10話 人類侵略する生活
ネムリタケの眠たい胞子が街の住民を眠らせるまでしばし待機で~っす。
私は、えーっと……どうしようかな?
事前の打ち合わせでは私の部下のオークくん軍団に指示を出して、街の中にいる兵士たちを縄とかでサクサクっと拘束していく予定なんだよね。
暗殺少女ちゃんは神様と気が合ったのか二人で何やら話しこんでるみたい。
彼女の面倒は神様に見てもらう事にして私はいったんエッチさん達の元へ向かって今後の予定を確認しよう。
「エッチさん元気~?」
ガッ!
「ひゃうっ!?」
昨日今日とエルシアドの街で色々と大変な目に遭った私は、みんなと会えて緊張感が溶けたのでエッチさんの尻をガッと思いっきり揉んでやったよ!
「戦乙女様! 俺らの尻もぜひ叩いてくださるとバイブス上がるッス」
抜け目なく四つん這いになってお尻を向けてくるオーク軍団首領のラインハルトなんちゃら君。
太っているのと同時に幕内力士の如くはちきれんばかりの筋肉が詰まった尻肉をお望み通りスッパァーンッとしばいてやる。
「ありがとうございましゅッス!」
「バイブス! バイブスッ!」
最近のチャラい若者がたまに使う合い言葉、バイブスの意味がいまいち分からない私はとりあえずバイブスって叫んどいてやった。
バイブス上がってきたぜ! よく分からんけど!
「ヒナ様、その謎のテンションは一体……? 戦を前にして気が昂っているのですか?」
「まぁそんなとこ」
ふぅ……。
ひとしきりオーク君たちと女王様プレイに興じた私は良い汗を流した。
「よろしかったら、そこの草ムラムラでムラムラを発散しましょう。大丈夫、私に任せてくだされば3分間でスッキリします!」
「それは結構です」
私は自分からお尻を揉んで誘っておきながらエッチさんを突き放した。
勝手な女でごめんね。
「ところでエッチさんは魔王城で待機してるんじゃなかったっけ。どうしてここへ?」
「あ、はい。ヒナ様は領主の館に突撃する事にさっきいきなり突然絶対に決まったのでオーク班の指揮は私がとることに……」
えっ!?
「ちょ、その辺の責任重大なヤツはマルバスさんが全部やってくれるんじゃなかったの!?」
「ソレがそうもいかなくなったのだ」
のしり、と大きな体を揺らしながらマルバスさんが話しに割って入ってきた。
ただでさえ気難しそうなライオンフェイスが更に険しい顔をしているように感じる。
何か問題でもあったのだろうか。
「おなかいたい」
「は?」
「さっき、決戦前の景気づけに血の滴るステーキをたくさん食べたらたらすごいお腹壊した」
ピギュルルルーッ。
耳を澄ませばマルバスさんのお腹からきったねぇメロディが奏でられるのを感じ取ってしまった。
このライオン、ふざけやがって!
私はマルバスさんのピコピコ動いてるライオンしっぽを神様の真似をしてグニッとツネってやった。
「キャンッ!? や、やめてくれ! お腹に響く!! ごぁあああああっ、キタァアアアアア!? だ、誰か鎧を外してくれ!」
目の前でブチまけられるんじゃないかという恐怖に震えるコボルトさん達に大急ぎでガチャガチャと全身鎧を全部外させたマルバスさんは全裸になって二足歩行で茂みに走り去っていった。
あんな必死に走るライオンは野性動物のドキュメント番組でも見た記憶は無い。
「あの、なんかゴメンなさい」
闇の奥へと消えて行く獅子の背中に一応謝っといた。
「あ、でもそれならイポスさんは? あの人の方が私より経験豊富そうだし、やっぱりこんな大事な仕事はイポスさんに……」
「そういうワケには、いかない」
私の祈るような一人言を聞き付けたのかイポスさんがバサバサと翼はためかせ颯爽と飛んできた。
そして颯爽と私の前を通りすぎて草原の真ん中に生えてる大木に頭から
ドグシャアアアアッ!
