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無音の令嬢  作者: お狐
2章 『無音』の令嬢
41/48

揺れ動く

《毎日投稿期間中》

ハル目線の話です。


33話の『恋慕』からのハルの心情と行動がメインです。

少し長いのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。

《ハル目線》



ライラ様は空を移動している途中に寝てしまわれた。今日はいろいろな事がライラ様の身に起こったから。



それに、私が、失態を犯してしまったことも挙げられるだろう。





ライラック商会でライラ様を呉服屋に連れて行った時、私は普段着飾らない、可愛い物好きの主人がお洒落をすると言うことで浮かれていた。あの方は、すぐに自分を後回しにするから。


全て終わった後、ライラ様に、恥ずかしそうに、ふてくされながら、この格好は似合ってないか、と聞かれた時には、天に召されそうになった。

すんでのところで、こらえたが。


だってそうだろう?女神が目の前にいるのに意識を飛ばすことほど勿体無いことなんて中々ない。







……そんな風に浮かれていたからいけなかったのだ。

きちんと理解出来ていなかった。



リュカ王太子様とデートされるということを分かっていたのに、ライラ様のお部屋に戻り刻一刻と時が進むに連れ、きちんと認識したのだ。




リュカ王太子様(ほかの男)のためにあの格好をされていることと、それを私がお膳立てしたことを。




そう考えると、いてもたってもいられなくて、口が滑った上に、衝動のままに行動してしまった。



『主人の姿をほかの誰にも見られたくない』………と。



とんでもないことを口走ってしまった。

あんなことを言ったことに、自分でも驚いた位だ。


普通だったら、こんな従者、すぐに捨てられてしまう。

主人に仕える上で、恋愛感情なんて邪魔なだけなのだから。


それにも関わらず、ライラ様はチャンスをくださったのだ。

本気にはせず、揶揄うと言う方法で。



確かに、これからも私が従者としてライラ様とともにいるためには、あの行動がベストだった。流石ライラ様。素晴らしい機転です。






………だけど、違うんだ。

あなたに従者として見られたくない!!


あなたがいない間、確かに私は素晴らしい従者になろうとした。あなたが私がいなければ生きていけなくなるくらいに。


しかし、心の奥底、自分でも気付かないところで、従者では物足りなくなっていた。

もっとあなたに近い存在に……。



いやだ、私を見て、ライラ様。

従者と言うフィルターをかけないで。

年齢にそぐわない、大人びたあなたは私のことをすぐに子供のように扱う。

そんなことは、嫌なんだ。





そんな自分勝手な衝動に突き動かされて私はライラ様のお手をとった。そうしたら、長年求めていたものに触れられたことが嬉しくて、こんなものじゃ物足りなくて、夢中でライラ様のかんばせに近付いた。


ギシリとなったソファーの音でハッと、正気に戻ったが…………もう、引き返せなかった。

だから、精一杯大人の男として見てもらえるように、背伸びをする。




顔が熱い。それでも、余裕を崩すな、表情を作れ。今まで培ってきた全てを使って全身を取り繕え。


想定外のことが起きた時、人の思考は止まる。

そこを畳み掛ける。




「ライラ様。私は貴方に助けていただいたこの感情と恋慕の情を勘違いしているわけではございません。本当に、本当に………貴方のことが好きなんだ。」





ずっと、言いたかった言葉。

でも、言ってしまったら、もう、戻れなくなる、禁断の言葉。



ライラ様が小さく息を飲む音が聞こえた。

手応えは…………分からない。














そっと、押し返された。

ライラ様はすこし、顔色がよろしくなかった。


反応は明らかだった。



…………私は何をしているんだ。救っていただいた恩人にこんな顔をさせて。身の程も知らずに浮かれて、困らせて。


なんで私を受け入れてくれないの?ライラ様。


もう、ライラ様とは一緒にいられない。私は捨てられるんだ。いやだ、いやだ。離れたくない。離したくない。


やだ、他の男がライラ様の心の中にいるの?


仕方がない。私なんかでは、ライラ様に相応しくないに決まっているだろう。


自分よりライラ様に相応しい男がいるの?誰よりも努力してきたのに?


無理だったんだ。





私を…………捨てないで。ライラ様。













フワリと花の匂いがした。ライラ様の洋服に使っている石鹸の香りだ。


暖かい。


縋りたくなる。




……ライラ様が私の目の前にボートを浮かべて、こうおっしゃった。


『ハル。今日の先約はリュカ様よ。あなたなら分かるでしょう?』







………………あぁ、この方はどこまでも甘い。

先程の表情から私に望みすらないのは明白だ。


それなのに、タイミングさえあえば。望みがあるように言ってくださった。




…………私はそっと、ライラ様のおそばから離れた。

今はほかの男と好いた女のデートのお膳立てをしよう。

それが私にできる精一杯だから。













デートには、ライラ様の身の安全を考えて、ライラック商会の月光の白百合団を街中に散らばらせた。

もちろん、私はライラ様の御身のそばで周囲を監視している。



リュカ王太子様がヘマをしたらすぐにライラ様を連れ去るために。


まぁ、そんなヘマをする男ではないだろうが、そのくらいのことを考えたっていいだろう?


