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「面白い人たちだったね」
ゾロの店舗を後にしてしばらくの後、アクチェが口を開いた。
活気のあるプルミエールに中心にいながら、彼の声はよく響いた。
「あるがままであれ、か」
「何それ?」
「世界を創生せし大妖精ニーヴの格言さ。彼女がつかさどるのは“空”だ。他国の宗教では空とは、何物でもない、存在しないもの―もっとわかりやすく言えば無だ。かつて世界はうつろな灰色だった。だが彼女がある日大きな“くしゃみ”をした。命が飛び散り、そこから星が生まれ、色で溢れたこの世界は一と那由他の狭間にある」
「…………」
アイリスは何とも言えず、カラ返事で返すしかなかった。
アクチェは見た目こそ若い竜人だが、時折老練な哲学者のような口調になることがある。
「世界は妖精と精霊が創成したとされている。妖精と精霊は名前と同じく性質も異なる。精霊は霊的な存在だ。煙に近い。目には見えるがつかめない。だが妖精は受肉している。傷つけば血が出るし、肉も喰らう。彼らは大地に根付く知性体に限りなく近しい」
「妖精は人間に近い?」
「だからくしゃみもする」
アクチェはそう言って肩をすくめてみせた。
「だがこういう考え方も出来る。妖精はもともと実体のない存在――つまり精霊と同一の存在だった。違っていたのは人に知恵を授けていたことだよ」
「知恵?」
魔術の祭典の中心で、アクチェはこう答えた。
「魔法だよ」




