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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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繰り上げ

 二次審査の結果発表の日がやってきた。


 恒例となった順位の書かれた椅子も減って、今回は一位から十六位の分までだ。対するこちら側は三十人。大体半分が脱落する。


 一次審査の時のような手応えはないし、ボーナス票も獲得できていない。


 あそこに私の椅子は無い。目の前に並ぶ十六個の椅子を直視できず、下を向く。


 そんな私の心情をくみ取ってくれるはずもなく、さっさと一位から順位の発表が始まった。


 順当に一位はネリネ、二位はリリィ、三位はピオニー、四位はラン。それ以降もボーナス票を獲得したオリーブやレンが上位に浮上していた。


 祈るように十六位まで待ち続けたが、私の名前もメリアの名前も呼ばれることは無かった。リリィはどこか遠くを見るような目をしている。これでお別れだ。


「あ、あの! お話があります!」


 十六位まで呼ばれ、お別れムードが漂い始めたところでネリネが最上段から声を張り上げる。


 ヒースは少し戸惑っていたようだが、ネリネに拡声器を渡した。


『突然で申し訳ないっす。私、ネリネ・キャンディはこのオーディションを辞退します。応援してくれていた人、申し訳ないっす』


 ネリネはそう言って、深々を頭を下げた。開口一番の辞退の宣言に会場のどよめきは増していく一方だ。


 司会のヒースも驚いてはいるようだが、ネリネに言い切らせるつもりのようで、止めに行こうとするスタッフを足止めしている。


『色々と考えるところがありまして、勇者じゃない、別の方法で皆様のお役に立とうと思っています。情報は近日公開予定っす! 待っていてください!』


 魔法具を使った何かを考えているのだろう。ネリネはそれだけ言うと、憑き物が取れたように晴れ晴れとした顔でリリィと抱き合ってから、ステージを去って行った。


『あー……えー……そ、それでは……ネリネ様の辞退に伴いまして、順位が一つ繰り上がります。十七位だったリフィ・ルフナ様が繰り上がりで最終審査へ駒を進める事となります。皆様、席の移動をお願いいたします』


 ヒースはしどろもどろになりながらも仕切りを続ける。


 ネリネは事前にヒースへ根回しをしていたのだろう。普通ならサプライズの発表であればネリネを引き留めるはずだ。


 それをせずにそそくさと順位の繰り上げを発表するのだから、事前に知っていて驚いている演技をしている風にも見えてきた。老練なヒースならやりかねない。


『リフィ・ルフナ様。前へお願いいたします』


「リリーちゃん! 呼ばれてるよ!」


 メリアが背中を突いてくる。


「え? 私?」


『リフィ・ルフナ。早く前へ』


 ネリネの逃亡劇の事ばかり考えていて、自分の名前が呼ばれている事に気が付かなかった。


 私が十七位だったので繰り上がりで通過。こんな奇跡があって良いのかと驚く。ボーナス票をもらっているはずのメリアを押しのけての十七位。素直に嬉しいが、何か裏がありそうな気もしてしまう。


