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8話

私は薄いエメラルドグリーンのハイネックのワンピースを着せてもらった。


細やかな花や蔦草の刺繍があしらわれていて光沢もあり上品な代物だ。丈は足首まであり動きやすいデザインになっている。

ゆったりとした造りにもなっていて着心地は良かった。下にはコルセットを着けてもらい、靴もピンヒールではなく踵の低いものを履いた。

後は髪結いとお化粧だけになった。ルアンさんは鏡台に来るように言った。

私は椅子に座る。髪は編み込んでアップにしてもらう。アクセントとして銀細工の百合の花をかたどった大きめのバレッタで留めた。ヘアピンもいくつか使う。うなじは襟で隠れるので問題はない。

「できました。イルゼ様は髪が硬くていらっしゃるから香油を使わないといけませんね」

「よくわかったね。そうなの、昔から髪質が硬いのには困ってて。纏めたりするのに苦労したよ」

呟きながら鏡に映る自分を眺めた。上品だけど地味な女性がいて眉をしかめてしまう。

そんな私を見てルアンさんは微笑んだ。

「イルゼ様。そんなに落ち込まないでくださいませ。あなたはシンプルになさっていても十分お綺麗ですよ」

「…ごめんね。気を使わせたわね」

「いいえ。素直にそう思っただけです。イルゼ様は旦那様に目元が似ておられます。だから大丈夫です」

そう言われて私は何故か恥ずかしくなる。照れくさいというか。

私はそうだねとだけ言ってルアンさんより先に部屋を出たのだった。




後からルアンさんが追いかけてきた。かなり、慌てた表情になっている。

「イルゼ様。いきなりお一人で行かれるから何事かと思いました。あまり、驚かせないでください」

「ごめんなさい」

私が素直に謝るとわかってくださればいいんですとルアンさんは言った。二人して顔を見合わせてから食堂に向かった。



廊下でウィルと御者さんに出くわした。

「おや。お嬢様、おはようございます」

「おはよう。ウィルさんも昨日はよく眠れましたか?」

「ええ。ご心配をかけたようですね。すみません」

ウィルはそう言って笑う。何故かそれがやけに爽やかで面食らってしまう。

ウィルってこんな人だったか?もっと、腹黒いと思っていたんだが。

そんな胸中の質問は別にしてウィルに食堂に行こうと声をかけたのだった。



食堂に着いて私は昨日と同じようにルアンさんに椅子を引いてもらい、座る。

ご主人と奥さん、娘さんが朝食を運んできてくれた。まずはパンを四種類ほどと野菜をトロトロになるまで煮込んだスープだ。

次に新鮮な野菜が盛り付けられたサラダやふわふわの卵を使ったオムレツだった。これらを順番に食べていく。

パンは固めのものを選んだ。スライスしてあってスープに浸しながら食べた。

スープを少しだけ残してほぼ完食した。あっさりながらもコンソメが効いていてお腹に優しい感じだ。

「…うーん。おいしい」

そう言いながらサラダに手を伸ばす。ドレッシングは異国産のゴマで作ってあるそうで濃厚ながらもしつこくない。これもなかなかだ。

オムレツもトロリとしていて甘みもある。最後にデザートも出てきた。娘さんと奥さん特製のレモンタルトだった。紅茶に蜂蜜とミルクを入れてミルクティーも娘さんが淹れてくれる。

「うちではレモンタルトを売りにしているんですよ。といってもお泊まりいただいたお客様限定ですけどね」

奥さんが説明をしてくれる。私はへえと頷いた。

レモンタルトを早速口に運んだ。程よい酸味と甘みがバランス良く取れていてうちのカフェでも似たようなものを考案してもいいなと考えた。けど、私はもう侯爵令嬢らしいからあそこには戻れない。

それに気づいてしまうと泣きたくなる。アマーリエ侯爵様にも未来の婚約者だろう王太子様に文句を言いたい。

いくら何でも働く場所を取り上げられて家族とは未だに会えないでいる。ふうと気重になってため息をついた。それでもミルクティーは優しくて懐かしい味だった。レモンタルトもすごく美味しくてそれには満足したのだった。

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