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【完結】心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
お試しの居場所・後編

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57 花びらの先には見知らぬ女性。


一瞬、サスペンス。




 スーパーの広告日。幸い、八時間勤務をするのは、私以外のパートさん。なので、慌ただしい四時間を乗り越えれば、上がれた。


 家に一度帰ってから、服を着替える。

 この前買ってもらった、黒い襟の白いワンピース。同じく、あの時買ってもらった黒一色のストッキング。化粧をして、香水をかけて、美容室へ自転車で向かった。


 いつものように髪を染めてもらう前に「終わったら、巻いてもらっていいですか?」と頼んだ。


「もしかして、デート?」と茶化されたけれど、話したことは母に筒抜けになってしまうから「遊びに行くんですよ」とだけ笑い返す。


 美容師にコテでゆるふわに巻いてもらったら、完璧に可愛いとテンションが上がった。


 崩れることを気にしてのんびりと自転車で駅に向かうと、見事に乗る予定だった電車を逃す。

 ガクリ、と肩を落とす。

 あちゃー。……遅れる。数斗さんに出来立てを食べてもらおうと、計算しておいたのに……。


 次の電車に乗って、数斗さんの街まで20分ほど。駅から家までは、5.6分。

 車だと、やっぱり時間かかりすぎよねぇ……。


 駅ビルの一階のスーパーへ。

 コーンクリームシチューのルー。今日は半分だけを使うんだけれど、二人分だけを作るのは、ちょっと無理。

 いつも四人分をついでに作っていたから。なんなら、ルーを全部を作って、大量に作り置きしておくことも、度々。

 結局、ルーの箱の裏に書いてある食材を買う。数斗さんも残りは自分で使うと言ったので、それを持って行く。


 数斗さんに借りた鍵で、エンストラスを通って、エレベーターで五階へ。

 ドアを開けて、中に入ると。


 目をパチクリ、と瞬いた。


 廊下に、赤い花びらが落ちている。それも、廊下の先まで続いていた。

 首を傾げてしまう。

 なんだか……ムードを演出するために、薔薇の花びらを撒いたような感じ。


 数斗さんが帰った?


 さっき着いたことをメッセージで知らせたけれど、既読はついてない。まだ仕事中のはず。

 例え、数斗さんが帰って来てても、この薔薇の花びらの演出はなんだろうか……。

 昨日は、こんな計画を立てていた様子はなかったし……。中からも、数斗さんの心の声は聞こえない。


 変だな……と、ちょっと不審感を抱えつつも、花びらを踏まないように廊下を進む。生の花びらだ。


 リビングに繋がるドアが開きっぱなし。

 花びらを真っ直ぐ辿らせるみたい。


 うわあ……どうしよう。以前、海外のサスペンスドラマで、薔薇の花びらを辿ったら死体があったとか、そんな事件のシーンがあったことを思い出してしまった……。

 えっ。ち、違うよね……?


 怖くなってしまった。


 それで、前に来た時に数斗さんが寝室だって言っていた部屋に続く花びらを辿ろうとして、買い物袋をキッチンカウンターの前の椅子にぶつけて、物音を立ててしまう。

 うぐ。……ホラーなら、私これで死ぬわ。ガタガタ、ブルブル。


『やだ、寝ちゃった。帰ってきたかしら?』


 女性の声がして、固まる。

 間違いなく、寝室の方から、聞こえた心の声。


 ホラー映画で、物音がした方へ行ってしまう登場人物の心理がわからないと、母達が話していたことがある。

 絶対に危ないだろうに、なんで行くんだって。

 確認して、安心したいがためでしょ。と、私は推測を言った。

 そこに何もないと、自分の目で確認するため。


 私は。

 恐る恐ると、寝室を覗いた。

 ベッドの上には、ボブヘアーの女性が寝そべっている。際どい白のベビードールを着て。


「キャッ!? 誰!?」


 女性は私を見るなり、驚いた顔で掛け布団で身を隠す。


 いや。私も誰って聞きたい。

 でも、パニクって、咄嗟に。


「すみません! 家を間違えました!!」


 パタンッ! と寝室のドアを閉じた。


『え!? 家を間違える!? 鍵閉めたはずよね!? 誰なの? 竜ヶ崎さんの妹っ?』


 ヒヤリと冷たい焦りが、身体に広がる。


 う、浮気、現場……?



 ……………………数斗さんに限って、浮気?



 こてん、とすぐに、そうは思えなくて、首を傾げてしまった。


 普通のカップルなら、浮気なんてするはずない! って、裏切りを認めたくなくって、相手を信じたがるだろうけれども……。



 数斗さんの私への溺愛を考えれば、あり得ないと断言が出来てしまう。



 あの想いの強さで、浮気なんてしていたら、私、もう人間を信用するの、やめる。


 他の女性に触れるどころか、見向きもしないレベルには、私に一途だ。


 ……で。誰だろう。あの人。と、なる。……数斗さんが浮気とはあり得ない。だけど、そこにいた。


 薔薇の花びらでムード作りをして、ベビードールで待ち構えてるのは…………も、もしや? え、ええぇ……。


 さらに怖くなってしまい、買い物を抱えて、退散しようとした。


『まさか、本当にカノジョがいたの? そんなわけないわよね。だって、竜ヶ崎さんは()()()()()()()()()()。例えカノジョだとしても、浮気されたって思うわよね。あんな子と別れるいいきっかけ! これでアタシと結ばれるわ!』


 あ、あぁ〜! 数斗さんが、気があるなんて、あり得ませんよ〜!

