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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ


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第2話 平穏が崩れた日


 特別なにか才能があるわけじゃない。高校に入学して、変化があったわけでもない。


 ごく普通の学校生活────いや、帰宅部かつ寄り道もせず家に帰ってるあたり、傍から見れば寂しい青春だと思う。

 ただ、そもそも俺は一般的な青春らしいことには興味がない。

 高校に入学して一ヶ月近くが経ったけれど、面倒ごとに巻き込まれず平和な学校生活を送れていた。



 今日も今日とて、流れ作業のような変わらない学校生活を送って家へ帰る。

 家から高校までの道のりは、もうすっかり体に染みついた。

 一ヶ月で見飽きてきた風景をぼーっと眺めながら、足を進める。



「は、離してください!」



 ふと、車の音に混じって大きな叫び声が辺りに響いた。

 普通の街並みの中に、突然普通じゃない声が入ってきたもんだから、俺は反射的に声のした方向を見る。


「急に大声だしてどうしたのさ。ちょっと遊ばないかって言っただけじゃん」


「本当に通報しますよ……!」


 どうやらコンビニの前で、女の人とチャラついた男が言い争ってるみたいだ。

 男の言葉から察するに、おそらくナンパだろう。

 にしても、あの女の人の制服……同じ学校か。

 気の毒だとは思うけど、関わって面倒なことになる前に離れよう。

 そう思って、顔を背けようとしたとき────


「…………っ!」


 抵抗を続ける女の人の、メガネの奥の瞳と目が合ってしまった。

 困ったような、助けを求めるような……。

 そんな瞳を向けられても困ってしまう。

 地味な雰囲気の人だし、思い切り振り払えないんだろうな。


「はぁ……。関わりたくないとこなんだけど……」


 ああいうチャラついた男は、俺なんかが止めに入っても無意味だと思う。

 だけど、ここで無視して帰るとあとでモヤモヤしそうだし仕方ない。

 俺はため息をつきながら、コンビニのほうへと近づく。


「あの、嫌がってるみたいですしやめてあげたらどうです?」


 揉める二人の間を割るように入り込むと、男の手首を掴んで女の人から手を離させる。

 その隙に、女の人は俺を盾にするかのごとく逃げてきたけど────当然、男は今にも掴みかかってきそうな表情で睨みつけてきた。

 周りで見てる人も多いし、手荒なことはしてこないと信じたい。

 そもそも、野次馬をするなら助けてやれよと思うけどな。


「あぁ? なんなの、お前。俺はただ遊びに誘ってるだけだろ?」


「でも、この人は拒んでましたよね? 一応、さっきのやり取りは動画に撮りましたよ。周りにも目撃者はいますし」


 本当は撮ってないけど、脅しくらいには使えるだろう。目撃者がいるのは事実な訳だから、最悪その人たちを頼ればいい。

 ここで引いてくれれば話は早いんだけどな……。


「チッ、正義の味方気取りかよ。おい、別に嫌がってなんかないよな?」


 舌打ちと共に、鋭い視線が彼女へと向けられる。

 こんな威圧的な態度を取られて、ナンパを受ける人なんかいるわけないだろ……。


「あ、あなたには興味無いので。これ以上、関わらないでください」


 地味な雰囲気とは裏腹に、強く言い放たれたその言葉。

 こんな風に断れるなら、俺が助けに入る必要もなかったか。

 男のほうも、こんなハッキリ言われると思ってなかったのか、面白いほど顔をひきつらせていた。

 けど、次の瞬間には深くため息をついて────


「マジでセンスねぇー。見る目ない地味女なんか、こっちからごめんだわ」


 そんな捨て台詞を残して、男は足早に去っていった。


「なんだあいつ……」


「あの、ありがとう」


 後ろから聞こえるホッとしたような声。

 それで俺のほうも緊張の糸が切れて、自然と息が漏れる。


「いや、俺は何もしてないよ」


「……キミは優しいんだね」


 地味な雰囲気の子だと思ってたけど、間近で見たら割と顔は整ってるんだな。

 チャラ男がナンパしてたのも妙に納得がいく。あの男、顔はしっかり見ていたのか。


「助けてもらっちゃったし、何かお礼させてもらえないかな……?」


「お礼とかいらないって。あいつが逃げていったのは、君がハッキリ言ったからだろうし」


「でも、ハッキリ言えたのはキミが来てくれたからで……」


「そんなことより、少しの間は一人で帰らないほうがいいと思うよ。多分、目を付けられてるから」


 普通ならば、スムーズに家に送る流れになるんだろうけど……。俺にそこまでのことが出来るわけない。

 正直、これだけやれたんだから誉めてもらいたいくらいだ。

 どっと疲れたし、ここらで帰らせてもらおう。


「じゃあ、俺はこれで。気をつけて」


「あっ、ちょっと……」



