9話 憧れの関所破りをする生活
関所を出て、しばらく歩き続けてみる。
ふーむ。
魔族のみなさんが街の外で待ってるって話だったけど、姿が見えませんが?
まぁ、コンビニ前でタムロする不良どもみたいに関所のすぐ側で人間にガン飛ばしながら待機するってワケにもいかないのか。
さすがに兵士たちが騒ぎ出すだろうからね。
どっかで待機はしてるんだろうけど、どこにいるのやら。
こんな時はこれからどこに向かえばいいのかをイベっちに相談してサクッと答えてほしいが彼女も関所以降、姿を見せない。
暗殺少女がいるから姿を見せちゃいけないと思ってるのかな。
私はチラリと彼女を見た。
実際、どうしようかなぁこのコ。
「あの」
すると彼女の方から声をかけてきた。
「あなたは私をどうする気?」
「さあ。キミはどうされたい?」
「あの。出来れば私を逃がしてほしい」
ふむ。
ぶっちゃけ今から街を侵略するんだし、危ないので街から離れてくれるならソレに越した事はないのだけれど。
「逃がしてもいいけど、その後はどうするの? 結局、暗殺組織に戻るとかだったらお姉さん悲しいなぁ」
「……暗殺者とか嫌なのは本当。だけど一つだけやらなきゃいけない仕事がある。それが終われば暗殺者は辞める」
「仕事?」
「さっきも話した。領主の暗殺」
おやっ、まだ諦めてなかったのか。
テキトーな雰囲気だが意外に意志は固いコなのかな。
「ん? でも、さっきあんな素晴らしい領主は殺したくないですぅ~みたいな事言ってなかったっけ?」
「アレは真っ赤なウソ。あの場は番兵を納得させるのが得策だった。姐さんを裏切ったのも、あのままでは二人とも捕まる可能性が高かったゆえの決断」
なにっ……!?
全ては演技だった……!?
「じゃあ姐さんが嫌いだったから蹴ったっていうのは嘘っぱちだったの?」
「それは本当。アイツ、いつも私の夕飯のお肉を横取りしてたから……万死に値する」
「そっか。お肉か~。それは値するね、万死に」
「うん。値する」
彼女は深くうなづいた。
育ち盛りだもんね。お肉いっぱい食べたいもんね。
「それはそうと何故、領主の命を執拗に狙うの?」
「あの領主が遊び金欲しさに重い税金をかけてムダ使いするから、いつまで経っても貧しい者が救われない。私の家もド貧乏で私は売り飛ばされた」
「……そっか」
結構、重い話!
あの領主、特別に性格悪そうには見えなかったけど、少なくとも多くの人が納得出来る統治は出来ていないみたいだね。
「よし、分かった。キミの気持ちは分かったよ」
「ありがとう。じゃあ……」
「でも領主暗殺は止めておこう。ね?」
「……そう言うと思った。だって、あなたは領主の先祖」
暗殺少女はシュピンッ! とナイフを出して構える。
むむむ。武器は取り上げたつもりだったのに、さすが暗殺者。
まだ、どこかに隠し持っていたらしいや。
「あなたの事はなんとなくキライじゃない。だから手荒な真似はしたくないけど……邪魔をするなら排除する」
ちょっと仲良くなれそうかなと思ってたのに、彼女ったら腰をスッと落として容赦なく殺気みたいなのを私に叩きつけてきたからお姉さん超ショック!
私は慌てて制止した。
「待った待った! 領主を殺させるワケにはいかない! とか、そういう話じゃないから。むしろ逆だから」
「逆? よく分からない……」
暗殺少女はナイフを向けつつジリッと距離を詰めてくる。
「いやぁ、えっとぉ、今キミが領主の館に向かうとなんか話がややこしくなるっていうかぁ~……」
「つまりソイツは魔王軍の幹部で、たった今から人間どもの街を侵略して、領主サマを裸にひんむいて放り出すから逆にジャマすんなってぇコトよ」
「ッ!?」
暗殺少女がビクッと反応して空を見上げるとイベっちがニヤニヤと闇夜の星を背負ってニヤついていた。
「イベっち! どこ行ってたの? 不安だったよぅ」
「不安だったよぅ、じゃねぇよ気持ちわりぃ。トシ考えろ」
「なっ!? 26ってまだ若いでしょ!?」
「深夜アニメだと余裕でババァ枠だが?」
う、ウソだろ……。
私は全身から力が失われてゆくのを感じて、その場にへたりこんだ。
「あの、こ、これは……ゴースト?」
兵士相手にも怯まなかった少女がイベっちにはかなり強い警戒心を抱いたようだよ。
「そう、彼女はオバケのイベっち。犬が弱点」
「おい、人を髪が三本しか生えてないマヌケなオバケみたいに言うんじゃねぇ。ちなみにミニチュア犬は好きだぞ」
たぶんイベっちが話してる内容は理解出来てないだろうけど、なんとなく怖い悪霊ではないことは察したようだ。
暗殺少女は少し警戒を緩める。
「そして、あなたは……魔王軍、の幹部って? 戦乙女ラヒルダじゃないの?」
「戦乙女だよ、ラヒルダではないけど」
しかも戦乙女というのもなんちゃって設定ですけど。
「アレだぜ、コイツは暗黒面に落ちた戦乙女だ。愚かな人間たちに失望して魔王の手下になり、無能な人間の王に成り変わって自らが人類を支配しようと目論む危険人物で……」
「……! カッコいい……!!」
おやっ。
イベっちの悪意ある説明で逆に暗殺少女ちゃんのテンションが上がったようだ。
「ほほう、闇に染まった人間風情がカッコいいならば、魔界の神はもっと……超カッコいい! という事になるのかの?」
「わ!?」
ほんの数秒前には絶対に誰もいなかったはずの草むらに魔界の神様ソロモンさまがドヤ顔で突然現れた。
神出鬼没とはまさにこの事か。
私は思わず驚いて声を上げてしまったが、暗殺少女は冷静な顔だ。
「あなたは何も分かっていない。ナンバー1より仕事の出来るナンバー2とかスリーの方がなんとなくカッコいい。よって神様よりこのお姉さんの方がいい感じ」
「くぬっ……」
神様くやしそう!
