10話 人類侵略する生活
魔族御一行を引き連れて、ずんずんとエルシアドの関所まで近づいていく。
ちなみに街の中には眠たくなる胞子が蔓延しているはずなので、侵略係のみんなには睡眠防止タオルというマジックアイテムが無料配布されていた。
このタオルで列車強盗みたいに鼻や口を覆うと眠りの胞子が効かなくなるんだって!
便利だよね。
これで耳をふさげば校長先生の眠くなる長話を聞いても眠くならないんでしょうか。
「というワケで、みなさん。そろそろ眠くならないタオルを装着してくださーい」
私の号令でみんな一斉にタオルを顔に当てていく。
ちょっと不安もあったけど、コボルトさんも鳥人間さんも素直に私の言うことを聞いてくれるみたいで一安心。
くいっ、くいっ。
「ん?」
暗殺少女が私の純白の戦乙女スカートを遠慮がちに引っ張ってくる。
「あの。私、それ、もらってない」
彼女はタオルを物欲しげに見つめている。
「まぁ、そりゃキミ、関係者じゃないもんね」
「欲しい……欲しい欲しい欲しい」
グイグイとスカートを引っ張るのでちょっとスカートがずり下がってきた。
「こらっ、やめなさい」
「ヒナ様、なんですかその少女。エロ神様が遣わした天使ですか、ぐひょひょ」
エッチさんが私のスカートをずり下げようとする少女に好意を抱いたようだよ。
「このコはさっき知り合った暗殺者でなんか気に入られちゃって……というか、キミは一体どこまでついてくる気なのかな」
「領主をどうにかするって聞いた。私も……お手伝いしたい……!」
暗殺少女は強い決意を秘めた瞳で私のスカートを引っ張る手に力をこめたので、彼女のオデコをねこパンチした。
「ふぎゃっ!」
「でもキミ、領主さんを殺めたいんでしょ? 私、戦乙女ぶってるけど中身はわりと良識的な人間だから、相手が例え極悪人でも人殺しはやらない方向性なんだけど」
暗殺少女はムムッと目を閉じて考え、こう答えた。
「じゃあ私の人生設計をハチャメチャにされた怒りをこめて30秒間、領主のお腹の肉を強くつねる!」
そんなんでいいのか。
まぁ手足を斬り落とすとか言われても困るけどさ。
「あー、それくらいならいいよ。でも強くつねり過ぎてお腹の肉をブチブチュッと引きちぎって本人の目の前で野良犬に喰わせるとか残酷なのは無しだからね」
「ひっ!? そ、そんな怖い事しない!」
言われた瞬間、少女はブルルッと震えた。
暗殺するのはセーフだけど、お肉をちぎるのはアウトなの?
怖い基準がよくわからない。
「ヒナ様って非道な行為を嫌う優しい心の持ち主ですけど、発言は時々えげつないですよね」
「そうかしら」
弱い犬ほどよく吠える、というヤツなので真に受けないでいただきたい。
強い言葉を使うと自分がちょっぴり強い犬コロになった気がするからね。
さて、私には戦乙女サポートアビリティがあるのでステータス異常は効きません。
よって睡眠防止タオルは必要ないので私に配布された分は暗殺少女にあげた。
見渡すとオーク君たちやコボルトさんたちもタオル装備完了し、そうこうするウチに関所の門の真ん前に辿り着いた。
門は左右に開くタイプじゃなくて、上に上げて開くタイプ。
ちなみに今は50センチほど……膝くらいの高さまで門が上がってる。
くぐれないワケじゃないけど、これで1000人くぐるには時間がかかるなぁ。
「おっ! 来たな、泉」
街の様子を見に戻ってたイベっちが門をすり抜けて現れた。
「イベっちん。街の様子はどんな感じ?」
「準備万端よ。兵士から家の中にいる一般市民まで一人残らず寝落ちしてる。今、ゴーストたちに中から家の鍵を片っ端から空けさせてるし、その辺りの家の男どもからバンバン縛りあげてってくれ」
「オッケー。って、この門、もうちょっと上がらないの? すごく入りづらい」
「あー……開閉装置が中にあるんだがウチのゴーストたち非力だからなかなか動かなくてな。何人か連れて中に来てくれ」
