望んでいた再会のはず……
「なんだ、ガキか……。こんなところで何している?」
僕は顔にいくつもの切り傷のある男性にぶつかってしまった。人を何人も殺してきたとしか思えない眼力によって、体が全く動かない。
身長が僕より二〇センチメートルは高く、一九〇センチメートルを優に越えているだろう。
肩幅も広すぎて、本当に僕と同じ人間かと思ってしまった。
もしかしたら、人の皮を被ったオーガなのではないか、と疑うほどだ。
「す、すみません。前をちゃんと見て歩いていませんでした……。それと、僕は一五歳で成人しています」
「何だ、成人していたのか。まぁ、確かにここは目をそむけたくなるような場所だわな。白髪の兄ちゃん、この場は初めてか?」
「はっ、はい!」
怖い顔の男性から、意外な言葉を掛けられた。
僕は怒鳴られると思って身構えていたため、声が裏返ってしまい恥ずかしさから顔が赤くなる。
「そうか。その見た目からして金持ちの子だろ。庶民はそんな服着ないからな」
「え……、そうだったんですか。僕、生活の正装は黒の紳士服だとずっと思っていました」
「ほらな。そういうところが金持ちの子っぽいんだよ。それで、ここになんの用で来た。金持ちの子が来るような場所じゃないだろ」
僕は自分の服装を指摘され、さらに恥ずかしくなったのだが羞恥心を胸の底にぐっと惜し込めた。
郊外に知り合いのいないため、話し合いができる人を探していた。でも、あまりにも怖すぎて声が掛けられなかった。
そんな中、一番怖い人にぶつかってしまった。これは好機だと思い、少し話してみようと考える。
――この男性は悪い人ではないと話していてわかる。僕を気遣ってくれるなんて……。いい人じゃないと相手を気遣うなんて絶対にしない。
「あの……。僕、家族を探しているんです」
「家族……。奴隷になった家族か?」
「はい」
男性は整えられたマゼンタ色の短髪をかきむしりながら、ため息をつく。
きっと僕の発言があまりにも無謀だと思っているのだろう。
「無謀なのは承知の上です。死んでいるかもしれない……。それもわかっています。でも、僕は探さないといけないんです」
「おいおい、俺はまだ何も言っていないだろ。まぁ、確かに『無謀だろ』と言おうとした。それで、いつ奴隷になった。それによって状況が変わるぞ」
「え……、止めろって言わないんですね……」
僕は無謀な奴隷探しを止めろと言われるとてっきり思っていた。常識のある人なら誰もがそう助言してくれるはずだ……。
それなのに、目の前にいる強面の男性は僕を否定しなかった。
「だってお前……。俺が止めろと言っても、どうせ止めないだろ。お前のそのキラキラ輝いてる眼が言っている。『絶対に諦めません』ってな。ここらで珍しく透き通った瞳をしやがって……。それで、いつなんだ?」
「約一カ月前です……」
「一カ月か。ギリギリだな。お前はどこの領土から来た?」
「王都から来ました」
「な! ガチのボンボンじゃねえか。王都から来たにしちゃ、少しみすぼらしいが……」
「僕は家を追い出されたんです。だから、家族を探せます。ルフス領に来る途中で、列車事件に巻き込まれて服が殆ど燃えてしまったので、似たような服を買いました」
「列車事件……、まあ……、良く生き残っていたな」
「運がよかったので……。でも、きちんとした正装で来るべきでしたね、みすぼらしくてすみません。靴はもとからぼろいんですけど……」
「いや、別にその服で構わない。俺も職業柄、金持ちを知っている。一番の金持ちは紳士服をパリッと着こなしている男だ。そいつと比べてしまった、申し訳ない」
強面の男性は僕に頭を下げて謝ってきた。
「謝らないでください。僕はもうお金持ちじゃありませんから。もともとお金を貰った覚えはありませんけどね」
「そうなのか……。王都の家にも色々な事情があるんだな」
「はい。ほんとに、色々ありますよ……」
「それじゃあ質問の続きだ。探しているのはどんな人間だ?」
「えっと、人間じゃなくて獣人なんです」
「獣人か、種類が多いからな。獣人の種類、年齢と性別、髪の色はなんだ?」
「狼族、一五歳の女子、銀髪です」
「狼族、一五歳の女子、銀髪……。ちょっと待てよ」
強面のおじさんは、自身の手に持っている紙の束をペラペラとめくり始めた。
「王都、一カ月前、銀髪の獣人……。あんた、名前は?」