 だがまずは残れたことに感謝しながら十六位の席に座るべきだろう。ヒースに怒られないうちに前に出て椅子に座る。


 繰り上がりではあるが、一位となったリリィの挨拶を持って第二回の順位発表は終了となった。




 一次審査の結果発表と同様、誰からともなく脱落した人と生き残った人の集団がまじりあう。


 私が行くべき場所は決まっている。メリアのところだ。初日から友達になって、ずっと一緒だった。メリアが居なかったら私はもっとやさぐれていただろう。


 何を言うべきか考えながらメリアの元へ向かうと、丁度ピオニーと二人で抱き合っている所だった。


「リリーちゃん! おめでとう! 良かったねぇ!」


 メリアはここに来ても一切の嫉妬やその類の感情を出さない。ただただ純粋に私の通過を喜んでくれている。


「メリア……寂しいよ」


 ピオニーがまだいるのも構わず、二人毎まとめて抱きしめる。


「私もだよ。二人でピオニーの応援をしたかったけど、私一人で二人の応援をしなきゃなんだ。どっちに投票したらいいのかなぁ?」


「私に決まっているじゃない。リフィにはあげなくていいわよ」


 ピオニーは冗談めかしてそう言う。


「二人共、仲良くするんだよ。喧嘩はしても良いけど、仲直りもセットだからね」


 メリアは私の姉でもあるように語りかけてくる。


「うん。分かってる」


「じゃあ、お部屋の片付けがあるから。もう行かなきゃ。リリーちゃん、ずっと部屋も離れちゃったし、またお泊りしようね!」


「メリア、またすぐに遊ぼうね!」


 私とピオニーの頬にキスをしてメリアは会場から去っていった。


 ピオニーと二人でメリアの背中を見送る。


 実力だけで言えば確実にピオニーよりメリアの方が上だ。それでも、「見つかる」事に関してはピオニーの方が長けていたのだろう。


「アンタ、どういう手品を使ったの? お姉ちゃんが落ちて、アンタだけ浮上するなんて……」


 メリアの「仲良くしろ」という言いつけを守っているようで、いつもよりは物言いが優しい。


「私も分からないわ」


「ふぅん……まぁ、ネリネを応援していた人の票がバラけるし、四位の座はまだ誰にでもチャンスがある。私もウカウカしていられないわ。お互い頑張りましょ」


 ピオニーは肩をすくめ、二位の椅子に戻っていった。




 休憩を挟んで最終審査の説明が始まった。


「最終審査の課題は、四人チームでの模擬戦となります。総当たりで勝数の多いチームがボーナス票を獲得します。また、最終審査も二次審査同様、獲得票数はリセットされ、新たに投票を受け付けます。課題終了後に投票を締め切り、上位の四名が晴れて三代目勇者と相成ります」


 ピオニーが言っていた通り、ネリネの辞退によって次の投票は大荒れしそうだ。


 私にも四位に食い込むチャンスがあるのではないかと淡い期待を抱いてしまう。


「それでは、一位のリリィ・ルフナ様からチームを組んでいただきます」


 リリィが前に出て、残っている十六人をじっと見渡す。


 静かに目を瞑り、ゆっくりと一人目の名前を呼ぶ。


「オリーブ・エリヤ」


 会場がどよめく。これまでは一位の人は人気上位のメンバーで固めていた。オリーブも上位とはいえ勇者にはなれない圏外の人なので、意外な人選だ。


「レン・ピロチュン」


 会場が更にどよめく。彼女も確か魔法使いだった気がする。カラスのように黒い髪を靡かせながら颯爽と前に出ていく。


 これで枠は後一人。即ち、ピオニーかランを切るということだ。蜜月の関係ではあったが、戦闘においていかに魔法使いが強力なのか理解したのだろう。


 最後も魔法使いか、あるいは前衛を担当できるランだろう。模擬戦なのでピオニーの治癒はさほど役に立たない。


「リフィ・ルフナ」


 これまでとは質の違うどよめき。無くはないと思っていたけれど、いざ呼ばれると戸惑ってしまう。


 リリィの支援に特化しているので勝ちに行くならもっと良い人材がいた気がする。


 リリィの性格的にも個人的な感情で依怙贔屓をするとは思えないし何か裏があるのだろう。手招きされて皆の所へ行く。


 オリーブは少し不満げな顔。レンに至っては露骨にリリィを睨みつけていた。


「リリィさん。説明してくださいます? なぜリフィさんを最後に選ばれたの?」


 オリーブは努めて平静にリリィへ尋ねる。


「考えがあるの。でも、それは言えない」


「つまり、私達を信用していないと?」


 リリィは申し訳無さそうに頷く。多分本意ではないのだろう。それでも、ネリネを裏で操ったように父親がいつ誰を抱き込むか分からない。だからこそ心中を隠している事は理解できる。


「はぁ……分かりましたよ。個人的な感情で贔屓してはいない、と言うことで良いですよね? 私もオリーブも四位の座が懸かっているので手は抜けないんです」


 繰り上がりの結果、四位のレンと五位のオリーブは勇者の座にぐっと近づいた。ネリネを応援していた人を取り込めば浮上も夢ではないし、逆に他の人が浮上すればあっという間に陥落する立場だ。


「そんなものはない。あくまで、これが勝つために最適だっただけよ」


 リリィは頑なに否定する。私もそう思いたいが、リリィが考えを教えてくれないのでどうしようもない。


「まぁ……分かりました。それで良いです」


 オリーブはこれまでもリリィと協力関係にあったから何かしらの有効なアイディアがあると信じたようだ。私も文句を言わないのでレンも押し切られる形で黙る。


 チーム分けも終わると、試合の日取りが発表された。訓練期間は三日。ネリネ達が寝込んでいたので日程がずれ込んだのだろう。


 この場ですぐに戦えと言われなかっただけマシだと思った。




 今回のチームは初めて組む人もいるのであまり会話が弾まない。リリィはオリーブに連れていかれて、レンはどこかに行ってしまいバラバラになったので一人で宿舎に戻っていると、建物の物陰から誰かが出てきた。


 にこやかではあるが、目の奥は笑っていない。


「リフィさん。お久しぶりです。リリィの父、アカツです。以前王城でお会いしましたが、覚えていらっしゃいますか?」

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