パワーありそうなライ君たちを連れていきたい所だけど200キロくらいある懐かしのハワイアン力士みたいな体格のオーク君たちにはくぐれない狭さなので人間より若干小柄なコボルトさんを数人指名する。
わんわんスタイルで這いつくばって狭き門をくぐると、
「わおっ!?」
街全体が何千、何万というピンク色のネムリタケでびっしり覆われていた。
地面から家の壁、屋根、街路樹の幹や枝までキノコづくしだ。
胞子がフワァアアア~って舞いまくって霧みたいになってる。
ついさっきまで街にいただけに、わずかな時間経過からのその変貌ぶりに面喰らっちゃった。
なんか幻想的でもあるこの光景はユニバーサルなテーマパークや巨大ネズミが徘徊する夢の国みたいで楽しくもあるけど。
「泉、コッチだ」
イベッちのナビに従って早歩きで進むと、門のすぐ近くに木の棒を差し込んで、船の舵みたいにグルグル回す装置があった。
これが門の開閉装置かな。
細腕のゴーストたちが血の涙を流しながら「ひぎィィィ……」「むぐゥゥゥ……」と恨めしそうに装置を動かそうとしてる。
「なんか近付いたら呪われそうなんだけど」
「呪われたくなかったら手伝ってやってくれ」
私の指示でコボルトさんたちがササッと棒にとりつき、舵っぽいのを回し始める。
けど、重そう!
グルルル……と歯を食いしばって一生懸命がんばってる。
犬顔のコボルトさんががんばる姿は健気で愛おしいものだ。
異世界にスマホを持ち込めたら写真とって待ち受けにしてやりたいところだね。
「おい、ワンちゃんたちにばかり頑張らせてないで手伝えよ」
「いやぁ……でも私、事務職だし腕力には自信が……」
とはいえ、確かにコボルトさんたちに任せっきりも悪いので空いてる舵の取っ手を掴んでヨイショォと回す。
ぐるるるるるんっ!
「あれっ!?」
ゴガガガガガガガガガッ……!
私が手をかけた途端、コボルトさん4人ががりでも秒速2センチメートルくらいしか動かなかった舵がグルングルンとブン回り、関所を塞いでいた巨大な門が一気に引き上がっていった。
門の前で足止めされていた魔王軍の一団がゾロゾロなだれ込んでくる。
「さすが戦乙女さまワン! 恐るべき怪力だワン!」
「その非情なるパワーならどんな敵も肉塊に粉砕できるんだワン!」
「うふふっ、そんな褒められ方して喜ぶ乙女はたぶんいないからね」
女子レスリングのメダリストなら喜べるのだろうか。
しかし戦乙女パワーすごいな。
百万馬力ってワケではさすがにないけど、大人の男数人分の力は軽く越えてそう。
合コンで暴露したら農家のヨメとしては喜ばれるかも知れないゾ!
農家かー。儲かってる所は儲かってるらしいからな~。
米農家は大変そうだけどブドウ農園を夫婦で経営とかならアリかな。
ブドウなんてほっといても勝手に木になりそうだし自家製ワイン作るとかオシャレな感じだしワイン好きなら良い味出してるカッコいいオッサンっぽくて包容力がありそうだし……。
「おい、泉、泉。正気に戻れ」
「ンハッ……?」
スキあらば幸せで安定した夫婦生活を妄想してしまう私をイベっちが現実に引き戻してくれた。
あと5分くらい泳がせてくれたら気が利いてたのにね!
「で、泉。これからどうする? というかライオンとかワシのヤツはどうしたよ? アイツらが指揮とるんだろ」
「えっと、アレだよ。お腹壊して木に激突して寝てる」
「アタシがいなかった30分足らずで何があったんだ。どっかのアホがパルプンテでも使ったのか?」
「まぁそんなとこ。というかネトゲ慣れしてるイベっちなら、指揮官不在のこの状況……どうやって乗り越えるのかな?」
「えっ? ふふん……そうだな……」
私はうまい事言って指揮をイベっちにポイっと丸投げしてやった。
まぁ私、これから領主の館に突撃しなきゃいけないから、力抜くトコは抜いていかないと精神がもたないっすガチで。




