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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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公約

 チーム編成も終わったのだが、訓練の合間を縫って最終審査に残った勇者候補生の個別インタビューが行われるらしい。


 そんな事は全く知らなかったので、何も準備をせずに部屋に通されてしまった。椅子に腰掛けると既視感のある顔が目に入る。


「あ……お久しぶりです」


 私のインタビューを担当するのは一次審査の時に私の取材についていた女の子だ。


 当時は私につかされるなんて、どれだけ窓際に追いやられている記者なのだろうと思っていたが、蓋を開けてみれば私は最下位から大躍進を遂げた時の人という事もあり、彼女も評価されているみたいだし、私の投票数が増えたのも彼女の記事があればこそだ。


 既に何人かのインタビューを終えたようで、ノートにはびっしりとメモが取られている。そんなに話す事があるのかと少しビクついてしまう。


「早速ですが……勇者になった時の公約について教えて下さい」


「こ、公約?」


「皆さんが勇者になった暁に取り組まれる活動です。社会的に意義のあることであれば何でも。例えば、貧困層への支援拡充を訴えたり平民目線で為政者に意見をするなんて人がいました。変わりどころだと各地の農業の手伝いとして無償で害獣を駆除する、なんて人もいましたよ」


 最後のは何となくランだと思った。それにしても皆、真面目な事を考えているものだと思う。貴族出身の人はまだしも、ランが真面目な話をしているのはどうにも合わない。


 そもそも勇者になれると決まった訳ではないのだが、その前提を取っ払って私に出来る事はなんだろうと思いを馳せる。


 私の生き様として皆に見せられる事。踊り子の名誉回復だろうか。だが、あまりに対象が限定的すぎる。


 これまでに出会ってきた人達の顔を思い浮かべながら考える。ローズ、ダリア、ネリネ、メリア、そしてリリィ。


「私は……男も女も、平民も貴族も関係なく、自由に恋をして、自由に生きられる、そんな世になれば良いなって思います」


「それは……かなり理想論ですね」


「そうですね。でもその理想に向かって必死に足掻いている人がたくさんいて、その人達の足を引っ張る人がいるのも事実です。このまま流されるままに生きていけば良いって人はそのままで良い。でも、自分の意志で流れに逆らっている人は全力で助けたい。そう思います」


「分かりました。ではそのために、具体的にどのような事をされるのでしょうか?」


 意外と深堀されてしまって言葉が詰まる。咄嗟に思いついた事なので具体的に、と言われると何も思い浮かばない。


「そ……そのぉ……きっ、貴族のお嬢様と平民の私が付き合います! まずは私が慣習にとらわれず自由に生きてみます。それを見て笑うも良し、自分もやってみようと思うも良し。そんな姿をお見せします」


「あ……な、なるほど。それは……既に候補の方が? ちなみに、これは記事にはしませんよ」


 記者の女の子はニッコリと笑う。照れながら頷くと身を乗り出して私の手を握ってきた。


「今回のインタビューとは関係ありませんが、是非取材させてください! 興味があります!」


 記者の女の子の目がより一層輝く。


「あ……はい……勇者になれたら……お願いします」


 照れながらもそう言うしかなかった。


 そこからも最終審査への意気込みを話しているとすぐに時間となった。


 部屋から出ると、扉に背を預けてオリーブが待っていた。自分の番を待っていたらしい。


「リフィさん。たまたまなのですが、中のお話が聞こえました。先程の話、どこまで本気なのですか?」


「えぇと……みんなが自由にってやつですか?」


 オリーブは真っ直ぐに私を見て頷く。


「かなり本気です」


「そうですか。その活動の対象に貴族は含まれるのですか?」


 リリィだって貴族だ。そのリリィを巻き込むのだから当然答えはイエス。


「勿論です。でも、急にどうしたんですか?」


「私はエリヤ家の次期当主を自称しています。ただ、貴族社会は男系優位でやってきたところなので、私は精々後見人扱いが関の山。現状、エリヤ家の跡継ぎは私だけなので婿を迎えて子をなし当主とするか、養子を迎えるかの二択になっています。その現状を変えたい。私は私の手でエリヤ家を建て直したいのです」


