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無音の令嬢  作者: お狐
2章 『無音』の令嬢
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急変

《毎日投稿期間中》


今回はリュカ目線の話です。

次話もこの続きになります。

《リュカ目線》


ライラがハルに連れて行かれた後、私はやり場の無い怒りとやらせなさ、その他の混ざりに混ざった暗い感情で何もする気が起きなくなっていた。


そんな状態だったからか、自分の今の状況が何も分からない。


いや、正確に言えば、ここが王城の我が父、国王の執務室で外が暗いことから夜であることはわかっている。父上の他に、誰もいないが。

いつのまに私はここに帰ってきていたのだろうか。


いや、そんなことはどうでもいい。今、父上はなんと言った?

だんだんと意識がはっきりしていく中で、先程父上が放った言葉は絶対に聞き流せないものだった。



「………ち、父上?今何と?」


「隣国、クロスマリナ王国に聖女が現れた。何と、異世界からやってきたそうだ。……その聖女たっての希望でお前と宰相の息子、騎士団長の息子が呼ばれている。一応、聖女の降臨を祝う式典に招待されたという形を取っているが、立場的にも、能力的にも、容姿的にも………まぁ、そういうことだろうな。」


「いや、そちらも嫌ですが、その後です。その後何とおっしゃいました!?」


「落ち着け、私に言うな。………ライラ嬢も招待されている。それも、ライラ嬢のファミリーネームとして『ブランシェット』を使ったそうだ。招待状を送ってきたクロスマリナ宰相も『ブランシェット公爵家には「ライラ」と言う名前はいないはずだが』と言う一文を添えてのものだった。情報規制をしてブランシェット公爵家長女は除名された後死んだ事になっている。よって、宰相でさえ知らなかったことを聖女が知っている事になる。」





なんだ?この胸騒ぎは。冷や汗も止まらない。

………いや、もう私がライラの心配をする必要も、していい立場でも無いのだ。気にしなければいい。





………待て。今、私は何を考えた?ライラのことを諦めるようなことを考えたか?

大体、ライラに惚れ込んで、囲うような真似をしたのは私だ。それを今回の件だけで放り投げるような真似をしたのか?

私のライラに対する思いはそんなに軽いものでは無い。断言できる。

………私がライラにはられる可能性しか、今はないがな。



………それにしても、なんだ?この違和感は。ライラのことを考えると、薄靄がかかるように、考えが回らなくなる。





「お前が今日、ライラ嬢と色々あったのも知っているが、私と重臣達、先に上がったもの達で3日後にクロスマリナ王国に行かねばならない。なんでも、聖女を呼び出した神官が『神託が降った。3日後に聖女誕生の儀を行わなければならない』と言ったらしい。教会の方からの圧力がすごいからな。断れない。分かるな?」



苦虫を1ダース噛み潰したような表情をしながら父上は言うが…….仕方ないな。私情を挟める状況では無い。

なんたって、『聖女』だからな。

諸国への対応、この国のポーズ、贈り物など頭が痛くなるような問題を3日……いや、移動期間を考えると2日で終わらせなければいけない。なぜこんなときにこんなことをやらなければならないのだ……。



それは父上も同じ気持ちだろう。

父上は表面上は教会を大切にしているが、本当のところはそんな不確かな神とやらに政治に関わって欲しく無いと思っていらっしゃるから。


だが、教会勢力はクロスマリナ王国を中心に深く根付いてるいる。勿論、我が国にもだ。軽視は出来ない。


史実通りの『この世に繁栄をもたらす聖女』ならいいのだが……。教会勢力がさらに力が欲しいためにでっち上げた可能性もある。

たとえ、偽者だとしても、無視はできないだろうが。




正直、面倒臭い方仕方がないし、そんなことをしている場合じゃないし、断りたいが、それを押し込めて笑顔で答える。


「勿論、私からはなんの反論もございません。2日で全ての支度を済ませるのは至難の技です。今日から当日まで一睡もできそうにありませんね。」


「あぁ、全くだ。………リュカ。女性関係はすぐに解決しないと取り返しがつかなくなる。ましてや、ライバルがいるならな。すぐに支度に取り掛からなくていい。まずはライラ嬢に話を招待の話をすると言う名目で会ってもらって、謝ったらどうだ?」



