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異端の聖女は復讐を誓う  作者: わしお
第二章 - 乳母 エルディア

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第14話 外れ者の出会い

それは、大切な人を失ってから一週間が経ったころ。

いつもソレイユの元へは訪れない聖者の管理者が、突然ノックもせず部屋に入ってきた。


「ご機嫌麗しゅう、太陽の聖女様」


この管理者の男のことを、ソレイユもルーナもあまり快く思ってはいなかった。ふくよかな体と油の浮いた肌には清潔感がなく、ソレイユには(あざけ)るような目を、ルーナには品定めするような視線をいつも向けていた。


その管理者の後ろには、赤い目をした少年が感情のない顔で立っていた。


管理者はにやにやと下卑た笑いを浮かべ、部屋の中央へと足を踏み入れる。


「突然の訪問をお許しください。何せ急に決まったことでして」

「なんのよう?」


ソレイユは行く手を遮るように、管理者の前に立ちはだかった。ルーナがこの男を苦手としているため、近づかせてはいけないと思ったのだ。

管理者はソレイユを見下すように、顎を上げて笑みを浮かべる。


「実は、太陽の聖女様にも夜間の護衛をつけることになりましてねぇ。ご存じかと思いますが、近頃裏切り者が見つかり、教団内も安全とは言い難いのですよ。まあ、傷を一瞬で癒やす太陽の聖女様ですから、心配はいらないかと思ったのですがねぇ。万が一ということもございますので」


管理者の男はそう言ったが、本当はソレイユの心配などしていないことは、馬鹿にしたような瞳から明らかだった。

おそらく、先日乳母がソレイユたちを連れて脱走しようとしたことが関係しているのだろう。察するに、お目付け役といったところだろうか。


「ご紹介しましょう。ディールスです」


そう言って、管理者は後ろの少年を乱暴に突き飛ばした。

驚いたソレイユがその少年、ディールスを支えようとしたが、ディールスは何でもないかのようにバランスを取り戻し、ソレイユの正面に立った。


幼いソレイユにとってディールスの体はとても大きく、見下ろされると同時に、強い威圧感が全身を這いまわった。

少し離れたところにいるルーナは、ディールスを見て怯えているようだった。今にも泣き出してしまいそうである。


ソレイユは気圧されそうになる心を必死に抑え、虚勢を張ってディールスに手を伸ばした。


「ディールスっていうの?わたしはソレイユ!よろしくね」


ソレイユは精一杯の笑顔をディールスに向ける。しかしディールスは何も答えず、手を取る気配もなかった。


管理者はわざとらしく、大げさに「申し訳ございません!」と言った。


「口がきけないわけではないのですが、どうにも愛想がなくて……。というのもですねぇ」


管理者は口の端をニイと吊り上げる。


()()は元々暗殺業を担っておりまして……。邪神の子についてはご存じですか?」

「しらない」


ソレイユがぶんぶんと首を横に振ると、管理者は大仰に驚いてみせた。


「おや、ご存じないですか!それは失礼いたしました。この子は邪神の子と呼ばれておりまして。見てください、この血のように赤い不気味な目を!」


管理者はディールスの前髪を乱暴に掴み上げ、遮るものがなくなった赤い瞳を指さした。


「きゃっ!」


ルーナが小さく声を上げ、自分の付き人にしがみつく。付き人の女性はルーナを抱きしめ、ルーナの両目をそっと手で覆った。


ソレイユは管理者の行動に怒りを覚え、足を一歩前に踏み出した。


「いたいでしょ!はなしてあげて!」

「これは失礼いたしました」


管理者はぱっと手を放し、両手を顔の横で広げた。その顔は、悪いと思っている様子は一切ない。

ディールスはただされるがままで、管理者の無体を気にする様子はなかった。

男は気味の悪い笑顔を浮かべたまま話を続ける。


「この赤い瞳が邪神ヴェスペルのようだと、国民たちの間で噂になっているのです。「教団に仇なすものは邪神の子が殺しに来る」なんて話もあるのですよ。全く、暗殺者が有名になってしまうとは困りものですね」


そうは言いつつ、管理者が本気で困っている様子はない。そもそも噂を広げたのが教団なのではと、ソレイユは疑った。


「まあそんな感じで、かなり危ない者なのですよ。ソレイユ様も気を付けてくださいね」


管理者はこれ以上ないほど口を吊り上げ、ソレイユの耳元に顔を近づけた。


「悪いことをすると、ソレイユ様も殺されてしまうかもしれませんから」


管理者の臭い息に、ソレイユは顔を歪める。


教団の真意はわからないが、ソレイユにとって不都合なことを望まれているのは明らかだった。けれどソレイユは、ディールスを拒否するつもりはない。


本当は、邪神の子の噂はよく知っていた。その子が自分以上に、大人たちから疎まれていることも。


もしかしたら、異端の聖女と邪神の子を一緒にすることで、さらに世間からの評判を下げたいのかもしれない。

けれど、ソレイユはこの出会いに少し喜びを感じていた。


おそらく、教団の中でたった二人の外れ者。ソレイユは仲間を得たような気持ちになっていた。


「わかった。ほかにはなにかある?」


ソレイユはいつも通りの、ごく自然な声色でそう言った。

顔色一つ変えないソレイユの様子がお気に召さなかったのか、管理者はつまらなそうに舌打ちをした。


「いいえ。それだけですよ。では私はこれで」


そう言うと、管理者はソレイユを睨みながら踵を返した。そしてディールスに近寄り、耳打ちをする。


「聖女の付き人とはいえ、お前の主人は私たちだ。優先順位を間違えるなよ」

「……はい」


ディールスは声変わり前の高い声で、短く返事をした。

その耳打ちはソレイユにも聞こえていたが、内容は予想の範疇だ。ソレイユは全く気にしなかった。

管理者はディールスの肩を叩き、不機嫌そうに部屋から出ていった。


管理者の足音が遠ざかり、ソレイユはほっと息をつく。ルーナは余程怖かったのか、わんわんと泣き出した。

ルーナのことは付き人に任せ、ソレイユはディールスに近づいた。


「だいじょうぶだった?いたくない?」


ソレイユは手を伸ばして、ディールスの頭にそっと触れる。髪を引っ張られた箇所は、特に傷ついていないようだ。

ディールスは感情のない声で「はい」と答えた。


ソレイユはディールスを見上げ、にっこりと笑った。


「これからよろしくね。えっと……。ディールスだから、ディルでいい?」

「はい」


ディールスは壊れたおもちゃのように、先ほどと同じ返事をした。

ソレイユは気にすることなく、ディールスに満面の笑みを向ける。


これがその後十年続く、ソレイユとディールスの関係の始まりだった。

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