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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第一章 『無限』の可能性

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正義とは何か

「俺は、この剣でレッサードラゴンを一〇〇頭殺した。黒髪はレッサードラゴンよりさすがに強いよな。俺は期待しているんだぜ」


 ――なんだ、フレイの眼……。本当に勇者なのか。暗すぎるだろ。あれを勇者と絶対に呼んではいけない気がする。歴とした殺人犯だ。

 でも勇者は多くの特権があるから、きっと無罪になる。そうなったらあの男は、また意気揚々とこの世界を生きていくんだ。そんな不正が曲がり通っていいのか。いけないだろ。人間を殺してもいい権利はない。同じ種族間で殺しあうのだけは絶対にしちゃいけないんだ。


「これ以上、罪を増やすな! 人を無暗に殺すんじゃない!」


 僕は湖の反対側で叫ぶ。言葉に心の内を乗せて、フレイにぶつけた。もう、死ぬかもしれない。彼が同じ過ちを繰り返さないように心を入れ替えてもらえるよう訴えかける。


「あ? 俺がいつ罪を犯したって言うんだ。俺は襲われたから防衛していただけだろ。その時に放った攻撃が列車に当たっただけだと思うんだがな」


「列車の中には子供もいたんだぞ! このままの生活を続けていたら、お前はいずれ天罰を受ける! 必ずだ!」


「おい、何で俺が黒髪に説教されなきゃならねえんだよ。弱いやつが死ぬのは当たり前だろ!」


「弱いやつが死ぬのは当たり前……。確かに……その通りだ。だからって強い者が弱い者を踏みつけていい訳ないだろ!」


 僕は自分の弱さを知っている。ずっと弱いままこの年まで生きてきた。強くなろうと努力しても、なかなか成長できなかった。

 勇者に成れるほど質の良い魔力を持っていたら僕なら弱者のために使うのに……。


「強さこそ正義、正義こそ強さだ! 異論は認めない! どんな世界にも強者がいる限り弱者はいる。それが自然の摂理ってもんだろ!」


「僕が黒髪になれたなら……。何よりも先にお前を倒して粛清させる。その後、殺した人すべてに謝罪の言葉と誠意の対応を……っ!」


 僕が喋り終わる前に、フレイは掲げていた剣を振り下ろした。すると風圧で湖は真っ二つに割れ、無骨な底が見える。

 距離が離れていたためか、攻撃は辛うじて僕の体に当たらなかった。

 それでも『聖火の剣』の威力はすさまじく、僕の立っていた地面の一〇センチメートル隣は抉れながら焼け焦げている。


「はぁはぁはぁ……。ぼ、僕がまだ話している途中だろ」


「長い。長すぎて飽きた。お前は黒髪のくせに脅威を感じない。人間は強くなればなるほど、人からかけ離れていく。お前はまだ人だ。そこがどうも引っかかる。考え方もおこちゃまだ。夢物語もいいかげんにしろよ」


 フレイの瞳は赤黒くなっており、集中しきった表情が真顔に見える。


「世界は驚くほど単純でわかりやすくできている。強い者が全てを手に入れ、弱い者が搾取される。これが世界の縮図だ。正しい正義なんてものは、この世に存在しない。強い者こそが正義なんだ! だから俺は正義なんだよ!」


 フレイは真顔で呟き、時おり力を込めて叫んでいた。あまりにも情緒不安。

 彼は熱弁しているが、僕はフレイの発言が正しいとどうしても思えない。


「この世で悪を打ち滅ぼせる人間が偉い、だから必要とされている。雑魚は世界のゴミでしかない!」


「正義はこの世に存在しない? そりゃそうだ。正義は人の心の中にある。一人一人が正義なんだ。強い者が正義じゃない……」


 僕はシトラの姿を思い起こしていた。僕が父親や他の仕様人から酷い仕打ちを受けた後、そっと手を差し伸べてくれた。五歳程度のころからずっと……。彼女に支えてもらえなかったら僕は世界を恨んでいただろう。もしかすると、フレイの発言にも納得できていたかもしれない。


「強さ、優しさ、弱さ、悲しさ、いろんな感情が合わさって正義なんだ。強い者が周りを気にせず力をばらまいているのは正義じゃない。自己中心的な暴力行為だ!」


「ちっ! わかったように言いやがって。勇者でもないお前が正義を語っているんじゃねえよ!」


 僕が発言を終えると、フレイは表情を失った。

 先ほども真顔だったが、もう無表情に近い。その顔は、怒り狂っていた時よりも恐怖を感じる。

 瞳の奥は見えないのに、どこまでも深く潜っていけそうなほど赤黒く染まり続けていた。


「何か、やばそうだぞ……。魔力に飲み込まれてるのか。魔力は感情に左右されやすいって本で読んだ気がするけど、人間は力を持つとあそこまで変わるのか……」


 僕が見ているのは既に人ではないと思えた。

 人の皮を被った悪魔のような存在……。そう言ったほうがしっくりくる。


「お前は不愉快だ。目障りだ。視界に入れたくもない……。今すぐ消す、消してやる。跡形もなく……」


「ふ、フレイ。お前は、赤色の勇者なのか……」


 フレイの体から漏れ出している真っ赤に燃えていた炎は揺らぎ、色がしだいに変わっていく。

 赤色からマゼンタ(あかむらさき)色に変わり、手に持っている剣の輝きは澱み始めた。

 眼球から赤黒い涙を流し、白目が赤黒一色になる。もう、普通の人には見えない。


「ひひひひぃひひいぃ……うぅうああぁ……」


 フレイは言葉すら真面に発音できず、その場で頭を抱えている。


「い、いったい何が起こっているんだ……。それより逃げるなら今のうちだ。勇者がおかしくなっている今なら逃げられるかもしれない」


 そう思い、僕はフレイに背を向けて走り始めた。


 ただ、走っていると何か鳥のような陰が一瞬過ぎ去る。次の瞬間、前方にフレイが降って来た。

 勢いが強すぎて地面が抉れ、突風が熱波となって肌を撫でる。


 ――嘘でしょ。湖の端から端まで二キロメートル以上あったはずだ。たった一度の跳躍で僕を追い越した? もう、身体能力が常人じゃない。

 このままじゃ、ダメだ……逃げられない。

 いや、何としてでも逃げる。生き延びる。諦めてたまるか。シトラに告白するんだ! 死ねるわけあるか!


 僕は、断固として死を拒否した。絶対生きると心に決めて未だに持っている革袋を左腕で抱え、右拳を握りしめる。


「はぁあああああああ!」


 弱者お得意の大声を上げながら、フレイ目掛けて拳を振るった。ただ、無鉄砲な拳は当たり前のように空を切る。

 勇者に真面な戦闘経験のない素人が殴り掛かればそうなるのも当たり前だ。


「ぎゃぁ……はは」


 勇者は口角を上げ、誰が見ても不気味な表情で笑っていた。

 人が上げられる口角の限界を超え、目尻にまで伸びているように見えた。

 それはもう悪魔と同じだ。


 先ほどまで光り輝いていたフレイの剣は輝きを失い、紫色っぽい炎に包まれている。

 フレイは毒々しい剣を頭上に大きく掲げ、僕に向って思いっきり振りかざしてきた。


 大ぶりの拳が空を切っているせいで体勢が崩れている状態の僕は剣を避けたくても避けられない。

 フレイはわかっているのか、僕がギリギリ躱せそうな速度にワザとしているようだった。


 ――いやだいやだいやだいやだいやだ! まだ死ねない! 情けなくてもいい、僕は何度だって奇跡に願ってやる!

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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