商店街の人込み
「あの、何でこの紳士服がこれだけ高いのか教えてもらってもいいですか?」
「ブラックスパイダーの出した糸とニグレードスネークの皮は中々手に入らない素材なんですよ」
「希少な素材だから高いんですね」
「はい。特にブラックスパイダーの出した糸はごく少量しか取れません。しなやかにも拘わらず鋼よりも硬い糸で簡単には千切れませんし、解れません」
「鋼より強い糸ってすごいですね」
「ニグレードスネークの皮は伸縮性に優れ、魔法攻撃と物理攻撃に対して中の耐性を持っています。ですから、チンピラの喧嘩でしたら紳士服が攻撃を吸収して服を着ている者に加えられる威力を弱めます」
「服に攻撃しても力が吸収される……。そんなことが可能なんですね。紳士服はどうやって手に入れたんですか?」
「王都の知り合いが金貨一〇〇〇枚の品を六〇〇枚で買ってくれないかと言われまして」
「金貨六〇〇枚……」
「さらにまけてもらい、金貨五〇〇枚で買ったのはいいものの、ルフス領で売り出しても全く売れず、どんどん値段を下げて最安値にまで下げたのですが買われなかったので、今回お客様に購入してもらえてとても感謝しているんですよ」
「金貨五〇〇枚が金貨二〇〇枚……。大損ですね」
「はい。ですが買われなければ金貨五〇〇枚失っていましたから、二〇〇枚で売れただけでもありがたいですよ。本当にありがとうございます」
「いえいえ。僕もまさか元値金貨一〇〇〇枚の紳士服が買えるなんて思っていませんでしたから、凄く嬉しいです」
「ではこちらかも質問してよろしいですか?」
「はい。答えられる質問なら答えます」
「お客様はなぜ、高額な紳士服を必要とされているんですか?」
「それは……、買って着て来いと言われたからです」
「いったい誰に……」
「それは言えません」
「そうですか。厚かましく質問してしまい申し訳ありません」
「いえいえ、さすがに気になりますよね。僕みたいなひよっこが高額な紳士服を買うだなんて、普通おかしいと思いますよ」
体の採寸が終わり、店長は向かいのソファーに腰を掛けた。
「では、金貨の方を数えます」
「はい。えっと、細かい硬貨も多いのですみません」
「問題ありませんよ」
店長は僕の持ってきた袋の口を開けて鉄製の板にジャラジャラと落とし、ばらけさせた。
金貨と銀貨が多く、数えるのがとても面倒くさそうだ。
――これなら、ちゃんと仕分けてから持ってこればよかった。
「『黄色魔法:ボルト』」
店長は金属製の板に魔法を流した。
板に魔法陣が浮かび上がっている。加えて、板の上に乗っていた金貨と銀貨が枚数ごとに積み上がり、綺麗に並んだ。
「一柱が硬貨一〇枚なので、金貨一九〇枚。銀貨二〇〇枚。確かに金貨二一〇枚分の硬貨がありますね。では、お預かりいたします」
店長は板を持ちながらお店の奥へと入っていった。
「今の凄い便利な魔法だったな」
僕は枚数を手で数えていたので結構な時間が掛かっていた。
だが、魔法では一瞬で分けられており、魔法の便利さを知った。
――あんなに便利な魔法があるのなら、もう手動に戻れないよな……きっと。
「お飲み物をお持ちしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
僕は店員さんに水でもなく、お茶でもなく、コーヒーでもなく、色からしてリンゴジュースを出された。
――僕って子供っぽいのかな。いや、このお店には今、リンゴジュースしかないんだ。うん。そうに、決まっている。
僕は出された液体のにおいを嗅いで、リンゴジュースだと確信した後、一口飲んだ。
「美味い……。甘さと酸味が丁度いい」
出されたリンゴジュースは高級感溢れる味だった。
王都で出されていてもおかしくない。
――さすが高級店。これほどまで美味しいリンゴジュースが飲めると思わなかったよ。まぁ、少し不服なんだけど。
僕は自分を大人っぽいと全く思っていない。
だが、子供扱いされるのはいけ好かない。
――シトラは僕を散々子供呼ばわりしてきたからな、そのせいで情けなく思われていたのかもしれない。だから僕が一緒に逃げようと言っても付いてきてくれなかったんだ。そう思うのが一番自然な気がする。
少しして、店長さんが戻ってきた。
「お客様。こちら購入証明書にございます」
「ありがとうございます」
僕は店長さんから紳士服と白の長袖シャツを買ったと証明する書類を貰い、懐に閉まった。
「仕立てが終わるまで約一週間かかります。一週間たった後にまた取りに来ていただけますでしょうか」
「あ、そうですよね。そんなすぐには終わりませんよね」
――買ったとすぐに領主邸に行こうとしていたのが少し恥ずかしい。
僕は紳士服のお店をあとにする。
「お買い上げ、ありがとうございました」
店員さんと店長が僕に頭を下げながら見送ってくれた。
――はじめから、終わりまで丁寧なお店だな。さすが高級店。
この後の予定が無くなってしまった。せっかく今日は休みにしてもらったのに、予定がなくなると僕はどうしたらいいか毎回悩んでしまう。無趣味なのが辛い……。
僕は黒卵さんを抱きながら、ルフス領の街を歩いていた。
――せっかくの休みなんだ街をぶらぶらと散歩でもしようか。何か面白いものが見つかるかもしれない。
僕は冒険者の格好のまま、多くの人がごった返す繁華街にやってきた。
人ごみの中を縫って歩いてく。
――いやぁ、さすがに人が多いな。お金になりそうな物は何も持っていないからいいけど、お金を持っていたら簡単に盗まれそうなくらい人が密集している。あまり人なれしていない僕が来たのが間違いだったのかな。人が多すぎて酔ってきた。
僕はとりあえず人ごみを抜けたいがために歩いた。
一〇〇メートルくらい歩いたところで、人ごみからようやく抜ける。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと抜けた。何でこんなに多くの人がこの場所にいるんだ」
僕は膝に手を置いて、前かがみになっていた。
「あれ? キース君」
前の方から聞き覚えのある声がした。
僕は頭を上げて声の主を確認する。
「え……。ロミアさん?」
僕の目の前にいたのは私服姿のロミアさんだった。
冒険者の衣装とは打って変わって露出度が少し低めだった。
いや、脚や胸はいつも通り肌が結構出ている。わざと見せているのかな。
光沢のある赤色の生地で作られたワンピースを着ており、髪も綺麗に整えられて着飾っている。