と激突して颯爽と地面にグシャッと叩きつけられた。
「う、うわぁああああっ!? 大丈夫、イポスさんっ!?」
近づいてみるとイポスさんの背中の右の大翼がベキッと折れていた。
あちこちから颯爽と出血もしている。
早く手当てしないと……!
しかし、その場にいた魔族のみなさんも、自分たちの大幹部がいきなり大ダメージを勝手に喰らって謎の爆死を遂げたので動揺して介抱するどころではない。
「イポスさん、一体何が……」
「と……」
あの逞しかったイポスさんが虚空を見つめながら弱々しく口を開く。
「鳥目だから……夜は何も見えない……から……」
そう言い残すとガクッ、とイポスさんの全身から力が抜け、地に倒れ伏した。
「ク、クェエエエエ!? イ、イポス将軍!! しっかりしてください!」
「将軍がいなくなったら我々はどうすればいいクエッ……!?」
鳥人たちがクエクエッと一斉に鳴き始めた。
なんてことだ……。
ハシビロコウみたいな真面目な顔でクエッとか言われると不謹慎だけど噴き出しそうになるわ。
と、そんな鳥たちの合唱を打ち払うようにパァンッと手を叩く音が一つ、鳴る。
「まったく……これが最近の魔族の現状よ。ワシがぶちキレる気持ちも分かるじゃろ?」
イポスさんをとり囲んでいた鳥人たちがササッと右左に分かれて、その真ん中に出来た道を小さな少女の姿をした神様が歩いてきた。
彼女は腰に下げていた竹の筒から栓を抜く。
竹筒を傾けると中から水がチョロチョロとこぼれ落ち、それを右手ですくってイポスさんにピチャピチャと飛沫を飛ばす。
すると、イポスさんにかかった水滴がエメラルドグリーンな光を放ち、結構ハデに裂けていた傷口がみるみる塞がっていくのが見てとれた。
気は失ったままだけどケガはほぼ治ったみたい。
あー、よかったぁ!
私は絶対に悪くないと思うけど、なんか私のせいでケガした感じだったので余計にホッとしたよ。
「わっ、すごい、治った! カッコいい!」
そばで見ていた暗殺少女が神様のことを褒めた。
先程までと違って目を輝かせて彼女の方を見ているではないですか。
神様は調子が狂う、という感じで頭をかく。
「なんじゃ、こんなのがカッコいいとな? もっと敵をハデにぶっ飛ばす術の方が良いのではないか?」
「そんなことない。誰かを傷つけるなんて私みたいなバカでも出来る。誰かを助けられる力の方が絶対にカッコいい」
暗殺少女が真剣な眼差しで神様を見つめながらハッキリと言い切った。
「そう……かのぅ」
おや、おやおや?
神様、表情を抑えようとしてるけどすっごい嬉しそう。
プッ……くく!
なんかあの偉そうな神様が素直に照れてるのがなんかおもしろ……
「ヒナよ、何を笑うておるのじゃ!」
「ぜ、絶対になんでもないっす!」
久しぶりに体を突き刺されるような殺気を叩きつけられたので私は何も見なかったですよ? という事にした。
近くにいたエッチさんはとばっちりで失神していた。
「そういうワケでそなたが領主の館に行け」
「は、はい」
色々と反論したかったが、また誰かの大腸が爆裂しそうになったり、自爆して生命活動が爆裂しそうになるとちょっと厄介なので私はヤケクソで領主の館に突っ込む事を承諾した。
まぁ今頃、領主の館にいる人たちもネムリタケでみんなグッスリお休みんぐ中だよね。
大丈夫、楽勝、余裕!
って、何かフラグを立てまくってるような気もするけど絶対に大丈夫だよね?




