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「ディーナ!」
船から降りてすぐ、ディーナの元へ焦った様子のジュールが駆け寄ってきた。しかし、ディーナは近寄る彼を手で止め、まずは傷口の確認をする。
(首元に刃物の傷…でも良かった、深いものじゃないわ)
ジュールがなにかを言いたげにしていたものの、ディーナは「また後で」と声を掛けた後に、そのまま早足で船員たちの間で必死に頭を下げているラジェイア公爵の元へと向かうことにした。
ディーナの胸元の赤子は、今もまだか弱く泣き声を上げている。
それはまるで…幼い彼が必死に何かを伝えたそうにする泣き声だった。
ディーナが騒ぎの方向へと足を進めても、ラジェイア公爵のはまだこちらに気付いていなかった。大勢の船乗りたちに責めよられ、体を傷付けられる中でも必死に船を止めてほしいとお願いするラジェイア公爵。
そんな姿に、ディーナは彼がどれほど姉を守りたいと考えているのか理解できる。
(この赤子の存在はきっと、彼女の姉を酷く傷つけるものになるのだろう。自分はそれを利用してラジェイア公爵と対等な位置で交渉しようとしていたけれど…私にはそこまで冷酷になれない)
だからこそ、こうして船を降りてしまったのだ。
父にはきっと甘いと言われるだろう。いつだって父が満足いくだけの仕事ができない自分だが…今はどうしても、ラジェイア公爵を傷付けることはできなかった。
なにより、胸元で泣いているこの子自身がラジェイア公爵の元へ戻りたいかのように泣き出したのだ。
(もう一度、きちんと話し合いましょう)
そう自分の中で意気込んだディーナは、騒ぎの中心へとまた一歩足を進めるのだった。




