接触
リリィの予想通り、与し易いと判断されたのか私のところへアカツが近づいてきた。
取り込まれるつもりはないけれど、下手なことを言ってもリリィに不利になってしまうかもしれないので緊張する。
「ご……ご無沙汰しています」
「そんなに畏まらないでください。少しお話をしても?」
頷くとアカツが続ける。
「娘の……リリィの事なのですが、単刀直入に申し上げると勇者になる事を諦めさせたいのです」
本当に直球で投げ込んできた。逆に他の狙いがあるのではないかと疑ってしまうくらいだ。
「何故ですか?」
「私の娘だからです。お転婆なのは幼いうちだけだと思っていたのですが、あの年になってもまだまだ探究心や冒険心が旺盛でしてね。貴族の世界ではもう十分に行き遅れ。そろそろ結婚をさせないと本当に一生を一人で終える事になってしまうのですよ」
「貴族と結婚をしなくても一人にはならないと思いますよ」
どこかに嫁ぐ事がリリィにとっての唯一の幸せへ繋がる道だと言いたいのだろうけど、そんなはずはない。ついムッとして言い返してしまった。
「そうですか……失言でしたね。例えば、リフィさんが生涯に渡ってご一緒される、とかですかね?」
アカツはリリィによく似た目でニヤリと笑う。
心の底を見透かされた気分だ。もう色んな人にバレつつあるとはいえ、リリィの父親にバレていると思うと緊張感が高まる。
いずれはこの人にも認めてもらわないといけないのだけど、まだその時ではない。
「それは……分かりませんね。どういう事ですか?」
「隠さなくても良いですよ。宝物庫に入れるなんてよっぽど深い仲でないとしない事ですから、分かりきっています」
ピアスとかそういう物の手かがり以前にバレていたらしい。隠し事は無駄なようだ。無視しているとアカツは更に続ける。
「もしリフィさんが協力してくださるなら、あの子の縁談を断っても良いです。私としてはあの子がパートナーと健やかに過ごしてくれればそれで安心なので、男女は問いません。可愛い娘のためですから、生活の支援をしても良い」
「なら、リリィさんは勇者になっても良いのでは? 私は待ちますよ」
「それは困るんですよ。勇者だけは」
「平凡な次期当主よりも目立ってしまうからですか?」
アカツの目が細まる。
「そこまでご存知でしたか……そうです。あの子は私の子の中で一番優秀なのに女子に生まれてしまった。どこぞの領主は頑張っていますが、女性当主なんて認められる訳がない。まぁ、リリィという比較対象さえいなければ息子も上々なんですがね」
割と開けっぴろげに話す人だ。自分の息子の出来が良くないだのとよく私に話せたものだと思う。
それにしても、リリィの言う通りアカツは未来を見ていると思った。自分だけでなく、後を継ぐ人がどうなっていくのか、二代三代先まで見据えた結果がこの結論なのだろう。
私が話さないのでアカツは更に畳みかけてくる。
「それに、あの子が勇者になれば忙しくなります。部外者を連れて旅なんて以ての外。分かりますよね?」
最終審査の結果は四パターンだ。
私もリリィも落選。これをアカツは望んでいる。リリィが落選した時に有効となる縁談を断ってくれると言っているがどこまで本当なのかは怪しいところだ。
次は、リリィは勇者になり私は落選するパターン。これが一番現実的にありえる結果で、アカツにとっては望ましくない。強がってはみたが、実際問題リリィが勇者になったらすれ違いも多くなりそうだ。私達がうまくいく未来は見えない。
最後に私だけが勇者になるパターンと、二人共が勇者になるパターン。私が四位以内に食い込むなんてあり得ない話なので想定するのもバカらしい。
よって、二人共仲良く脱落する未来。そこに向かってひた走るのが私個人としては一番得が大きい。一国の大臣の庇護の元で、好きな人と二人で過ごせるのだから。アカツは私にそう刷り込みたいようだ。
だけど、リリィはそうやって手に入れた自由を絶対に望んでいないし、それを自由とは呼ばないだろう。私の都合だけでそんな未来を選ぶのは間違っている。舐められたものだと思った。沸々と怒りが湧いてくる程だ。
「分かりません。リリィさんは自分の力で羽ばたこうとしているんです。今のアカツさんはそれを邪魔しようとしているだけに見えます。権力を使って若者の邪魔をして楽しいんですか? こんな事、誰に何度やっても無駄ですからね!」
言葉を投げつけ、宿舎に向かって走る。やってしまった。
もう少し上手く立ち回れたかもしれないけれど、リリィになんて言えば良いのだろう。
一度も後ろを振り返ることも無く、宿舎へ戻った。
宿舎についたらまず向かうのはリリィの部屋。人数が三十人から更に半分になった宿舎は一人で一部屋を使う余裕はあるのだけど、何となくリリィの部屋に向かってしまう。
ドアを開けると、いつものテーブルに着いてリリィは紅茶を飲んでいた。
「お帰りなさい。遅かったのね。何かあったの?」
「お父さんが接触してきました」
リリィはカップを静かに置く。
「そう。内容は聞かないわ。信頼しているから。断ったんでしょ?」
私が頷くとリリィは嬉しそうに笑って立ち上がり、私をベッドに誘う。
私の太ももに馬乗りになり、腕を身体に絡めてきた。まだ午後の明るい時間なので、こんな時間から始めるのかと期待が高まる。
