体の採寸
今日、僕はアイクさんに仕事を休ませてもらった。
久しぶりの休暇だが、休んでいる暇はない。
今すぐ、紳士服を買いに行って領主邸に向いたいが今の時刻は午前〇時だ。
魔法の練習、鍛錬、瞑想を各一時間ずつ行い、午前三時に終わった。
今から何しようかと思ったが、もう一度同じ工程を繰り返そうと考えた。
そうすれば午前六時になりもう一度行えば午前九時になる。
お店は午前九時ごろに開店するため、あと二回同じ工程を繰り返す。
僕は何かにとりつかれたように工程をこなし、アイクさんの作った朝食を得て冒険者の服装を着る。
着替え終わった後、お店から出ようとした。すると、アイクさんが話しかけてきた。
「今日は紅葉祭がやっているから、話が着いたら紅葉祭にでも行ってくるといい。少しは楽しめるはずだ」
「紅葉祭?」
「街を歩いていれば、わかるさ」
僕はとりあえず頭の片隅に紅葉祭と言う単語を入れておく。
――今は紳士服の方が重要だ。あまり考えない様にしよう。
僕はアイクさんのお店を出て、三週間に訪れた高級な紳士服を売っているお店にやってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ。とうとう来た。九月一五日に来て、今日は一〇月八日。最初の見立てでは三ヶ月かかると思っていたけど、寝なかったおかげか三週間にまで早めてやったぞ」
全力疾走でお店まで来たので、お僕は過呼吸気味になっていた。
「領主も驚くだろうな。きっと白髪の僕が金貨二〇〇枚をここまで早く貯められるとは思っていなかっただろう。一二週間かかるはずだったのに、三週間で貯めたってことは四倍も早くなっている。よし、仕立て用の金貨も一応金貨一〇枚用意した。何とかなるはずだ。行こう」
僕は紳士服のお店に入った。
「いらっしゃいませ。あら、白髪のお客様。お久しぶりですね」
店員さんは僕を覚えていた。と言うよりも白髪で覚えられている可能性が高い。
若い顏で白髪なのは僕くらいだ。
お爺ちゃんお婆ちゃんになると髪の色が抜けていき、色が薄くなっていく。
最終的に真っ白になってしまうのだ。
これは三原色の魔力が年を取るにつれて薄まっているからだと言われているらしい。
「えっと、僕の取り置きはありますか?」
「はい、あちらにありますよ」
僕は店員さんに連れられ、取り置きしてもらっていたブラックスパイダーの出した糸とニグレードスネークの皮を使った紳士服の前に来た。
紳士服はケースに囲まれ、魔石の明りが真っ黒の生地に当たっているにも拘らず、光が全く反射しないため、どこか黒卵さんを思わせる紳士服だった。
値札の位置に取り置きと書かれた光沢のある長方形の板が立て掛けられている。
僕は三週間前に見た紳士服を再度見つめて見惚れていた。
「あの……、お客様。どうなさいましたか?」
「い、いえ。すみません。少し、見惚れていました」
「そうですか。それで、今日はいったい何用でしょうか?」
「あ、今日はこの紳士服を買いに来ました」
僕は金貨二〇〇枚入った袋を見せる。
「え……。もぅ、金貨二〇〇枚を用意なさったんですか?」
店員さんはとても驚いているのか、一瞬目を見開いた後、目をすぐに細めて疑いの念を掛けてくる。
「申し訳ありませんが、それは本当にお客様のお金でしょうか?」
「正真正銘、僕が稼いだお金です」
「えっと……職業をお聞かせ願ってもいいですかね?」
「主に飲食店で雑用をやっています。あと副業で冒険者を少し」
「その二種類の職で金貨二〇〇枚を貯めたんですか。以前いらしたのは確か三週間ほど前でしたよね。一ヶ月も経っていないのに金貨二〇〇枚を稼ぐなんて……。普通に働いていませんよね?」
「そうですね、もうかれこれ一〇日間は眠っていません。二〇時間全力で働いて三時間ほど休んで、を繰り返しています」
「そ、そんな生活で、何で生きているんですか……?」
店員さんは僕を恐怖の対象でも見るかのような眼を向けてきた。
「僕にもわかりません。でも、この金貨は僕が稼いだお金です。証拠になるかわかりませんが、一応ギルドカード(仮)を持ってきました。ルフス領内なら身分証明書になるはずです。盗んだお金を使って買い物をする者が自分の情報を曝したりしませんよね」
「そ、そうですけど……。と、とりあえず、高額商品をお買い上げ希望の方は特別室にお越しください」
店員さんは僕を別室に案内した。
高級感溢れる部屋で無駄な物が全く置いていない。
二人掛けのソファーが二台、その間に透明な低いテーブルが一台あるだけの部屋だ。
「店長をお呼びいたしますのでここでお待ちください」
「は、はい……」
――ど、どうしよう。こんな場所に始めてきたから変に緊張する。と言うか、こんな格好で来ていい場所なのか。もっと普通の服でこればよかったかも……。
僕は自分の服を持っていなかったので、冒険者用の服を着てきた。
紳士服を買う場所なのに、正反対の冒険者の服を着てくるのは何かおかしいと思ったが真面な服がこれしかなかったので仕方ない。
僕は黒卵さんの入った革袋を膝の上に乗せる。
金貨の入った袋はテーブルの上に置いた。
少しして、黄色い短髪を整え綺麗な紳士服を着た男性が部屋に入ってきた。
「どうも初めまして。今日はようこそお越しいただきました」
「は、はい」
「今日は取り置きいただいた商品の購入を確定されるということでいらしたんですよね?」
「そうです。買いに来ました」
「わかりました。では、ただ今お持ちいたします」
店長は立ち上がり、僕の買う予定の紳士服を持ってきた。
「こちらでお間違いありませんね?」
「そうです」
「では、仕立てますので採寸いたします」
店長は巻き尺を取り出し僕の体を測り始めた。
「えっと、仕立ては別料金ですかね?」
「いえ。無料ですよ」
「あ、そうなんですか」
僕は採寸されている最中に気づいた。
――あ、シャツをもっていない。紳士服だけじゃ意味なかった。
「すみません。白いシャツで一番高い品っていくらですかね?」
「そうですね。金貨一〇枚くらいですかね。当店ではお客様の体を採寸して体に合った品を仕立てていますから世界に一枚しかない品をおつくりします」
「金貨一〇枚……。紳士服と比べると安く感じますね」
「十分高い品ですよ」
「えっと、じゃあ白い長そでシャツも一枚お願してもいいですか?」
「承りました。では、このまま採寸いたしますね」
「はい。お願いします」
店長さんは物凄く早い手際で僕の体を採寸していった。さすが本職とでもいうべきか。




