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ディーナは色々と話を聞く中で、ラジェイア公爵と姉の関係は普通の姉弟にしてはどこか関係に違和感を感じた。
1人の赤子の存在を隠すほどに…まるで何かを壊さないように守ろうとしているラジェイア公爵の行動には、少しだけ狂気じみたものも感じてしまうのだった。
「あの子をどうするつもりですか…?」
「別に今はどうするつもりもない。ただなぁ…隣国を揺るがすほどの立場を持ったこの子を簡単に殺すのは惜しいだろう?」
そう言ったラジェイア公爵はふとどこかに視線を移す。そこには、画家に描かせたのだろう美しい女性の姿が飾られており、その下にラジェイア公爵の姉の名前が書かれていた。
「俺には今、姉さんに疑われない形でこの子を手にしておく理由が必要だ。愛する夫を寝取った女の赤子が生きているだなんて姉さんが知ったら、すぐにでも殺しにやってくるだろうからな」
「そんな…」
ディーナは飾られた絵の人物がラジェイア公爵が話すように恐ろしい人には思えなかった。ただ、絵の中の彼女の真っ直ぐな瞳がまるでこちらを見透かすように見つめている気がして、少しだけどきりとしたディーナ。
そうして、絵の中と彼女とそっくりな瞳で、ラジェイア公爵がディーナを見つめていることにも気付く。
「だからこそ必要なんだよ、都合良くこちらの事情を理解していて、この子を産んだとして書類を書き換えても問題がない女」
ラジェイア公爵の言葉に隣にいたジュールがびくりと反応するのが分かる。するとジュールは、まるでディーナを庇うようにして自分の背にディーナを隠そうとする。
「ディーナに求婚していたのは、彼女がその条件にぴったりな人物だったからですか?」
「あぁ、妊娠していてかつ出産間近の女。夫を嫌ってあんな辺鄙な別荘に送り込むくらいなのだから、これ以上ない人物だろう?それに…お前たちには恩を感じてほしい。誰がその子を取り上げてやった?馬車の中で腹を割いてその子を取り出してやったのは俺だ」
腕の中で眠っていたはずの子はディーナの震えに気付いたのか、それともラジェイア公爵の気迫を感じ取ったのか、突然に泣きだしてしまう。ディーナはその瞬間、恐怖でいっぱいになった。
ついさっき、医者に治療を受けた時にお腹にある縫い痕には気付いていた。ただ、それよりも先にするべき話があるからと詳しくは聞き出さないでいたのだが…やっぱり、この子は奇跡的に助かったのだ。
出産に関して勉強したとき、10カ月よりも前に出血や水が溢れ出した場合、この国では殆どの子が助からないとされていた。腹を割いて子を助け出す方法も知られていたものの、あまりにも人道に反したような行為であるからしてその方法を取るものはいなかった。ましてや、貴族の女性が肌に刃傷を付けるなんて…あり得ないとされる世界だった。
「イエリア侯爵夫人、その体に傷を付けた罪を俺が償おう。別にいいだろう?その男は厄介な男だったはずだ。他にいる子供たちを引き取ってもいい。公爵家の力があれば、普通じゃできない他国への留学だって支援してやれる」
「っ…公爵、彼女はまだ私の妻で…」
「いいや、この国では離縁は簡単だ。書類にサインして王都の教会に持ち込めばいい。普段は面倒な公爵家の地位も財産も、こんなときにだけは有用に使えるからな。再婚までの手続きだって1日で終わる」
赤子の泣き声が響く中、ディーナは突如として腹の傷の辺りが熱くなって、ずくずくと痛みが広がる感じた。冷や汗が流れて、段々と景色がぼんやりと変わっていく。
「本来ならサインなんてなくても教会を丸めこめる。ただ、腹を切り裂いて子を取り出す経験が公爵家の医者たちの良い勉強になったから、こうして譲歩してやってるんだ。…あぁ、夫人はもう限界のようだな」
赤子を落としたりしないよう腕に力を入れながらも、自分を支えることはできなくなって倒れこんでしまうディーナ。そんなディーナを支えたのは、隣にいたジュールだった。
「1日だけやる。サインするのか、しないのか?まぁ、結果は変わらないと思うがな」
ディーナはそうしてラジェイア公爵のそんな言葉を聞いたのを最後に、自分の意識を手放してしまうのだった。




