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「…っ、どうして、俺は…」
ジュールは近くの窓ガラスに映った自分の姿を見る。綺麗に整えられていた以前とは違う、まるで浮浪者にも思える自分の見た目。
きっとベルが愛想を尽かしたのだって、そんな理由からだろう。昔から自分の容姿が周囲に好まれているのは分かっていた。女たらしで、ギャンブル狂でどうしようもなかった父に似た自分の姿。
幼い頃は母によって、決して父のようにならないようにと厳しい教育や躾けを受けていたが…いつからだろう、気付いた頃にはもう楽な方へと流されていった。
きっかけは何だったかもうわからない。
厳しかった母は叔父との恋に夢中になり、あんなにも気にかけていたはずのジュールに目を向けなくなった。母はジュールをまるで厄介者のように扱い、叔父はいつしか侯爵家当主のような振る舞いをしていった。連日屋敷では父と叔父たちとの喧嘩が絶えず、物が壊れ、血が流れ…使用人たちも逃げ出ていくような家だった。
そんなことからジュールも家には帰らず、転々と自分を迎え入れてくれる女性の家で過ごすようになった。身分は問わずにこの顔を好いてくれる女の元へ行き、着飾ってもらってまた別の女の元にいく。遊びと割り切っている年上女性や未亡人を好んで回っていることからも、大きなトラブルはなく…そんな生活が自分に合っているとも感じていた。
しかし…そんなある日、事件が起きてしまったのである。
噂を聞きつけて屋敷に戻った頃にはもう…屋敷は真っ黒く焦げており、中から3人分の遺体が見つかった。新聞社の記事では侯爵家に勤めていた使用人たちに聞いたのか良くない噂ばかりが流れ、おかしな記者たちがジュールを追いかけまわすようになった。
お世話になっていた女性たちも目立ちたくないからとジュールを避けるようになり、いつしかジュールは1人になった。誰も手を差し伸べてくれる者はおらず、自分1人では食べ物にすらありつけない無力な男。
それが…当時15歳のジュールだった。
「あぁ、そうか。君が噂の」
それは当時、ジュールが屋敷の側で呆然と座り込んでいた時だった。雨が降り出し、どこにも雨宿りが出来ずにぼんやりと空を見ていたジュール。そんな中でたまたま通りかかった馬車が止まり、1人の男性がジュールに声を掛けてきた。
「ちょうど、うちの子と同い年くらいだよね?だから、どうしているのかなって気になっていたんだ」
馬車に乗せてくれた男性はそう話し、体が温まるからと飲み物を差し出してくれる。甘いブドウの香りに誘われて口にしたそれは、ジュールの喉を焼き尽くすようにして一気に熱さが広がっていった。
「っ、ぐふっ…」
「ん?…ぁ、すまない!ほら水を飲みなさい!悪い噂ばかり聞いていたから、きっと慣れているものだと思って。まさか全部一気に飲み干すなんて…」
喉からゆっくりと胸まで落ちていく熱さを感じる一方で、思考が鈍っていき、段々と目の前の男性の声も聞こえなくなっていく。重たい瞼をゆっくりと閉じながら、ジュールは久しぶりに自分の気持ちが穏やかになれたように感じるのだった。
第2章に続きます。書き溜めが終わったら更新していきます!




