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ラッキーと呼ばないで

「大丈夫っ!」

 声がする……ひかりさんだ。

「神代さん、起きてーっ!」

 体をゆするのがわかるんだけど……決まったパンチのせいか、揺すられるとつらい。

「神代さんっ! 神代くんっ! 神代っ! 太市くんっ! 太市さんっ! 太市っ!」

 うう、さっきのパンチ、きっと腹に決まったんだ。

 揺すられるとこみ上げてくる。

 ともかくやめてもらわないと大変な事になるだろう。

 俺は目を覚ますと、ゆすっているひかりさんの手を握った。

「ひかりさん、ゆすらないで」

「神代さん、気がついたんだ!」

「ゆすらないで……吐きそう」

「え? 大丈夫? ねぇ!」

「だから、揺すらないでくださいって」

 俺が言うの、ようやく聞いてもらえた。

 ひかりさんが揺するのを止めて、

「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

「えっと、何でひかりさんが謝るんです?」

「え、えっと……」

「?」

 どっちかと言うと、俺、追い出されるとばかり思っていた。

 ラッキースケベだと出て行く事になっていたような?

 それがひかりさんが謝っているのだ。

「え、えっと……その、ね」

 ひかりさんはうわ目遣いで俺を見ながら、

「ほら、お風呂に入ってもらったじゃない」

「それが?」

「わたし、すっかり忘れちゃって、まいちゃんと籾ちゃんにお風呂に入るように言ったの」

「それで……」

 ペコペコ謝るひかりさん。

 その後ろでまいちゃんと籾ちゃんはパジャマ姿でこっちを見ている。

 まいちゃんはニコニコ顔で、

「神代さんは~、ラッキーさ~ん!」

「まいちゃん怒るよ?」

「ふふ~、お兄さんに見られても~、しかたないですよね~」

「……」

「今度~、何か~、奢ってくださいね~」

「ううっ……」

 籾ちゃんは目をランランとして、

「兄さん、わたくしのの裸を見ましたよね」

「……」

「兄さんに見られても……妹だからしかたないですよね?」

「……」

「もっと兄さんの裸を見せてくれるなら、許しますよ、できたら写真におさめさせて欲しい」

「やだ」

 って、いつの間にか俺の腕にしがみついている穂のかちゃん。

「ラッキー!」

「それ、やめてくれない?」

「むう……お兄ちゃん!」

「ちょっとこそばゆいね」

「穂のかには、なにかないの?」

「何か奢って欲しいんだ、奢ればいいんだ」

 コクコク頷く穂のかちゃん。

 俺はため息つきながら、

「今度奢るよ、それでいい?」

「お兄ちゃ~ん」

 穂のかちゃん、買収に弱いかも。

 でもすごい食べるから、買収大変かも。

「ともかくごめんなさい」

 ひかりさんはすまなそうな顔で、手を合わせて俺を見ている。

「ひかりさん、わかってもらえたらいいですから……俺の事はラッキーって言わないでください、なんだかへこみますから」

「え? でも、ラッキーって言いやすいんだけど」

「怒りますよ」

 ひかりさん、ちょっと視線が泳いでから、

「そうね……じゃあ、太市さんでどうでしょ?」

「神代さんじゃないんだ」

「ちょっとレベルアップ、それにわたし達の事は名前で呼ぶでしょ」

「……」

 そうだ、ここ、米神荘は俺以外みんな「越野」。

 だからみんな名前で呼ぶしかない。

「俺はひかりさんって呼んでいいんですよね」

「ええ、最初にそう言ったと思うけど」

「なんだか恋人みたいですね、名前で呼ぶなんて」

 って、言ったら途端にひかりさん頬染めして、頭から湯気を立てながら、

「恋人みたいなんて、なんて事言うんですか!」



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