第二十話
「おはよう……、ございます」
寝ぼけ眼の大登は黄華へ挨拶する。
台所に居た黄華は「大登君、おはようございます」と明るく返し、「何か、飲みますか」と尋ねてくる。
「コーヒー、ありますか」
大登の問いに「ありますよ。とっても苦い奴ですが」と黄華が答える。
「それで、お願いします」
大登が答えると「大登君、そんなに敬語で話さずに、もっと、普通に話してくれていいよ」と黄華が言う。それでも大登にしてみれば黄華を含めて姉妹七人は年上だし、敬語を使うべきだと考えていた。
「大登君、何か食べる?パンならすぐ焼けるよ」
テーブルの上に六枚切りの食パンが一袋置かれている。
大登は「お願いします」と答えていた。その固い返答に黄華は「クスッ」と小さく笑っていた。
黄華は薬缶でお湯を沸かし、余っているコンロにフライパンを置いて食パン二枚を並べる。
大登、キョトンとしているが、黄華は気付かずにコーヒーを淹れている。コーヒーを淹れ終えた黄華が大登の表情に気付いて「なにか?」と尋ねる。
「パンを、フライパンで焼いてるから……」
黄華の視線は電子レンジへ向く。その電子レンジはコンビニなどで売られている弁当類を温める機能はあるが、トースターの機能は持ち合わせていない。大登は一人暮らしを始めて以降、パン類は焼いたり温めたりはせず、そのまま食べていたからフライパンを使ってパンを焼いていることに少し驚き、そして新鮮にも感じていた。
「大登君、食パンは濃いきつね色に焼けた方が好きでしょ」
大登は直接、黄華へパンの焼き加減について話したこともないし、まだそこまで親しくは無い。だから「祖父母から聞いたのだろう」と思っていた。
両面が濃いめのきつね色に焼けた食パンが二枚、皿に載せられて大登の前に置かれる。
バターを塗りながら「黄華さん、食べないの?」と大登は尋ねる。
「朝ご飯、済ませていますし、それに、すぐお昼ですよ」
黄華に言われて大登はスマホで時間を確かめる。確かに遅めの朝食を摂るより、早めの昼食を摂っても良かったような時間だ。
「失敗したぁ~」
心の声が漏れていた。
「大登君、何か食べたい物、有る?」
急に尋ねられても思い付かない。
「お任せします」
それしか答えられなかった。
「大登君、嫌いな物は無かったよね」
そう言いながら黄華は冷蔵庫の中を見ながら昼食の献立を考えている。
パンを食べ終えた大登は自室へと戻ってスマホの画面を眺めたり、本棚に有る本を手に取ってパラパラとページをめくったりして過ごしていた。
大登の部屋に米が炊けた香りが微かに漂ってくる。それからしばらくして台所から「大登君、お昼ご飯できたよ」と黄華の呼ぶ声が聞こえる。台所へ移動するとテーブルの上に大きなオムライスが置かれていた。
大登が持っている食器の中では一番大きな皿にどうにか収まっているが、無理矢理に収めたのは一目でわかる。
アルバイトの出勤時間も迫っているし、今は量の多さを指摘している場合でも無い。
パクパク食べてお腹がパンパンになった状態で部屋を出てアルバイトへと向かった。
大登は自転車を漕ぎながら黄華が昼食を摂っているのか、今更ながら気になっていた。
もう一つ、部屋を出る時に「今晩、何か食べたい物は有りますか」と問われたが、昼食と同様、「お任せします」と答えていた。
大学へ入学して以降、大登の食事と言えばその日その時の気分で決めていた。大学の講義の後やアルバイトの後、帰宅途中にスーパーやコンビニでお弁当を買うか、それすら面倒ならばカップ麺で済ませることもあったから今、黄華から「食べたい物」を問い掛けられても答えられなかった。それに大登は黄華がどの様な料理を得意としているのか、それも知らない。
「帰ったら、黄華さんに得意な料理を聞いとこう」
そう言う事を考えながら自転車を漕いでいた。




