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「これからの話をしないといけないわね」
ディーナはゆっくりと体を起こすと、ハワードに声をかけてどれほど時間が過ぎてしまったのかを確認する。ハワードは懐中時計を確認しながら、ディーナが倒れてからは3時間ほどが過ぎていると教えてくれた。
「ラジェイア公爵が待ってくれると話したのはたった1日でしょう。だから、私たちきちんと話をすべきだと思うの」
そう言ってジュールに向き合うディーナ。すると、ジュールはハワードに赤子を預けた後、ゆっくりとディーナの傍にある椅子に腰を掛けた。
「…いや、そう悩むことじゃない。公爵の提案はディーナにとっても子供たちにとっても、悪くないものだと思うんだ」
そう話す彼は、きっと意図して視線を合わせないようにしているのだろう。ベッドサイドに置いてあった水差しの水をグラスに注ぎながらも話を進める。
「以前、公爵とは賭場で話したことがあるが、それほど悪い気はしない人だった。ほら、俺のこういう勘って当たるから」
確かにジュールは以前から、取引先とのパーティの中でも直感で人を判断することが多かった。実際、ジュールが避けた相手は後に不正が発覚するなど、彼の野性的な勘がディーナの事業に繋がったことがある。
ただ、ディーナは突然そんなことを口にするジュールの本心が分からなかった。
「だから…貴方と別れて、あの人の元へ行けばいいっていうの?」
そう責めるように口にしてしまうディーナ。すると、水の入ったグラスをこちらに渡してくれた彼は、困ったように笑っていた。
「考えてたんだ。これからどうするべきかって。そもそも、俺のことは病気で療養していたって周囲には知らせているんだろう?ベルを家に囲い込んだことは、当時の使用人たちも呼び寄せた商人たちにも知られているはずなのに、屋敷に戻ったらなぜか俺は皆に待ち望まれた可哀想な夫だった」
そういって困ったように笑うジュールの姿を見て、ディーナは胸が締め付けられるのを感じた。確かに彼が話す通りであり、口止めするためにも多くのお金を使い、時には圧力を掛けるようにして、ディーナはジュールがベルを愛人として引き入れた噂を消し去っていた。
…けれど、そうしなければ全て終わりだったのだ。
ただの契約結婚で、跡継ぎの為だけに夜を過ごして子を成して…そんな10年を終わりにしたくなかった。いつのまにか愛してしまった彼を、どうしても引き止めておきたかったのだ。
どこの誰かも分からない女に夢中になっても、あの時は道を違えただけだと、そう感じた彼が戻ってきてくれればそれでよかった。
それなのに…。