 とか、教えてあげたい気持ちにはなったけれど、身の安全が優先。


『早く帰ってきて〜竜ヶ崎さぁん』


 甘ったるい声で待ち焦がれる彼女の声を聞きつつ、玄関を出た。


 ……数斗さんは、私を一途に溺愛中。

 フラれたら死ねると思うほどに、一生の愛を注ぐ気満々の人。


 一体どうして、そんな数斗さんが、自分に気があるなんて思い込んでいるのやら……?

 とりあえず…………()()()()()ってことは、間違いない。


 ポカーン、と口を半開きにしたまま、エレベーターで降りた。


 あ。警察に連絡、すべき?

 こういうケースって、どうなんだろう? 数斗さんが、二股疑惑をかけられちゃうのかな……。

 あ。先に、本人の数斗さんに、連絡すべきか。


 そう思って、フラフラとエントランスに歩きながら、数斗さんにメッセージを残そうとした。まだ仕事中のはずだから。

 でも、既読がついていることに気付く。


 あれ? と思っていれば、エントランスに数斗さんの姿を見付けた。


『七羽ちゃん? わぁ、可愛いな。綺麗に髪を撒いて、あのワンピ着てくれてる。ちょうどよかった』


 数斗さんもこちらに気付いて、ガラス越しに、ひらひらと笑顔で手を振る。

 初デートに私が選んだ水色の細かいストライプのワイシャツ姿だ。


 ……うん。数斗さんは、浮気しないな。


 例え、万が一にも、していたとしても、だ。鉢合わせさせるなんて、こんなミスはしないだろう。


「数斗さん。お疲れ様です」

「七羽ちゃんも、お疲れ様」


 中からだけ自動で開くドアを開けば、数斗さんは漁っていたバックを下ろした。


「お仕事、早かったですね?」

「早く上がれたから、一緒に作ろうかと思って。……なんで出てきたの? 鍵失くしちゃったみたいで、開けてもらおうと思っていたから、ちょうどよかったけど」


 なるほど。家のキーケースが見つからず、バックを漁っていたわけか……。


「どこかに落としました?」

「んー、そうかもね。バックから、落としちゃったのかな。車の中か、職場の更衣室のロッカーか……まぁ、見付かるよ」

『キーケースだし、すぐ見付かる』


 ……職場、か。ふむ……。


 数斗さんのバックの中には、キーケースが三つ。バックを開ければ、すぐに見つかるのは、二つだ。車と家のもの。車の鍵は、ドアロックを外したりかけたりするボタン式でもあるので、家の鍵と区別が出来る。


 家の鍵のキーケースが紛失した日に、見知らぬ女性が寝室にいた…………怖いね?