「キース・ドラグニティです」
強面のおじさんは僕の名前を聞いた瞬間、深刻そうな顔をした。
「キース。お前は運が良いのか悪いのか、どっちだと思う?」
「え……。いきなりなんですか……」
「いいから答えてみろ。お前は運が良いのか悪いのか、どっちだ?」
「僕は確実に運が良いですね。生きる気力になるほど、大好きな相手がいますから」
「そうか……。ちょっと待ってろ」
強面のおじさんは、今にも崩れそうな店の中に入っていった。
少しして、おじさんは大きな檻を担ぎながら、店から出てきた。
「旧名:シトラ・ドラグニティ。年齢一五歳、性別:雌、種族:狼族、髪色:三原色の魔力なしの銀髪、身長:一五八センチメートル、体重:四八キログラム、B:八八(G)、W:五八、H:八八、処女。キースの家族……どう考えてもこいつだよな」
おじさんは担いでいた檻を地面に置く。
地面に置かれた振動を直に受けたのか、檻の中にいた女性が「きゃっ!」と鈴のような愛くるしい声をあげた。
その声は……、僕が一二年間、聞き続けた声だった。
「シトラ!」
僕は黒卵さんを地面に落としているのにも気付かずに檻の柵を両手で掴んでいた。
「キ、キース様。どうして、ここに……」
今のシトラは身ぐるみを全てはがされ、生まれたての状態。
こんな状態でも僕の下半身は興奮しそうになる。
好きな人の一番綺麗な姿を見ているのだから仕方がない。
「あの! 買います! いくらでも出します。お金が足りなければ、死に物狂いで働いて必ず払いきりますから、僕に売ってください!」
「さっきの質問の答え……。まだ言ってなかったな」
「え……。それってどういう意味ですか」
「どうやら、お前の運は悪いみたいだ」
「僕の運が悪い……」
「ああ、そうだ。シトラ・ドラグニティは既に購入されている。お前に売れない」
「そ、そんな! それじゃあ、僕がその人の二倍、いや……三倍でも、四倍でも払います。それでもダメなら、一生働いてでも返し続けます! だから、僕に売ってください!」
「すまない。今回の相手はそうもいかないんだ。いくら金を積まれてもお前には売れない」
「キース様……。私のことはもう、忘れてください。これ以上、あなたの幸せを壊したくない。キース様も知っていますよね。銀髪の狼族は忌み嫌われてるのを……」
シトラは冷たい檻の床でペタンコ座りしていた。胸を抱きかかえるようにして体を隠し、尻尾で股部分を隠している。大きな耳がへたりこんで、真っ白な頬を少しだけ赤らめさせていた。
「その理由は、災いを呼ぶからです。私が奥様に買われてから、あなたは不幸にしか見舞われなかった。それこそが、私が呪われている証拠……」
「うるさい! 僕がいつ不幸だなんて言った! 戯言を吐くのもいいかげんにしろ! それ以上バカなことを言ったら、尻尾の付け根まで見るぞ!」
「そ、それは……。キース様になら……」
シトラは下を向いて反論すらしてこなかった。
「そこはいつもみたいに突っかかって来いよ! 何でそんなに、乙女になっているんだ! 僕に裸を見られてるんだぞ、もっと怒れよ! 鉄格子を破壊するくらいの力で投げ飛ばして来いよ!」
「おい、あんまりここで叫ぶな。眼を付けられるぞ」
「お願いします。おじさん! シトラを……、僕のただ一人の家族を返してください!」
僕は情けなく泣き叫びながら、おじさんの胸ぐらを掴む。
さっきは怖すぎて、震えていたのに、今は全く怖くない。
シトラがいるだけで、頭から恐怖が吹き飛んだ。
「だから、無理だって言っているだろ。交渉しようにも……購入した相手が悪い」
「誰ですか! 僕が説得してみせます!」
「無理だ。喋れない。そういう契約だ」
「ぐっ!」
僕はやけくそになり、強面のおじさんに殴りかかろうとした。
この人が持っている鍵を奪って、シトラと逃げようと考えたのだ。
体の大きさ、筋肉、戦闘経験、何もかも劣っているにもかかわらず、これほどまで無謀な行動がなぜ僕にとれたのか分からない。
ただずっと心に思っていた思いがある。
シトラを取り戻したい。
それだけを考えていたら体が勝手に動いていた。
「ダメです! キース様!」
僕の拳がおじさんの顔面にあたる瞬間。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




