第九話
目が覚める。
スマホで時間を確かめると日の出までまだ四時間以上ある。
大登も朝遅くまでぐっすり眠るつもりだったから夜中に目が覚めてしまうと損をした気分になった。
しかし、トイレを我慢していたら眠れないだけである。
「まぁ、しゃあないか」
布団から出ようとして気が付いた。襖の僅かな隙間から明かりが漏れている。
「誰か、廊下の電気を消し忘れたのかな。トイレへ行った帰りに消せばいいか」
そう思いつつ、部屋を出て一階にあるトイレへ向かう。一階へ降りると台所の電気が点いている。
「台所の電気も消し忘れたのか?」
大登はトイレへ入る前に台所の電気を消すことにした。台所へ入ろうとしたら磨り硝子の向こうに人影が見えた。
「ん?」
そう思いながら台所に入ると一人で読書をしている少女がいた。
緑香が読書をしていた。
「どうしたの、大登君。眠れない?」
「あ、いや、トイレに行きたいだけだから、大丈夫だよ」
この人の名前を呼ぶ際、単に緑香で良いのか、フローレンス=緑香と呼ぶべきなのか、それで大登は悩むのだが、緑香には大登が何かに戸惑っているとしかわからない。
とりあえず大登はトイレへ行って用を済ませる。二階の部屋へ戻る前にもう一度、台所に入ってみた。
「何か、温かい飲み物でも、飲む?」
緑香に尋ねられて大登は「大丈夫です。すぐに寝るんで」と答えたもののテーブルに置かれているマグカップには今さっき淹れたであろうココアが湯気を立てている。それはそれで美味しそうと大登は思ったし、その大登の表情を見た緑香は「ココア、美味しいよ」ともう一度、大登に尋ねてみる。
ココアが気になって眠れないとか、さすがにそれは無いだろうが、今はココアが美味しそうに見えて仕方が無い。
「頂きます」
誘惑に負けたことが大登はちょっとだけ悔しかったが、緑香は大登の答えを聞くとすぐにマグカップを用意し、ココアを淹れてくれる。大登は淹れて貰ったココアを飲みながら緑香に「緑香さん、緑香さんを呼ぶとき、緑香と、フローレンス=緑香、どっちが正しいんですか」と尋ねてみた。
「大登君が呼びやすい方でいいよ」
「寝ないんです?」
大登の問いに「私は夜型だから」と緑香は答える。テーブルの上には分厚い本が一冊、ドンと置かれている。
「ところで大登君、体調は大丈夫?」
大登が年末年始に体調を崩したことを緑香はまだ気にしているようだ。
「もう大丈夫ですよ。ただの風邪だったみたいです」
大登が言うと「でも、玄関で倒れてたって聞いたよ。ただの風邪でそこまではならないでしょ」と緑香は今でも大登の体調を心配しているようだ。
ココアを飲み終えた大登は「ご馳走様でした」と言ってマグカップをシンクへ持って行く。
「洗うから、置いといて」
マグカップを洗うのは緑香に任せて大登は部屋へ戻ることにした。
「大登君、お休みなさい」
緑香の落ち着いた声が大登には心地よく感じた。




