やり会話に割り込む。


「あのなぁ、何度も言うけど彼女じゃねぇって。お前みたいにイチャついてもないのに、俺たちのどこがカップルに見えるんだよ」


「見えるだろ。なぁ来実?」


「初々しいカップル~って感じで、付き合いたての頃思い出しちゃう!」


 こんな様子を見せられると、これだけハラハラしているこっちが馬鹿みたいじゃないか。

 これ以上関わっていると、こいつらのペースに飲み込まれかねない。


「盛り上がってないで、何か買ってきたらどうなんだ?」


「確かに俺たちはお邪魔だもんな。遊介の言う通りそろそろ行くわ。今度、ダブルデートでもしような~」


 見せつけるような恋人繋ぎが鼻についたけど、星野は彼女と一緒に、人の波へと消えていった。

 少し違った解釈をされてそうではあったが、ピンチを乗り越えられたなら今はなんだっていい。


「…………バレてないよな」


「多分ね。はぁ~、緊張したぁ」


「氷川ってさ、意外と不器用だよな」


「……笑いたきゃ笑えばいいよ」


「そんなふて腐れるなって」


 学校では何でも器用にこなしているイメージだけど、実際はアドリブに弱いこっちが素の氷川なんだよな。

 そのギャップを改めて感じると、なんだか可愛く思えてくる。


「私は陰キャなんだから、スイッチ入れないとああなっちゃうんだよ。表情には出してないみたいだけど、どうせ面白がってるんでしょ」


「まあ、名前聞かれて律儀に本名教えたとこが面白かったとか、口にしたら悪いと思って」


「言ってるじゃん! もう、恥ずかしいなぁ……」


「あははっ、氷川でもそんな反応するんだな」


 氷川との関係性にも慣れてきて、完全に油断していたところのハプニング。

 冷や汗が滲み出すほどの緊張感を乗りきって、ホッと一息つきたいのが本音だ。

 だけど、もしかしたら星野がからかいに戻ってくるかもしれない。


 そう思った俺たちは、急いで買った食べ物を胃に落とすと、再び人混みの中へと飛び込むのだった。


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