表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に転生したが、石像から動けない ―管理社会における神性観測記録  作者: 鷹宮ロイド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

第21話 なぜ、昔は壊れなかった

 会議室の空気は、静かだった。


 怒号も、焦りもない。

 ただ、誰もが資料を見つめ、同じ一点で思考を止めている。


「……数値上は、誤差の範囲です」


 分析担当が、慎重に言葉を選ぶ。


「ですが、変動の方向が一貫しています」


 画面に映し出されたグラフは、わずかに持ち直していた。傾きは小さい。だが、偶然にしては整いすぎている。


 エリオ・クレインは、腕を組んだまま、その線を見つめていた。


「再現性は?」


 誰かが聞く。


「ありません」


 即答だった。


「条件を揃えても、同じ結果にはなりません」


 会議室に、沈黙が落ちる。


 再現できない。

 それは、この場では説明できないと同義だ。


 ヴァイス=ヘルツが、ゆっくりと口を開いた。


「過去の記録を参照しました」


 彼の声は、いつも通り穏やかだ。


「旧式運用時代にも、同様の微細回復例は確認されています」


 誰かが、顔を上げる。


「……問題として扱われていなかった、ということですか」


「はい」


 ヴァイスは頷いた。


「当時は、基準が曖昧だった。数値よりも、継続可能かどうかが重視されていた」


 エリオは、その言葉に引っかかった。


「壊れなかった、という評価ですね」


「そうです」


 ヴァイスは、淡々と続ける。


「最適ではなかったが、破綻もしなかった」


 それは、評価としては低い。

 だが、今となっては、重い。


 誰かが言った。


「……では、旧式の方が良かったのでは?」


 その言葉に、すぐ反応が返る。


「それは違う」


 ヴァイスだった。


「旧式は、不安定で、説明できず、属人的です」


 彼は、はっきりと言う。


「偶然壊れなかっただけのものを、完成形とは呼べません」


 正論だった。


 誰も反論できない。


 エリオは、口を開いた。


「ですが……結果として、人は壊れていませんでした」


 会議室の視線が、一斉に集まる。


 エリオは、続けた。


「今は、壊れています」


 言葉は、静かだった。


 ヴァイスは、少しだけ考え込む。


「……壊れている、とは?」


 エリオは、言葉を探す。


「生活は続いています。数値も正常です」


「では?」


「元に戻れない、という意味です」


 沈黙。


 ヴァイスは、ゆっくりと首を振った。


「それは、評価できません」


 その一言で、議論は終わった。


 評価できないものは、扱えない。


 会議は、結論を出さないまま散会した。


 廊下に出たエリオに、リアが追いつく。


「……言い切りましたね」


「言ってしまいました」


 エリオは、苦笑する。


「でも、証明できない」


 リアは、頷いた。


「だから、戻れません」


 二人の間に、短い沈黙が流れる。


「昔は……」


 リアが、小さく言う。


「神が、責任を引き受けていたんでしょうか」


 エリオは、すぐに答えられなかった。


 神がいた時代。

 説明できないものは、神の領分だった。


 うまくいけば、奇跡。

 失敗すれば、神の気まぐれ。


 責任は、どこかに置けた。


 今は違う。


 説明できない成功は、

 存在しなかったことにされる。


 その夜、神殿では、風だけが吹いていた。


 石像は、そこにある。

 だが、反応はない。


 誰も、神に問いかけない。


 なぜ、昔は壊れなかったのか。


 その答えは、

 もう、世界の中には置かれていなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