………父上の生温かい目と優しさが辛い。と言うか、もう伝わっていたのか。


しかし、そうは言っても今回、何故ハルに責められたのかが意味がわからないのはもちろんだが、それをライラは受け入れ、むしろ私が完全に悪者だった。


それに………ライラはハルに姫抱きされる事に拒否感は全くなかった。これは……ライラの気持ちがハルに向いていると言う事でいいのだろう。


今更私がいったところでどうなるのか。


そして、一番の問題は……



「恥ずかしながら、何故ライラが機嫌を損ねたのか分からないのです。」



……なんだ?この父上の反応は。なんだか凄く馬鹿にされていると言うか、幼子を相手にしているような態度というか。

すごく、この目線にイラッとする。


だが、本当にわからないのだ。

心優しいライラが機嫌を損ねたのだから、何かしらの理由があるのはわかっている。しかし、それがなんなのかは分からないのだから仕方ないだろう。







「あらら、そんなこともわかったないの?王太子サマ?」



ふいに隣から声が聞こえた。

とっさに振り向くとそこには見覚えのない白髪の優男がいた。



「っ!!《ファイアボール》!!」



詠唱を省略して魔法を撃つ技術は高等な物だが、私はとっさにそれを行った。ライラに追いつくための訓練がここで生きるとは。

私は侵入者を観山に仕留めたと思って追撃の準備をしたが……



「あらやだ。王太子サマってば強いよねぇ。……だけど、そんな柔な魔法じゃ私の体には届かないわぁ」


「なん…………っ!?」



撃ったファイアボールは優男の体に傷をつける前に全て消滅したのだ。

なんと言うことだ!!魔法が効かないとでも言うのか?



「………ライトリーフ殿?息子を揶揄うのはよしてもらえないかな?」


「あらやだ、そんなつもりなかったのよ。それに、急に撃ってきたのは王太子サマじゃない。」



深いため息をつきながら父上は優男に話しかける。……知り合いなのか?



「挨拶できなくてごめんなさいねぇ。私はライラック商会直属の機動部隊『群青のさざ波団』団長、ライトリーフよ。気軽にリーフって呼んでね♡」



キャピっと効果音がつくような行動を、いくら女性的な男だからといってするのはどうかと思うが。


ライラック商会の機動部隊……と言うことは



「勿論、ライラ様に忠誠を誓っている者の1人よぉ。」


「…………それは失礼した。私はリュカ・エティエンヌ・グランデだ。先程私が攻撃した件は謝ろう。だが、リーフ殿も……」



「あーーー!!その話は後でね!後でお小言は聞くから、先に超重要案件があるのよ。」


「「重要案件?」」



………なんだかこのまま、のらりくらりとこの件について言及させてもらえない気がする。その上、ここにどうやって忍び込んだのかも一生聞かない気がするが、ライラ直属の部隊の団長が来るほどだ。何かあったのだろう。

……それに、なんだか嫌な予感がする。



「ライラ様が今日こちらに帰られないことは伝わっているのよね?」


「あぁ、ハルからの使者により伝わっている。」


「…………」



私は何も言えないし、改めて確認してきたリーフに怒りすら湧いてきている。嫌がらせが?


私の視線に気づかないフリをして、芝居がかった真剣な顔で……いや、これは優男で、先程まで道化のような行動をしていたからそう思うのだろう。目は本気だと分かる。そんな表情でリーフはこう言った。



「ライラ様がリュカ王太子サマとのデートの際に、クロスマリナ王国の暗殺者に狙われたわ。」







…………思いもしない爆弾が執務室に落とされた。






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