-3
ラジェイア公爵はこの騒ぎの中ではまだ、ディーナが近づいてきていることに気付いていないようだった。
「皆さん、ごめんなさい。私がついうっかり忘れ物をしていたのを、公爵様が届けてくれたみたいなの」
ディーナがそう船員たちに声をかけると、迷惑がっていた船員たちはディーナに気付いてすぐさま態度を変える。元々、ディーナはワイン事業の関係でこの船着き場を利用していたことから、顔も知られていたのだ。
「イエリア侯爵夫人!?…って、あぁ、久しく会ってないと思ったら、腹の子が生まれたんですね」
「ふふ、ようやく一緒にお酒も飲めそうだわ。そうそう、今回の迷惑料として今度、いつもの酒場で飲むときは私の名前を出してくれる?その時のために絶品のワインを樽で用意しておくから」
驚いたようなラジェイア公爵と視線が合うものの、ディーナは気にせず彼らと話を進めていく。
「それに…これも!折角ならもらってしまいましょう?」
そう話すディーナは、ラジェイア公爵が差し出そうとしていた金貨の入った袋を手に取ると、にっこりと笑みを向けながら船員たちに渡して自由に使っていいと話す。出発を少し遅らせてしまった分、乗客たちにも彼の名前でお酒を振舞っていいと話すと、船員たちも上機嫌へと変わって仕事へと戻っていくのだった。
「…本当、見知った人たちで良かったわ。そうじゃなきゃ、海に関わる男性には喧嘩を売るべきじゃないもの」
男たちの間でぼこぼこになったラジェイア公爵を見ながら、そう口にするディーナ。
しかし、船員たちを無事納得させたことに安心するのと同時に、流石に無理をしすぎたのか腹部の傷の痛みと共に眩暈を感じてよろめいてしまう。そんな時、急いでディーナに駆け寄って支えてくれたのは後ろに控えていたジュールとトラヴィスだった。
「ここからそれほど遠くないところに、知り合いのいる教会があります。ここじゃ人目も集めてしまいますし、移動しませんか?」
そんなトラヴィスの提案を受けて、4人はその場を移動をすることにした。