「七羽ちゃん?」


 数斗さんに歩み寄って、背中に腕を回して、ギュッと抱き付いた。


『えっ? 七羽ちゃんから、抱き付いてくれた??? 可愛いな??? ハッピーバースデー???』


 誰も誕生日ではないですよ、数斗さん。

 浮気はないな、うん。


「数斗さん……前に引っ越したいって、言ってましたよね?」

「うん? そうだけど?」

『可愛い……。でも、なんで引っ越しの話?』


 彼の胸に顎を置くように見上げれば、私の背にも自分の腕を回した数斗さんは、ニコニコとご機嫌に見下ろす。

 緩い力で腕の中に閉じ込めながら、軽く左右に揺れる。


「もっとセキュリティーの厳重なところに引っ越すべきかと」

「ん? どうして?」


 パチパチ、と目を瞬かせる数斗さん。

 眉を下げて、私は教えた。


「数斗さんの寝室のベッドの上に、知らない女性がいましたよ」

「…………えっ?」


 数斗さんは、ポカンとして、理解することに時間がかかり、それから、強張った顔で首を捻る。


「……幽霊、的な、ヤツ……?」

「幽霊は、廊下に薔薇の花びらは撒かないかと……」

「薔薇の花びら???」

「本物の花びらでしたよ」

「えっ? ……えっ???」


 私の知らない女性。

 それで、真っ先に幽霊を見たのかと考えてしまう辺り、家に待ち構えるような女性は、思い当たらないのだろう。

 そういえば、私以外に恋人は招いたこともなかったとも言ってたっけ……うわあ。


 花びらが廊下に撒かれていたという情報で、数斗さんはさらに混乱した。


「職場のロッカーは……誰でも開けやすいですか?」


 ヒュッ、と数斗さんは、喉を鳴らす。

 顔色が見る見る悪くなり、私を一度キツく抱き締めた。


「え? な、七羽ちゃん? 大丈夫? 大丈夫だよね? 何もされてない? 平気?」


 それから、私を一度放して、頭の上から、ブーティのつま先まで、何度も往復して確認。


「はい。部屋間違えましたって言って、すぐに出ましたので……」

「そ、そっか。よかった。よかった、無事で……」


 またキツいくらいに抱き締めると、安堵の息を深く吐いた。


「怖かったでしょ?」

『よりにもよって、七羽ちゃんと鉢合わせなんて……最悪なことにならなくてよかった……』

「ええ、まぁ。数斗さんが帰ってるわけないと思いましたし……海外ドラマで薔薇の花びらを辿った先に死体があったというシーンを思い出しちゃって……」

「こわ……。七羽ちゃんに危害を加えなくて幸いだけど……何か話した?」

「悲鳴を上げて誰って、訊かれちゃいました」

「こっちのセリフだよね???」

『こわ。誰だよ、ホント。職場の誰だろうか……今日休みの人って誰だったっけ……』


 顔を曇らせながら、私の頭を撫でていた数斗さんは、ふと、気付く。


「…………俺の浮気相手だと思った?」


 まさかと、数斗さんは私の顔を覗き込んだ。


「……一瞬」

『誰だよ、殺すッ!! 怖がらせた上に、浮気だと思わせて!! 殺す!!』


 お、おおっ……今まで以上に、殺意に直結してしまう怒りの声が強く響いた。その心の声に、引き腰になる。


「本当に、一瞬ですよ。数斗さんに限って、あり得ないなって……。むしろ、一瞬でも、浮気相手と遭遇してしまったとか思っちゃって、ごめんなさい……」

「えっ……謝らなくても」

「それくらい、数斗さんが一途に想ってくれてるってわかってましたので」

『七羽ちゃん……!』

「不法侵入者だなって思って、出てきたところです」

「七羽ちゃんが無事で、本当によかった」


 またもや、数斗さんは私を抱き締めた。

 ジーン、と胸を熱くさせながら。


「とりあえず、警察に通報ですか?」

「うん、そうだね……」


 数斗さんは深刻そうに顔を曇らせたまま、私の手を引いて、エントランスを出た。

 すぐそばの花壇の縁に私を座らせると、目の前にしゃがんで、祈るように私の両手を包んで握る。


「本当にごめん。こんな……こんな事件に巻き込んじゃって……怖い思いさせた」

「数斗さんのせいではないでしょ?」

「ううん。また女性絡みで、七羽ちゃんに迷惑をかけた……どう償えばいいか……ごめん。申し訳ない」


 まるで懺悔だ。

 最初は、数斗さんの暴力的な元カノ。次は数斗さん狙いの外面が厚すぎた腹黒女子。今回は、数斗さんを待ち構えた不法侵入者。


『これじゃあ、俺と付き合うことが、嫌にもなる……。不法侵入者と遭遇する事件にまで遭わせて…………怪我を負わせられなかったから、いいものを。事件は事件だ』


 心から、数斗さんは自分を責めた。


「……数斗さん。女難の相では?」

「…………そうかも。全部、七羽ちゃんを巻き込むなんて……最悪な女難の相だ」


 数斗さんの顔は、晴れない。


「んー、でも……もしかしたら、私のせいかもしれませんね?」

「え? 何を言い出すの?」

「だって、私のせいで短気な元カノに平手打ちされちゃいましたし、腹黒な女性は私から寝取るために親友の真樹さんを利用しようとしましたし……私が鉢合わせしなければ、数斗さんもこんなに自分を責めなかったでしょう? 元凶は、私かと」

「そんなことない! 七羽ちゃんは悪くないから! 女難の相だとしても、七羽ちゃんは例外!」

「でも、女難の相って、女性に振り回されるってことも含まれてますし、私はそれに該当するのでは?」

「そうだとしても、七羽ちゃんになら、振り回しても構わない!」

『俺から離れなければ! どんなに振り回されてもいい!』


 ”どんなに振り回されてもいい”って……もう。

 これだから、一瞬でも浮気を疑ったことが申し訳ない、と苦笑いしてしまう。


「そうですか。じゃあ、女性絡みの修羅場の渦中にいた私を許してくださいね?」

「…………ずるい」

「ええ。数斗さんはずるく振り回しても構わないのでしょう?」


 数斗さんは言質を取られたことに、むくれ気味。

『小悪魔……』と、心の声も、不貞腐れ気味だ。


 私は数斗さんの顔を両手で固定するように包み、上を向くように持ち上げた。

 そして、左頬に唇を軽く押し付ける。


「許してくれます?」


 目を見開いて固まる数斗さんに、はにかんで見せた。

 初めての私からのキス。

 ただの頬にキスだけど。


「え……だめ。好き」

「え? どっちですか?」


 心の声と混同してます?


「好き。許す」


 数斗さんは脱力して、私の膝に額を押し付けた。


『……いや、なんで、俺が許す側になってるの???』


 してやったりである。

 数斗さんを言いくるめるのに成功。


 ふふっと笑って、数斗さんの頭を優しく撫でた。



 


してやったりな小悪魔な天使ちゃん。(どっち)


2023/10/18

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