 後ろで何かを言おうとしてたみたいだけど、その声は聞こえないふりをした。





 ※





「昨日、うちの学校の女子生徒が不審な男にしつこく声をかけられたと通報が入った。念のため気をつけるようにな」


 下校前のホームルームで担任がそんなことを言ってきた。

 話に出てきた不審な男って、多分あのナンパ男のことだよな……。

 ずいぶんと話が大きくなってしまった気がする。


「物騒だなぁ。あいつのことも迎えに行ってやんないと」


「不審者がいなくても、いつも迎えに行ってんだろ。隙を見て彼女いますアピールしてくんな」


「バレたか。まぁそんなわけだから、俺は先に帰るわ~」


 彼女との惚気を見せつけてきた星野は、ホームルームが終わるなり教室から出ていった。


「遊介、ごめん。僕も部活があって……」


「そっか、じゃあ俺は一人で帰るかな。二階堂も不審者に気をつけろよ」


「流石に、僕を女子と間違えるほど馬鹿な不審者はいないでしょ」


 二階堂は笑っているけど、割とマジでありえなくはないと思っている。

 まぁ、大丈夫だろ。あれでも運動神経は抜群だし。

 二階堂が部活へ行ったのを見て、俺も帰りの準備をしてから教室を出る。



 他クラスでも不審者の話があったようで、廊下を歩いているとその話題がちらほら。

 それでも、どこに寄り道するか話しあっていたりで、ほとんどの人は気にしていないみたいだけど。

 相変わらず、学校は騒がしい。少し遠回りになるけど、あまり使う人がいない階段で降りることにしよう。


「前田くん」


 人が少なくなってきたにも関わらず、俺と同じ名字の人が後ろで呼ばれている。

 まぁ、珍しい名字でもないからそんなこともあるんだろう。


「ねぇ、キミのことなんだけど? 前田くん」


 次にその名字を呼ばれたとき、同時に後ろから肩を叩かれた。


「えっ、俺?」


「やっとこっち見てくれた」


「…………なんで、お前が」


 振り返った先にいたのは──氷川藍ひかわあい


 俺のクラスの絶対的な中心人物。スラッとした長身のスタイルと男顔負けのカッコいい見た目から、女子なのに王子様と呼ばれているのをよく聞く。


 そんな氷川が、なんで俺なんかに声を……。

 無意識のうちに、何か気にさわるようなことをしただろうか。

 話かけられるような心当たりも全くないから、俺は焦りで身体が強張る。


「ええっと、俺になんか用?」


 自覚するほどの引きつった笑みを浮かべながら、おそるおそる質問を投げ掛ける。

 すると氷川は、ムスっとした表情でさらに距離を詰めてきた。


「なんか用、じゃないよ。昨日、一人で帰るなって言ったくせに置いていったでしょ。だから今日は、家まで送ってもらおうと思って」


「昨日? 氷川と話した覚えはないけ……ど……」


 人違いだと、話を聞いた瞬間はそう思った。

 だけど、言い返す言葉の途中でさっきの担任の話が頭を過って────昨日のコンビニ前のナンパ事件を思い出す。

 さっき氷川が言ったセリフも、よく考えると心当たりある気がしてきたけど……。


「でも、全然違うよな……」


 昨日のメガネを掛けた地味な女の子と、目の前のイケメン女子が全く一致しない。

 目の前の人物からは、あまりにもキラキラオーラが溢れていて、正直見ているだけで疲れる。


「ふふっ。確かに、全然違うから分かりづらいかもね」


 そんな俺の反応も予想通りと言うように、氷川は微笑んだ。


「ねぇ、ちょっと付き合って」


「ちょっ、どこ行くんだよ」


 いきなり手を掴まれると、そのまま強引に引っ張られて階段を降りていく。

 もしもこんなところを誰かに見られたら、色々と面倒だな……。


「……入学式のときに話したの、覚えてる?」


「はっ? 入学式……?」


 ただでさえ理解できない状況なのに、その質問がさらに俺の頭を混乱させる。

 一ヶ月前のことだけど、俺からしたら記憶が薄れるほど前のことだ


「ほら、クラス表の前で話したじゃん」


「そう言われると……ぶつかったんだっけ?」


「覚えててくれたんだね。実を言うと、あの日からずっと気になってたんだ。キミのことが」


 氷川がそう言ったところで、突如として手が解放された。


「ここで少しだけ待ってて」


「えっ、おい……」


 一方的にそれだけを言い残して、氷川は女子トイレの中に消えていってしまった。

 何がしたいんだか目的がよく分からない……。

 このまま帰ってしまおうかとも思ったけど、逆らうと明日も声をかけられそうなので、仕方なく待つことに。


 そうして、誰も通らない廊下でただ立っていること数分────



「お待たせ」



 ようやく出てきたか、と声のしたほうへ視線を向けると────目に飛び込んできたその姿を見て、俺は言葉を失った。



「改めてだけど、氷川藍です。昨日は助けてくれてありがとね」



 まさに昨日、コンビニの前で会った地味なメガネ女子がそこにいたのだった。


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