「信頼しているから、最終審査の作戦を教えてあげる。貴女の踊りで全員を夢中にさせるのよ。敵もね」
「え……相手も強くなっちゃいますよ?」
リリィは声を出して笑う。
「そうじゃないわ。あの……気持ち良くさせる踊りよ。あれを受けて立っていられる人はいないんじゃない?」
トゥワークの事を指しているらしい。戦いで使うなんて発想は無かったけれど、確かに効き目は絶大だろう。踊りは対象人物も特定できるので、あっという間に相手チームだけを無力化する事が出来る。
だけど、どうしても抵抗感が拭えない。
トゥワークは踊り子を現在の位置に貶めた元凶だ。正しい使い方をすれば良いのだろうけど、全国民が注目している最終審査でトゥワークを使って相手を倒すだなんて、踊り子への風評被害が広まらないかと心配になる。
「あの踊りは……良い面もありますけど、悪い面もあります。別に踊り子の社会的な地位を上げたいとかは思いません。でも、踊り子の立場が悪くなるような事はしたくないです」
「リフィ。勝つのよ。勝てば官軍。勝ったものが正義よ。ここまで来てなりふり構っていてはダメ」
「それは、自分が生き残るためですか?」
「私と、貴女が生き残るの」
「私はもう……今回も奇跡みたいなものですから」
「奇跡は人の手で起きるものよ」
結局、投票は国民が自分の意志で選んだ勇者候補生に、自分の手で投票する。そういう事を言いたいのだろう。
良くも悪くも目立たなければ私は生き残れない。リリィと二人で勇者になるという夢もあるし、なりふり構っている場合ではないのかもしれない。
「貴女は本番で踊るの。これは決定事項よ。そんな事よりも、二次審査突破のお祝いをしなきゃね」
リリィは話を打ち切って、歯がカツンとぶつかるくらいに勢い良く口づけをしてくる。
勢いのままにベッドに押し倒される。扉の鍵は閉めたんだっけと余計な事を考えていると、リリィは私の太ももをピシャリと叩いた。
「私の事以外を考えていた? 今はダメよ」
リリィにはお見通しらしい。いつものようにこのまま私が組み伏せられるのも好きなのだけど、二次審査突破のお祝いという事なのでいつもと違う事をしたくなった。
「リリィさん、今日は私が上に行きます」
リリィは少し考えて、頷く。私の隣に寝転がるので、リリィを跨ぐようにベッドの上に立つ。
顎を引いたリリィが不思議そうに私を見てくる。
「トゥワークは勃起不全の人のために作られた踊りらしいです。リリィさんにも効くんですかね」
「ど……どうかしら」
リリィは下に行くと安請け合いしたのを後悔しているようだ。目を泳がせながら逃げ場を探している。
逃げ場を見つけ出す隙も与えずに、私は腰を落として前後に振る。絶対にリリィをよがらせるまでは踊りを止めない覚悟を持って、何度も何度もリリィの上で踊り狂う。
リリィに背中を向けてベッドに手を付き、腰をくねらせる。少しすると私の呼吸とは別に荒い息遣いが聞こえてきた。
チラリと振り返ると、切なそうに眉尻を下げて私を見ているリリィが目に入った。
目が合うと腕を伸ばして後ろを向いたままの私を引き倒してきた。耳元にリリィの口が来て、息と共に声が漏れてくる。
「私が初めて達するのに顔を見てくれないの?」
そんな訳がない。絶対にこの目に収めてやる。
リリィの手を振り払って起き上がり、リリィに身体の正面を向けて跨る。そのまま何度も打ちつけるように腰を上下に振る。
リリィの人生最初の絶頂。それを最高潮で迎えられるよう、私も腕を奮う。
徐々にリリィの首元が赤みを帯びてきた。人の事をどうこう言えるような体質ではないらしい。
私もさらに激しく、リリィの脚に腰が当たる程に上下させる。リリィは苦しそうに呻きながらも、私から目を離さない。
だが遂にリリィが私から目を逸らした。一瞬だけ白目を剥き、嬌声と共に臍を天まで持ち上げるように体を逸らす。眉間は皺だらけになり、美しい顔が歪む。もっとその歪んだ顔を見ていたいと思った。
だが、リリィの身体に押し退けられるようにベッドから振り落とされる。
頭をさすりながら起き上がりベッドに戻ろうとすると、のたうち回るリリィの姿が見えた。
右手はシーツが乱れるほどに強く掴み、左手は声を殺すために口に差し込まれている。
何度も脚をくねらせたり体を反らしたりして、数分もしてやっとリリィは落ち着いてきた。
横向きに寝転んで、肩で息をしている。
隣に寝転んで身体をさすろうとすると、バッと払い除けられた。
「ま……まだ敏感だから……」
「もう一回踊りましょうか?」
リリィは首を横に振る。初めての感覚が身体に刻み込まれたのだからまだ慣れていないのかもしれない。それか、何も感じなかった自分の身体が変わっていく事が怖いのだろう。
「これだけの効果があれば、最終審査も余裕ね」
壁に向かって、リリィは嬉しそうに話す。
「身を以て知りましたもんね」
リリィの手が「それは言うな」と言いたげに私の身体をピシャリと叩く。
実際、リリィに効くのか不安だったところもあった。
何も感じなかったリリィに対してこれだけの効果があるのなら、他の人にも十分すぎるくらいに効くだろう。
気づくと、私がリリィを組み伏せられた事に気を良くしてしまい、最終審査でも披露したくなってしまっていた。




