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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ


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第21話 さっそく役に立つとは……


 今日の昼食はいつもと少し騒がしさが違う。


 いつもより騒がしい────というわけじゃなく、落ち着いているほうだけど。


 普段は学食で食べていたのだが、今日は教室で昼食をとっている。

 そんな教室に残っているのは、弁当を持ってきている女子グループや購買のもので簡単に済ませてる男子数人。

 全学年が集まる学食と比べれば、そりゃ教室のほうが静かに決まってた。




「昼飯のときくらい休憩したらどうだ?」


「いやいや、こういう時間を有効活用しないと」


「渚は真面目だなぁ」


 購買のパンを片手に、一冊の台本とにらめっこをしているのは二階堂。

 演劇部に所属している二階堂は、もうすぐ公演が近いということで追い込みに入っているらしい。


「お披露目公演って、まだ入って三ヶ月も経ってないだろ。そんなすぐやるものなのか?」


「もうすぐテストだし、終わったら夏休みがきちゃうでしょ? 休みに入ったら、来てくれる人少ないだろうし……。それに夏休みからは、文化祭用の劇に取り掛かるみたいだから」


「一年でも忙しいんだなぁ……」


 教室で食べたいという希望も二階堂からのものだった。

 じっくり台本を確認をしているその姿を、俺と星野はじっと見つめる。



「渚がやるのはどんな役なんだ?」


「とある童話をアレンジしたお話で、僕は王子様の役」


「二階堂が王子って……」


「何か言いたいことでもあるの?」


「いや、何でもない……」


 どっちかっていうとお姫様のほうが似合いそうだけど────それを口に出すと二階堂は怒りそうだな。

 それに、そんなすごい笑顔で見つめられたら言えなくなるに決まってる。


「でも、いまいち王子様っぽくならないんだよね」


「そりゃ、渚の見た目じゃ────」


「透也?」


「あ~…………何でもないです」


 俺に向けられていた満面すぎる笑みが、そのまま星野のほうにも向けられる。

 二人して言葉を封じ込められてしまって、俺たちは苦笑を浮かべることしかできなかった。



「これでも一応、僕なりの王子様をちゃんとやってるんだから。もし良ければ今日の練習きてよ。感想もらえれば何か参考になるかもだし」



 ちゃんとやってるかを疑ってるわけじゃないんだけど……。

 ただ、そんなことはどうでもよくなる別の問題点に俺は悩まされてしまう。


「おっ、いいな。ちょうど今日は部活休みだったし」


「今日か……」


「もしかして用事でもあった?」


 その問いかけに言葉が詰まる。


 今日は水曜日────放課後に氷川と帰る約束をしてる日なのだ。


 ここは先約を優先すべきだろう。そう思って断ろうとしたとき、スマホからメッセージ通知が鳴る。



『(藍) 行っていいよ、日曜日に会ったんだし。友達優先』



 メッセージを送ってきた人物にこっそり視線を向けると、教室の奥で女子数人と笑いあって昼食を食べていた。


 まさか、この会話が聞かれていたとは……。


 氷川との約束を一週分無しにするのは気が進まないけど、ここで二階堂の誘いを断るのは怪しまれる気もするし……。



「二階堂が大変みたいだし見に行くよ」



 ここは、氷川のメッセージに甘えさせてもらうことにしよう。

 日曜日に家に来たとはいえ、約束は約束だったんだから後で埋め合わせはしておかないとな。


「ありがとっ。ちょっと恥ずかしいけど頑張らないとね」


「演劇って今まで見たことないんだよな~」


「確かに俺もだ。二階堂の演技って想像つかないな」


「そんな期待しないでよ。まだ完成どころか、役すら掴めていないんだから……」


「他に誘ったりしねぇの? 感想を聞きたいなら人は多いほうがいいだろ」


「あのね、僕は透也と違ってそこまで交友関係広くないから」


「でも、王子様の役を学びたいならうってつけの人がいるんじゃねぇのか?」


 そう言って星野は、先ほど俺も向けた教室の奥へと視線をやる。

 まあ正直、頭の片隅では俺もずっと思っていた。



「氷川さん、だよね。僕は透也みたいにぐいぐい声をかけられないから……」



「俺もこの間助けてもらったばかりだしなぁ。遊介、お前の関係性でどうにかならね?」



「なるわけない。大体、氷川にメリットないだろ」



 メリットはもちろん、氷川が部活に入っていないのも気になるところではある。

 よく勧誘を受けてはいるらしいのに、頑なに断っているのはきっと何か理由があってのはず。


 想像できなくもないけど、結局それは俺の想像でしかなくて……。


 そんな話の途中で昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると、会話もそこで途切れてしまった。


 なんとなく声をかけたほうがいい気もしたので、授業が始まるまでの少しの時間で氷川にメッセージを送ってみる。



『(前田) さっきの話、聞こえてたか?』


『(藍) 役作りのことだよね?』


『(藍) 私、演技のこと知らないよ』


『(前田) それは気にしないと思うけど……』


『(前田) 一応、聞くだけ聞いておこうと思って』


『(前田) 気が進まなければ断ってくれて構わないよ』


 それにしても、昼食のときの様子では、全く聞いてなさそうだったのにしっかり聞いてるのな。

 話が早いのはありがたいけど、あまりにもアンテナを張りすぎじゃないだろうか。


 そんなことを考えながら、断られるのを前提で声をかけると返事はすぐにきた。



『(藍) 興味はあるかな』



『(前田) ホントか?』



『(藍) 雰囲気に憧れはあったし』



『(藍) 中学のときも部活って入ってなかったからさ』



 氷川が部活に対してそんな風に思っていたのは、正直意外だった。

 気になることがないといえば嘘になるが、今聞くことでもないだろう。


『(前田) 注目が集まると思うけど大丈夫か?』


『(藍) 前田くんと一緒なら楽しめると思う』


 これまたずいぶんと信頼されたもので……。

 それに、メッセージでも相変わらずこんなことを真っ直ぐ言ってくるんだなぁ……。



『(前田) まあ、なるべく氷川に負担がかからないようにするよ』


『(藍) やっぱりキミは優しいね』


『(前田) こっちが誘ったんだから当たり前のことだろ』


『(前田) 変に気負わせたら悪いしな』


『(藍) 普段から演じてはいるしそこは安心してよ』


 笑っていいのか、なんとも返し方に困るメッセージが送られてきたところでチャイムが鳴る。



 自ら演じる道を選んだ王子様キャラに悩む氷川に、あんなお願いをするのは複雑ではあったけど……。部活の雰囲気が楽しみだという言葉にはホッとした。


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