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貿易都市ティルナノーグ。
夢と富が集まる大きな港。
人集まるところに食もある。
どこにでもある飲食店で給士が辞めた。
人間関係。金銭の問題。あるいは店長の嫌がらせかもしれない。
それは本当に些細な、よくある、普通の出来事だ。
だけど放って置けない人はいるものだ。
よくいるお節介とか、友達とか。
アイリス・リベルテとか。
「ここの店員は家族って言ったましたよね? 家族に暴力を?」
「騎士さん。あなた勘違いしてる。俺は……」
「あぁ、スキンシップですか? “気持ち悪い方”の」
「勘違いも甚だしい。騎士団を呼ぶぞ。あんた以外の」
ついに店長は激昂する。それでもアイリスの魂は揺るがない。
「私は移民管理組合に報告します」
「…………は?」
突然の言葉に、店長はたじろいだ。
「クリストフ・ロイド。アリオ・マルケル。ジャック・ヴァンダーウッドセン。知ってますよね? 顔馴染みなんだから。3人ともここの店員。エルフ。ドワーフ。ホビット。もう一つの共通点は不法移民」
ティルナノーグで暮らすには、移民管理組合の正式な手続きと許可証が必要になる。
ちなみにこの店長にはすこぶる不評であると調べはついている。理由は簡単。金をかけたくないから。
「あなたの妻も、一緒に住んでる親戚も不法移民であなたが家賃を払ってる。騎士団を呼びたいなら呼べばいい。ただし私はこの事を移民管理組合に全部バラす」
店長は手札を全て奪われたポーカーのカモみたいな顔をしていた。さしずめアイリスは根こそぎむしり取った元締めか。そんな優しいものであれば良いが。
「それが嫌なら、座って」
店長は、無言で椅子を引っ張り、腰を下ろした。
もはや彼は逆らえる立場になかった。
蒸し暑い昼下がり。
飲み干されたカップにむなしく残された氷がカランと音を奏でる。
それが試合終了の合図だった。




