2章の1
そう言えば。
『いや、この少年は第三病棟だ』
集中治療室のベッドから動けなかった頃、虚ろな意識の中で聞いたこの声は、久澄のものだった気がする。
それから数日して、俺は第一病棟の個室に移された。足の捻挫のために満足に動き回ることもできず、車椅子で半径の狭い行動をする日々が続いた。
一週間くらいで歩けるまで回復し、ようやく退院できると喜んだが、今度は内側の器官の方に異常があるかもしれないとかで入院期間が延長されることになった。
詳しい検査のために移った病棟が第三病棟。俺自身、そんなに酷い怪我を負ったという自覚は無かったから、どこをどう検査するのか不思議で仕方がなかった。
しかし第三病棟に移って早々、組織の採取とかで腹に内視鏡を突っ込まれてからは、どんな検査にも大人しく従うことにした。ひとまず病院に全てを委ね、異常が見つかったら即治療、無かったらそれで安心、というプランだ。
今考えれば、なぜこんなに強引な検査に納得していたのか、疑問でならない。
同じような検査が繰り返されても、俺は文句の一つも言わなかった。心の中では退院したいと願っていたはずなのに。
第三病棟に移ってから――何かがおかしかった。
『僕が第三病棟でキミの担当になる医師だよ。よろしく、沖田晴道くん』
久澄は名乗らなかった。ただ微笑んで自分の名をうやむやにした。
代わりに、あの瞳があった。
見つめる者の疑問を拘束させる、あの瞳。まるで言葉に絶大なる信頼を添えるような。
それはついさっきまで俺を見つめていた。
『キミの突然変異は』
告げ、去っていくまで。




