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ひかりさんの塩おにぎり

 ひかりさんはすぐに赤くなって、

「も、持ち上げたってダメなんですからっ!」

「ひかりさんのゴハン、すごいおいしいし」

「も、もうっ!」

「だから、俺は最初からひかりさんのゴハンに折れてたのかもしれません」

 おいしいのは本気だけど……

 なんだか言う度にひかりさん赤くなって照れるのが面白くなってきた。

「ひかりさん、俺のためにずっとゴハン作ってくださいっ!」

「!!!」

 ああ、真っ赤通り越して真っ黒に、頭から「ピー」なんて湯気まで吹き出した。

「そそそそんな、わたし達まだ高校生」

「からかったんですよ~」

「!」

 ひかりさん、真顔で、冷めた目。

 チョップが俺の頭に振り下ろされた。

「もうもうもうっ!」

 くやしそうな顔のひかりさん。

 俺は微笑んでみせた。 


 米神荘、俺は部屋に戻る前に、なんとなく穂のかちゃんの部屋に向かった。

 ノックすると、

「開いておる」

 みのりさんの声、俺の思った通りだ。

 部屋の中、ベットの上でゴロゴロしているみのりさんがいた。

「おぬしがわらわに会いに来るのはわかっておった」

「そうなんですか」

「わらわは神通力があるでの」

「で、質問なんですが……」

「なにかの?」

「今回の神託って本当なんですか?」

「……」

 みのりさん、俺をにらみつけて、

「これ、神であるわらわにものを尋ねるのに手ぶらかの?」

「お供え物を要求する神さまいるのかなぁ~」

「出すものを出さねば黙秘権じゃ」

「はいはい」

 俺、カバンから購買で買ったやきそばパンを出した。

「ふむ、なかなかの上物じゃ、よきにはからえ」

「『よきにはからえ』じゃねー! 質問に答えろ!」

「むう……神託かの」

「ウソですよね」

「そうなのじゃ!」

「あ、あっさり認めるんだ」

「最近ひかりは妙なのじゃ、米にこだわってばかりなのじゃ」

「……」

「わらわはいろんな美味しい物が食べたいのじゃ!」

「で、試練なんてやったら、余計にお米ばっかになるんじゃないですか?」

「どうせウソなのじゃ、そしてひかりは負けるに決まっておるのじゃ」

「え? 負けるの?」

「そうじゃ、ひかりは負けるに決まっておるのじゃ」

「ひかりさんの料理はおいしいですよ」

「おぬしもわかっておろう、そんな事にこだわるようでは、料理の幅も減ってしまうのじゃ」

「負けさせて、どうするつもりだったんです?」

「だいたいひかりのヤツはクソ真面目なのじゃ」

「……」

「ちょっとくらい消費が減ったくらいで、あやつ一人でどうにかできる問題でもないのじゃ」

「そりゃ、そうですね、ひかりさんに神通力があればなんでしょうけど」

「わらわの神通力をもってしても、米の消費をどーこーできぬ」

「まぁ、でしょうねぇ……で、負けさせてどうするつもりだったんです?」

「そしたら以前のようにいろんな料理を作ってくれるのじゃ」

「みのりさん、何が食べたいんです?」

「ラーメンにケーキに回転焼きにクレープ」

「わざと言ってますよね」

「なんでもいいのじゃ」

 みのりさん、俺をじっと見ると、

「おぬしもわかっておろう」

「……」

「ゴハンのない食卓などありえんのじゃ」

「ですね」

「ゴハンは別格なのじゃ、おかずではないのじゃ、主食なのじゃ」

「!」

「ゴハンは一番なのじゃ!」


 夕飯前、俺は穂のかちゃんと一緒にテレビを見ていた。

 台所ではひかりさんがクルクル働いている。

 今日の夕飯はなにかな……なんて考えていると、

「穂のかー、先にこれを食べててー」

「はーい」

 ひかりさんの声に穂のかちゃんは台所へ。

 すぐにおにぎり山盛りの大皿を持って戻って来る。

「……」

 いつも食事前に穂のかちゃんの食べているおにぎり。

 真っ白でノリも巻いていないおにぎりだ。

 山盛りで、見てるだけでお腹いっぱいになるんだけど……

 モリモリ食べる穂のかちゃんを見ていて、ついつい俺の手も伸びてしまう。

「むー!」

 一つ手にしたところで、穂のかちゃんの責める声。

 でも、口の中が一杯で言葉になっていない。

 俺、一つ手に……

 穂のかちゃんの手が俺の手首を捕まえて、すごい力で握りしめてきた。

「い、痛いんだけど」

「むー!」

「むーむー言ってちゃわからないんだけど」

「むー!」

「一個ちょうだい」

「むむー」

「ラーメン奢ってあげるから」

「!!」

 途端に手を放してくれる。

 まだ、ちょっと温かいおにぎり。

 真っ白で海苔も巻いていない。

 俺はしばらく白おにぎりに見入ってしまったけど、穂のかちゃんがモリモリ食べているのを見て、手にしたおにぎりを口に運んだ。

「!」

 ほのかに塩味のおにぎり。

 でも、絶妙で食べ始めたら止まらなかった。

「すげー、美味しい」

 俺が言うのに穂のかちゃんも食べるのを止めて微笑んでくれる。

 ペロっと食べてしまうと、次のおにぎりに手が伸びた。

「むー!」

「ラーメン替え玉していいから」

 俺は穂のかちゃん攻撃をそんな言葉でかわして、次のおにぎりに手を伸ばす。

 一瞬塩味がして、ゴハンの甘さがじわじわくるおにぎり。

 ひかりさんがやってきて、

「あ、太市さんも食べてるんだ」

「このおにぎり、すごいおいしいですよ」

「ふふ、あんまり食べ過ぎると、夕飯が入りませんよ」

「いや、本当においしい……俺、ひかりさんのおにぎりに折れちゃったかも」

「ふふ、わたしの勝ちー!」

「俺の負けー」

 俺とひかりさんがクスクス笑っているのを、穂のかちゃんが不思議そうに見ていた。



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