ライラ様がほかの男の隣で笑っているのは気が狂いそうになるから。









噴水の前でリュカ王太子様はライラ様に、どこか変だ、と聞いていた。確かにそうなのだ。

だけど、原因はわかっている。



私だ。



ライラ様はリュカ王太子様の前で、私のことを考えて下さっているのだ。


喜ばしい、大変嬉しいことだ。しかし、従者としては絶対にこんなことを思ってはいけないのだ。主人の影として、存在を消して行動するのが正しいのに。


私はその事が、身が千切れそうな程に、嬉しい。

醜いものだな。










観劇にライラ様が向かう途中、月光の白百合団から連絡が入った。ライラ様を狙う者がいる、と。

ライラ様の警備に100人ほど近辺に潜ませ、私とキッド 、精鋭10人とともにそちらに向かった。



敵は隠密の技術を使って、周囲の気配は全く感じないのだが、そんなもの対策済みだ。魔力探査機で怪しい魔力の流れをすぐに察知できるようにしている。


あとはカマをかけて姿を表すのを待つだけだ。



「おや、こんなところにドブネズミがいるじゃありませんか。下水臭いドブネズミはさっさと隣国に戻ったらいかがですかぁ?」



魔力の流れが乱れたことで姿を現した人間は、ゴキブリのような姿をしていた。

特徴的な格好から、隣国に囲われている由緒正しい殺し屋集団の一員であることは明らかだった。

しかし、隣国がライラ様、もしくはリュカ王太子様を狙うのはなぜだ?

これはきっちり吐かせなければ。



殺し屋は術を見破った(と思っている)私たちに警戒をしながら、言葉には応じず、素早く(指揮官)を狙ってきた。流石に行動が早い。


目の前にテラテラと紫色に光る刃が目の前に届いた時、殺し屋は私が反応できてないと思ったのだろう。ニヤリ、と笑っていた。


そして、肌に触れそうになった時、………ガキンとナイフが折れた。殺し屋にもこんな経験はなかったのだろう。

慌てた一瞬の隙を狙って、手と足の関節を逆に折り、アキレス腱を切って、指を落とし、口に詰め物をして、自殺されないように解毒や魔法解除の魔術を使った。





呆気なかったな。もっと手こずるかと思ったが、ナイフを追った後の行動はまるで素人のようだった。

由緒正しい殺人集団の名が泣くな。



「案外弱くて助かりました。さて、あなた達は指揮をルナに頼んで元に戻りなさい。キッドはここに残って。この不届き者を尋問します。」


「おう、分かった。ライラ様を狙うなんて、お前もアホな事したなぁ。ハルの尋問はこえぇよ。俺だったら絶対ヤダ。」


「ふふ。そんな事ないですよ。私は至って普通にお話を聞くだけです。……さぁ、あなたの知っている事、全てを話してもらいましょうか。」



暴れもせずにガタガタとみっともなく震える敵には、私が悪魔にでも見えているのだろうか?


まぁ、もともとはそう(悪魔憑き)だったがな。













はぁ、吐かせるのにすこし時間がかかってしまった。殺し屋は尋問などに訓練を積んでる事が多いから、口が固くて嫌いだ。


ライラ様は観劇を終えて、レストランにて食事をするようだ。2階のテラス席を選ばれたということで、私としては好都合だ。店内だったら侵入しなければいけないからな。









護衛隊長モスダム、ライラ様を疑うとはなんと無礼な。

だが、確かにライラ様はあまりに美しすぎる。あの細い御身のどこに、強大な魔力が入っていると誰が思うのだろうか。


…………しかし、羨ましいな。ライラ様の手を煩わせたのは許さないが、ライラ様の魔力に包まれて、助けていただけるのは。………いや、私はライラ様を助けるための存在なのだ。そんなこと思ってはいない!!







ほう、ライラ様の結界を攻撃させて、力の差を理解させるのか。脳筋には一番効くだろうな。



………まぁ、護衛隊長如きがライラ様の結界を破れるはずがないよな。剣を折ったのは護衛隊長なのだから、ライラ様が罪悪感を感じないようにしてもらいたいものだ。

もし出来なかったら、後で殺す。








……………っ!!あれは、魔術なのか?ライラ様が直したあの剣………すごく欲しい。というか、なぜ護衛隊長如きがライラ様のお手を煩わせているのだ?やはり、あいつは処刑だな。

いや、今そんなことを考えるべきではないな。月光の白百合団に周囲で、ライラ様の起こした奇跡を見た者がいないかを確認させなければ。




さて、王太子はどうやって動くのか。

ここが男の見せ所だと分かっているよな?




……………は?王太子は何をやっているんだ?

なぜ開口一番にライラ様を責めているとも取れる言葉を発する?ライラ様がどのように受け取るかも想像できないボンクラなのか?


その後に、他の者に圧力を掛けるなど言語道断。

ライラ様のいないところでやれ。やるのは当たり前だ。だが、ライラ様に悟らせるな、この木偶の坊が。


あぁ、ライラ様の眼がウルウルと揺れている。

なぜ、誰も気付かない。なぜ、低脳王太子はライラ様から目を離す?









……………本当にやるとは思っていなかったが、こちらとしては好都合だ。

ライラ様を拐う事ができる。


先にやらかしたのは、王太子、お前だぞ?



さぁ、愛しい我が主人()を無能王太子から、救おうではないか。


悪役だろうがなんでもいい。

人が弱っているときにつけ込むのは卑怯なのも分かってる。


だけど、私は手段を選べるような立場では、もう居られないのだ。


なりふりなど構わない。






悪く思ってくれるなよ?王太子殿?

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