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フーリエ変換とは、ざっくり言ってしまえば異なるパターンの波を分析する数学理論である。
波とは、例えば水たまりに落ちる雨のしずくであったり、コンサートホールに反響する拍手であったり――プルミエール中に響き渡るたくさんの足音であったり。
リリーシャはその鋭敏な聴覚で、幾重にも響き渡る海からアンドリューの“波”だけをかぎ分け、掬い上げられるというわけだ。
「言ってることは分かったけど……なんか分かりにくい」
アイリスは小さな頭を抱えてみせた。
こういう小難しいハナシはあまり得意じゃない。
「“理解”しなくていーよ。あたしには相手の足跡をかぎ分ける才能があるって“納得”してもらえるように説明しただけだし」
「フリって……そんなのでいいの?」
「納得しないとヒトは動かないから」
一瞬、リリーシャの横顔がとても大人びたものに見えた。
彼女なりに積み重ねてきた人生を思い返しているのかもしれない。
その人生がどんなものだったのか、それを知るのはただ一人――リリーシャだけである。
「……何これ?」
不意に、リリーシャが唇を尖らせる。
どうしたのかな? と、アクチェが尋ねると、リリーシャは、音がおかしいと答えた。
「おかしいってどういうこと?」
問いかけたのはアイリスだ。
「あんたたちが追ってる……アンドリュー? だっけ? その人の足音を見つけたの。距離は50メートル先」
「メートルって何?」
「ああもう! 50マイスよ50マイス! なんで海越えただけで単位が変わるのよもう! ――で、とにかく、その足音の周りに何パターンかの足音も聞こえたの」
「護衛ではないのかい?」
口をはさんだのはアクチェだ。
「二つはヒールの音がしたから多分、女性。残りは訓練された歩き方だった。あたしみたいな傭兵じゃない。そう、まるで――」
言いながら、リリーシャは彼女の方に向き直る。
アイリスに。
ここでようやくアイリスは、リリーシャが言いたいことを理解していた。どうして言い淀んでいたのかも。
「護衛しているのは天馬騎士団だっていうの?」