「それに神様は私が困ってる時に何もしてくれなかった」
「はぅ……」
神様ショボンとしちゃった。
「私が前に会った時はすごい偉そうだったのに子供にヘコまされてるよ、意外だね」
「アレじゃねぇか。子供から出る無垢な言葉はこたえる的な」
なるほど。さすがイベっち、的を得てるかも。
確かに子供に好かれるとなんか嬉しいもんだよね。
子供ってお世辞や社交辞令はあんまり言わないだろうから余計に。
逆に嫌われると余計にショッキング。
ではここはさっさと仕事してもらって名誉挽回してもらおうじゃないか。
「あのぉ神様。そろそろ例の力でパパっとキノコの方をですね」
「おお、そうじゃ。ワシはそなたの助太刀に来たのじゃった」
神様は身に纏っている黒い着物と妙に合う、日本刀みたいな刀をしゅらりと鞘から抜いた。
「今からすんごい事をやるからの。そこの娘っこ、よう見とくのじゃ……ぞ、っと!」
神様が、ぞぶりっ……と刀を地面に突き立てる。
すると、わさわさわさわっと草がどんどん成長し、その成長の波はエルシアドの街の方へ向かっていく。
「どうじゃ!」
フフ~ン、と神様は自慢げに少女に向き直った。
「どうじゃ、と言われても……だから何?」
少女も困り顔だ。
まぁ草がいきなりわさわさ伸びて面白かったけどパッと見、それだけだしな。
「いや、あのな? ワシの力で植物がすんごい速さで成長したじゃろ? で、あの街にはネムリタケの胞子があちこちに仕込んであるからそれが今にワッと成長してみんなグッスリ眠るから街に侵入し放題、悪どい領主も懲らしめ放題というワケじゃ! 分かったかの?」
自分の手柄を子供に詳しく説明する神様の姿は妙に物悲しかった。
「領主をこらしめる……?」
あっ、少女が食いついた!
ユサッ。
彼女が神様の言葉を理解しようと考えを巡らせようとしたその時、地面が揺れた、気がした。
ユサッ。
ユサッ。
森の方向から何かが近づいてくる。
数十、数百……いやこれは千を越える大軍勢だ。
いや、千を越えたくらいで大軍勢っていうかは知らないけど。
少女が緊張した顔で体中に力を入れてガッチガチになってるのが見てとれた。
そりゃなんだか分からないのが暗闇からコッチに向かってきたら怖いよね。
私は「大丈夫、お友だちだよ」と言って、彼女の背中から腕を回して軽く抱き寄せた。
それが心地よかったのか少女は私によりかかってくる。
とにかく星明かりに照らされて、人ならざる者たちが武器と鎧で武装して、ずらりと神様の元に集結した。
ほとんどはマルバスさんとイポスさんトコの兵隊さんだろう。
犬っぽい顔の獣人コボルトと鳥頭の鳥人バードマンっていう人たちが大多数だ。
あっ、オークのライ君たちもいるな。
エッチさんも真面目な顔して立っている。
あとで話しかけに行こう。
「時は来た! よいか、皆の者……!」
軍勢の先頭にいたライオン頭のマルバスさんが巨大な斧を振り上げて、なんか戦いの前のカッコいいヤツを言おうとした。
「おい、これ、待つのじゃライオン丸」
「キャンッ! 痛ぁい!?」
神様がライオン丸ことマルバスさんの尻尾の先を指でつねった。
マルバスさんの悲鳴、可愛いすぎかよ!
「街の中、全てのネムリタケを成長させるにはあと5分くらいかかるから今騒ぐと気付かれるじゃろが」
「あっ、も、申し訳ありまそん! ソロモン様ぁ!」
マルバスさんは焦って謝って噛んだ。
今から街の侵略をするっていうのに緊張感があんまり仕事してないな……。
まぁ殺伐としてるよりいいのかしらん。
最近、更新ペースが落ちてますいません。
時間を見つけてはチマチマ書くです。