「女性当主となる事を認めてもらう。その力添えをして欲しい、ということですか?」


 オリーブは「はい」と言って頷く。


 私が勇者になれるかも分からないのにこんな事をお願いしてくるのだから、とにかく使えるものは何でも使おうと思っているのだろう。


「勇者になれたら、ですけどね。オリーブさんが自分でなる方が早いですよ」


「それはその通りです。ですが、何事も万が一、と言うことがあります。その時になって慌てふためくよりは、一時の恥を忍んでお願いする方がマシというものです。それでは」


 言いたいことを言ってオリーブはインタビューのために部屋へと入っていった。





 数日後、遂に最終審査の日がやってきた。


 結局、リリィはレンとオリーブに作戦を明かさなかった。私が踊っている間に無防備な敵を倒すだけなので作戦も何もないけれど。


 だが、二人は納得行っていないようで、四人の控室でリリィに詰め寄っている。


「リリィさん。貴女には失望しましたわ。最後の最後で個人的な感情を優先されたのですね」


「オリーブ、落ち着いて。そんな事じゃないから」


 リリィが困ったように私に視線を投げてくる。ここで踊れと言いたげな視線だ。


 首を横に振ると、「早くやれ」と口パクで私に訴えかけてきた。これは大きな貸しになりそうだ。指を三本立てるとリリィは二本で返してきた。何を貸し借りする訳でもないが、二回は私の言う事を聞いてくれるのだろう。


「オリーブさん、こっちを向いてください」


「はぁ……なんですかっ……なんて事……」


 オリーブは振り向くなり顔を手で覆う。目の前で私がいやらしく腰を振って踊っているのだから当然の反応かもしれない。


 それでもオリーブの顔は徐々に蕩けてくる。さすがに本番の前に気持ち良くなられても困るので、途中で踊りを打ち切る。


「こ……これは?」


「リフィ、どうせなら最後までやってしまえばいいじゃない」


 戸惑うオリーブで楽しむようにリリィが囃し立てる。


「やりませんって。これを相手チームの人にブチかまします。そうしたら勝手に倒れてくれるんで皆でやっつけちゃってください。そういえば模擬戦ってどうやったら勝ちなんですか?」


「相手が降参するか、懐に忍ばせたハンカチを奪い取ったら勝ち。優秀な治癒師が待機しているから死ぬ事以外は無傷よ。メリアも来ているらしいから死ぬ事も無傷かもね」


 リリィが説明してくれる。友達に見せる晴れ姿がこれとは何とも悲しい気持ちになるが、勝てば官軍。覚悟を決めて開き直るしかない。


「意外と本格的な殺し合いをさせるんですね……」


「勇者になれば人と戦う機会もありますからね。そういう意味では資質を見られているとも言えますよ。まぁ、死ぬ事すらかすり傷扱いなら好き放題にできますね」


 レンとは下着泥棒をして以来、あまり話したことはなかったが、さっぱりした性格をしていることに気づく。リリィに似て頼りがいがありそうだ。


「そろそろ時間よ。勝ちましょうね」


 リリィの先導で控室を出て会場へ向かう。


 薄暗い石造りの廊下を進むと、円形の闘技場の中に出た。


 観客席を埋め尽くす人の山。ぬるっと入場してしまったが、それでも観客の歓声で会場が崩れないかとヒヤヒヤしてしまうくらいだ。


「リリーちゃん! 頑張れぇ!」


 振り返って客席を見上げると、メリアとダリアが並んで座っていた。ダリアの膝に乗っているのは子供だろう。三人に向かって手を振り返す。


 多分、今日ここに来ている人たちが期待しているのは、剣が交わり火花を散らし、魔法がぶつかり合い衝撃波を飛ばすような戦い。


 だが、そうはならない。私がトゥワークで全員を無力化するからだ。


 反対側の入場口にはピオニーとランが見える。敵として戦う事になるとは思わなかった。


『それでは、皆様。戦いの準備をお願いいたします!』


 司会の合図で私達と相手のチームが戦闘態勢を取る。


 戦闘開始の銅鑼の音と同時に私は相手のチームに背を向け、腰をグッと落とす。


 客席からの野次も歓声も全てを無視した。ただ勝つために踊る。音楽も何もないけれど、歓声や囃し立てる時に何かを叩く音が四つ打ちのリズムに収束していくのでそれに合わせて踊る。


 皆が私の踊りを見てくれている。これが私だ、と全国民に向けてアピールする。


 少し腰を振ると、リリィ達が相手チームに向かって歩き出した。


 私も踊りながら前を見ると、うつ伏せか仰向けかの違いはあれど、四人ともがその場で倒れていた。リリィ達が悶えている四人からハンカチを抜き取っている。


 戦闘開始の合図からものの数十秒で、あっさりと私達は一戦目を勝利した。

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