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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第二章 承
64/222

6-12

 フーリエ変換とは、ざっくり言ってしまえば異なるパターンの波を分析する数学理論である。

 波とは、例えば水たまりに落ちる雨のしずくであったり、コンサートホールに反響する拍手であったり――プルミエール中に響き渡るたくさんの足音であったり。

 

 リリーシャはその鋭敏な聴覚で、幾重にも響き渡る海からアンドリューの“波”だけをかぎ分け、掬い上げられるというわけだ。

 

「言ってることは分かったけど……なんか分かりにくい」

 

 アイリスは小さな頭を抱えてみせた。

 こういう小難しいハナシはあまり得意じゃない。

 

「“理解”しなくていーよ。あたしには相手の足跡をかぎ分ける才能があるって“納得”してもらえるように説明しただけだし」

 

「フリって……そんなのでいいの?」

 

「納得しないとヒトは動かないから」

 

 一瞬、リリーシャの横顔がとても大人びたものに見えた。

 彼女なりに積み重ねてきた人生を思い返しているのかもしれない。

 その人生がどんなものだったのか、それを知るのはただ一人――リリーシャだけである。

 

「……何これ?」

 不意に、リリーシャが唇を尖らせる。

 

 どうしたのかな? と、アクチェが尋ねると、リリーシャは、音がおかしいと答えた。

 

「おかしいってどういうこと?」

 問いかけたのはアイリスだ。

 

「あんたたちが追ってる……アンドリュー? だっけ? その人の足音を見つけたの。距離は50メートル先」

「メートルって何?」

「ああもう! 50マイスよ50マイス! なんで海越えただけで単位が変わるのよもう! ――で、とにかく、その足音の周りに何パターンかの足音も聞こえたの」

 

「護衛ではないのかい?」

 口をはさんだのはアクチェだ。

 

「二つはヒールの音がしたから多分、女性。残りは訓練された歩き方だった。あたしみたいな傭兵マシーナリィじゃない。そう、まるで――」

 

 言いながら、リリーシャは彼女の方に向き直る。

 

 アイリスに。

 

 ここでようやくアイリスは、リリーシャが言いたいことを理解していた。どうして言い淀んでいたのかも。 

 

 

「護衛しているのは天馬騎士団だっていうの?」   

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