ギルドへの寄付金
「そんなのわかっているわよ。フレイのせいで本当に大変なんだからね。店を壊し、女性を傷つけ、飲食代を払わない。フレイを注意しようにも力の差が大きすぎて注意できないのよ。フレイに対抗できるのは領外にいる他の勇者くらいしかいない。ルフス領にいる者でぎりぎり抵抗できるのは領主くらい」
「なら、なおさら、その金は大切に使わないといけないだろうが。キースが、金は要らないと言っているんだ。ありがたくもらっておけ」
「そうですよ。僕は自分で稼いだお金を使って大切な者を助けます。危険な場所にいる訳じゃないんです。時間を掛ければ、絶対に助け出せるはずなので僕に払う予定だったお金はルフスギルドで使ってください」
「ほ、本当にいいの……?」
ミリアさんは既に泣きそうな顔になっている。
「はい。いきなり大金を貰ったら僕が不正しているみたいで怖いです。領主と話を付けるには僕が自分でお金を稼がないと意味がありません」
「だそうだ。ミリア、その金は大切に使えよ。何度もこんな好機が巡り込んでくるわけじゃない」
「うぅ……。ありがとう~、キース君!」
「うわっ! ちょ、ミリアさん! 放してください!」
ミリアさんは僕に抱き着いてきた。豊満な胸が僕との間に挟まれている。
「ごめんなさい。嬉しくなっちゃってつい」
ミリアさんは僕からすぐに離れた。
「たく、キースは子供じゃないんだ。子供扱いするんじゃない」
アイクさんは少し羨ましそうな顔で僕の方を見ていた。
「そうね。あ、そうだ。今回の金貨は寄付金と言う形式でルフスギルドに提出するのはどう?」
「寄付金?」
「なるほどな。それならありかもしれない」
「えっと、いったいなんの話をしているんですか?」
「ギルドにお金を寄付するとね、特典がもらえるのよ」
「特典ですか。いったいどんな特典がもらえるんですか?」
「一番大きいのは報酬額が寄付金の額によって最大三割増しになるの。この特典は寄付金を出したギルドにしか効果がない。例えばルフスギルドに寄付したら、ルフスギルド関連のギルドならどこでも特典を受けられるけど、他のギルドでは特典が受けられない」
「金貨五〇〇〇枚だとどうなるんですか……」
「金貨五〇〇〇枚なら文句なしで三割増しになるわね。他にも交通費の免除や医療機関を使う際、割安になったりするの。まぁ、どれもルフス領内だけなんだけどね」
「だが、寄付金として渡す方が無償で渡すより利益は大きい。それくらいの特典なら貰ってもいいんじゃないか?」
「確かに。僕がギルドを助けられるのは変わらないのなら、そう言った形式でも構いません。ただ、名前や情報の漏洩だけはやめてください」
「ええ、もちろんよ。寄付者がそれを望むなら私達は何があっても漏洩しない。寄付されたと言いう事実が残るだけ。キース君の名前や情報は一切記録しないから安心して」
「ありがとうございます。これでまた、お金が溜まる速度が少しだけ上がりました」
夜中、ルフスギルドに金貨五〇〇〇枚を寄付する形で話が進められた。
僕は金額の大きさに何度も戸惑いながら、黒卵さんを抱えて自室に戻った。
「あれだけ動いても眠たくならない。動き続けても眠たくならないなんて本当に僕の体、どうなっちゃったんだろう。ってまた考えても答えが見つからない疑問で悩んじゃったよ。自分の体よりシトラの方を心配しないと」
僕は眼を少しだけ瞑ってシトラの顔を思い出した。
すると、裸体の姿まで思い出してしまい、思いっきり顔を振る。
「シトラ、食事させてもらっているかな。あの領主に何されているんだろう。僕が助けるからあと少しだけ待っていて。絶対に助け出すから」
その日の夜も結局眠れなかった。
僕はいつになったら眠れるのだろうか。
でも、眠れなくなったおかげで多くの時間を使えて仕事で出来なかった鍛錬や休憩の時間が取れている。
実際眠っていた時よりも体調がいいと思う時さえある。
☆☆☆☆
九月二八日(晴)
今日は昨日の仕事を、仕事で取り返すべく、午前〇時から作業を始めた。
自分の仕事とアイクさんの仕事をこなし、アイクさんの作業量を少しでも減らす。
仕込みはいつも分担して行っているが、今日は四時間かけて僕一人で朝の仕込みを終わらせた。
午前四時から一時間店内と外の掃除をこなし、テーブルや椅子をピッカピカに磨き上げる。
いつもは時間が足りずに掃除できないガラス窓まで手を回し、新品さながらの透明度を出す。
午前五時からビラを配り周り、いつもの倍の枚数を配って行った。
午前六時三〇分にお店に戻ってきた。
アイクさんは何が起こったのか分からないと言った顔になっており、美味しい朝食だけが調理台の上に乗っていた。
僕は朝食を食べきり、昨日とは別の冒険者の服を着た。
昨日の冒険者服がまだ乾いておらず、びちゃびちゃだったため、アイクさんが新しく貸してくれた。
僕は午前六時五五分にお店を出て午前七時にルフスギルドに到着した。
昨日と同じく、薬草採取とスライムの討伐、二種類の依頼を受ける。
淡々と作業をこなし、午前一一時三〇分にルフスギルドに帰って来れたので金貨八枚分の依頼をこなした。
その時にミリアさんが手を回してくれていたのか、報酬が三割増しになっており、依頼通りなら金貨八枚しかもらえないところを、金貨一〇枚と銀貨四枚を貰った。
昨日より金貨二枚と銀貨四枚も違う。
もし、この生活を続けていたら、金貨五〇〇〇枚分を回収するのに二〇八二回。
つまり、約六年間毎日同じ仕事をこなしたら寄付金を回収できる計算だ。その後は僕の手もとにお金が増え続けていく。
でも、もっと報酬の高い依頼を受ければその分、割増されるのでルフスギルドで依頼を受けることがとても効率が良くなった。
だが、僕はアイクさんのお店で働くことを決して止めない。
毎時間働いてお金を稼ぐ。シトラを助ける為にはお金が必要なのだ。
アイクさんのお店で、午前〇時から午前六時まで働き、正午から午後一〇時まで働き、計一六時間。
時給が銀貨三枚なので金貨四枚と銀貨八枚。
二種類の仕事を合わせて金貨一五枚と銀貨二枚。
どうやら僕は一日で金貨約一五枚を稼いだらしい。
二〇時間労働、睡眠無し、と言う、普通の人間では到底出来ない所業だが、なぜか今の僕には行えている。
どう考えても黒卵さんの影響としか考えられないのだが、黒卵さんに話しかけても一向に言葉が通じない。
「このまま仕事を続ければ金貨二〇〇枚を貯めるためにあと一〇日。ずっと働きっぱなしだけど、シトラのためを思えば苦に感じないぞ」
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九月二八日が終わり、一〇日後の一〇月八日その日がとうとう来た。
「や、やった。金貨二〇〇枚貯まってる。これで、紳士服が買えるぞ!」
僕はベッドの下に貯めておいた金貨の入った麻袋を持ち、頭上に掲げる。
金貨二〇〇枚の重みは、僕の命の重みだった。金貨一枚は三〇グラムほどらしく、二〇〇枚で六キログラムだ。
「はは……。それにしてもまさか今日まで一睡もせずに働き続けていると、誰も思わないだろうな」




