第11話 休日の戦い
「お兄、まだ~?」
「お前が少しでも協力してくれれば、早く終わるんだけどな」
妹のあかねと一緒にショッピングモールに来た俺は、母さんのメモを頼りに次々と買い物を進めていく。
書かれている品はかなりの量で、こんな昼過ぎに買い物に行けと言われたのも納得だ。
「めんどいんだけど。それに、あたしは忙しいから」
忙しいって、さっきから隣でスマホ見てるだけじゃねぇかよ。
結局なんの役にもたってない妹に、俺はついため息が漏れる。
「はぁ……次は洗剤か。ほらあかね、スマホ見てないで行くぞ」
「はいは~い」
それなりに広いショッピングモールなもんだから、移動がなかなかに面倒くさい。特に用のないコーナーは、一切目もくれずに通り抜けていく。
「お兄~。あれ、一緒に混ざってこなくていいの?」
「はぁ? 何を……」
突然、何やらイタズラ笑みを浮かべるあかね。
指が差された方向に視線を向けてみると────そこには小さな子どもが何人も集まっていた。
どうやら、設置されたテレビで流れている幼児向けアニメに釘付けになっているみたいだ。
「バカにしてんのか? 俺にそういう趣味はない」
「ホントに~? 恥ずかしがってるだけでしょ?」
こいつの性格はどうにかならないものだろうか。
どうやらここは、おもちゃコーナーみたいだな。テレビに釘付けの子どもたちの他に、家族で来ている人たちも多く見える。
そこで俺はあることを思いついて、辺りをキョロキョロしながら目的のものを探す。
すぐにそれは見つかり、思わずニヤリと口角が上がってしまった。
「そういうお前は、戦隊オタクは卒業したのか? 変身ベルトが見たかったら素直に言えよ?」
先ほどあかねが浮かべてたような笑みを、俺は仕返しがてら向ける。
「なっ!? お、お兄には関係無いでしょっ!」
そんな俺の言葉を聞くと、顔を赤くしてそっぽを向くあかね。
こいつは昔から戦隊ものが好きだけど、それは今でも変わってないみたいだ。隣の部屋から、変身ベルトの音声らしきものが聞こえてくることもあるし。
「ほら、買い物途中なんでしょ! 早く行こっ!」
そう言ってあかねは、不機嫌そうに歩いていってしまった。
くだらない会話を重ねながら色々と買い物を終え、俺たちが最後に来たのは食品売り場。
「なになに。米、牛乳を二パック……って、なんだよこれ……」
「あたし持たないからね」
俺がメモの内容に嘆いていたら、隣であかねが茶々を入れてくる。
これだけの量、俺一人で持てるわけがない。そりゃ母さんも、あかねについていけって言うわな。
「流石に勘弁してくれ。重いものは俺が持つから」
「お兄は非力だなぁ。そんなんだから、彼女出来ないんだよ」
「うるせぇよ。今、関係無いだろ!」
そう反論はしたけど、重いものは出来る限り持ちたくないので、カートの上にカゴを乗せて押すことにした。
「今日の夜ご飯、何かな?」
「このメモからじゃ分からないな。買うもの多すぎるし」
「あたし、ステーキ食べたい」
「ステーキは書いてないだろ……」
「どれどれ……」
あかねは俺が手に持っていたメモを奪ってきて、隣でジッと見つめている。
取り返すのも面倒だし、メモの内容はその都度あかねに聞けばいいか。
「せっかくあたしが買い物に来たんだし、ちょっとは豪華にしてくれればいいのになぁ」
メモに書かれた中にお気に召すものが無かったのか、ふてくされているあかね。
「母さんの料理はかなり上手いほうなんだから、文句を言うな。それよりあかね、そのメモの中で買ってないのってなんだ?」
「卵とチーズとマカロニと────」
「待て待て、一気に言うなって」
「聞いてきたのはお兄じゃん」
こいつ、最近は本当に……。数年前は、もっと素直で可愛いげのある妹だったはずなんだけどな。
ため息を漏らしながら、昔のあかねに思いを馳せていると────
『ただいまの時間より、卵のタイムセールを行います。お一人様一パックまでで、お値段なんと五十円! 限定三百パックですので、お早めにお買い求めください!』
俺たちの会話を聞いていたかのようなタイミングで、食品売り場にそんな放送が響く。
「お兄、ゴー!!」
「俺は犬かっ!」
「早く行かないとなくなっちゃうよ?」
「分かってるよ。あかね、カート頼んだ」
あかねにカートを預けると、俺は卵売り場に早足で向かう。
するとすぐに、卵をゲットしようとするおばさま方の流れが見えてきた。負けじと俺もその激流に向かって突っ込んでいく。
「す、すげぇな……おわっ! ちょっ……」
突っ込んですぐに、セールのときのおばさまの力は、男子高校生に負けないくらい強いことがよく分かった。
カゴがみぞおちに入ったり、カートに足を轢かれたり……。
散々な目に合いながら、ようやく棚の前にたどり着くと────棚には残り一パックの卵が。
「おっ、ラッキー」
最後の卵に手を伸ばすと────同時に、反対から伸びてきた手とぶつかってしまった。
「あっ、すみません」
「俺のほうこそ。すみませ────」
「あれ、前田くん?」
こんなところで名前を呼ばれると思ってなかったから、驚いて顔をあげる。
「えっ、氷川……!?」
手がぶつかった人、そして俺の名前を呼んできた人の正体は、メガネをかけた地味モードの氷川だった。
「お~い。卵、ゲット出来た~?」
そしてこのタイミングで、あかねが後ろからやってきて────ばったり鉢合わせた俺たちは、顔を見合わせたまま動きが止まった。
作品を見つけていただきありがとうございます。
面白い、先が気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。
よろしくお願いいたします。




