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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
第一章 起
16/222

2-5

 貿易都市ティルナノーグ。

 夢と富が集まる大きな港。

 人集まるところに食もある。

 どこにでもある飲食店で給士が辞めた。

 人間関係。金銭の問題。あるいは店長の嫌がらせかもしれない。

 それは本当に些細な、よくある、普通の出来事だ。

 

 だけど放って置けない人はいるものだ。

 よくいるお節介とか、友達とか。

 アイリス・リベルテとか。

 

 

「ここの店員は家族って言ったましたよね? 家族に暴力を?」

「騎士さん。あなた勘違いしてる。俺は……」

「あぁ、スキンシップですか? “気持ち悪い方”の」

「勘違いも甚だしい。騎士団を呼ぶぞ。あんた以外の」

 

 ついに店長は激昂する。それでもアイリスの魂は揺るがない。

「私は移民管理組合に報告します」

「…………は?」

 突然の言葉に、店長はたじろいだ。

「クリストフ・ロイド。アリオ・マルケル。ジャック・ヴァンダーウッドセン。知ってますよね? 顔馴染みなんだから。3人ともここの店員。エルフ。ドワーフ。ホビット。もう一つの共通点は不法移民」

 

 ティルナノーグで暮らすには、移民管理組合の正式な手続きと許可証が必要になる。

 ちなみにこの店長にはすこぶる不評であると調べはついている。理由は簡単。金をかけたくないから。

 

「あなたの妻も、一緒に住んでる親戚も不法移民であなたが家賃を払ってる。騎士団を呼びたいなら呼べばいい。ただし私はこの事を移民管理組合に全部バラす」

 

 店長は手札を全て奪われたポーカーのカモみたいな顔をしていた。さしずめアイリスは根こそぎむしり取った元締めか。そんな優しいものであれば良いが。

 

「それが嫌なら、座って」

 

 店長は、無言で椅子を引っ張り、腰を下ろした。

 もはや彼は逆らえる立場になかった。

 

 蒸し暑い昼下がり。

 飲み干されたカップにむなしく残された氷がカランと音を奏でる。

 それが試合終了の合図だった。

 

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