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4話 魔界の神様に会いに行く生活

「あの! 本日はお日柄もよく、神様ならびにカッコいいドラゴン様には誠におめでたい日にふさわしい一日となりました事を心よりお祝い申し上げます」


「うむ。よく分からんが祝われると悪い気はせんのう」


「グルルォオオオオオ……」


「うひっ!?」


 前もって考えていた挨拶の言葉はすべて吹っ飛び、混乱したまま適当な言葉を並べ立てると神様は喜んでくれたがドラゴンが恐ろしい唸り声をあげた。

 助けて。


「クカカ、安心せい。今のは喜んでおる声ぞ。ここに来てワシにだけ挨拶するヤツなど星の数ほどおったがブネまでカッコいいと褒めてくれた者はそなたが初めてかも知れん。のう?」


「グルル……」


「よしよし。こんなに男前なのにいつも怯えられてばかりで可哀想にのう」


 そりゃあんな登場してたら怯えたくもなるぜ! と思ったがヒナ、良いコだからお口にチャックしといたよ!

 一方、幼女の姿をした神様は愛しそうにブネさんというらしいドラゴン様の顎の下をナデナデしてあげた。

 ブネさんも気持ち良さそうにしてる。

 下僕とかじゃなくて、お友だちなのかな。

 褒めといて良かった。

 取引先相手が飼ってるペットはもちろん、戸棚の影に潜むゴキブリまで褒めておけと会社で教育を受けていた賜物だね!


「ハッ……! ヒナ様、もしかして今なんだかいい感じですか?」


「奇跡的にね」


 神様とブネさんがイチャイチャしている間にエッチさんが意識を取り戻した。


「それでそなたら、何用でここへ来た? 供え物の時期には早かろうて」


「あーーーっとえーーーっとですね……」


 レベルアップしに来ました、と言いかけたけど、とりあえず先に手土産を渡しておくのが流れ的にはいいハズでしょうよ。

 私が手さげ袋からお土産をゴソゴソ出そうとするとエッチさんも気付いたのかチョチョッと素早く魔方陣を描いてお土産が入ってるらしき包み紙をどこからか取り寄せた。


「ソロモン様、私どもの用件の前にまずはコチラをお納めください」


「おっ、なんじゃなんじゃ?」


 神様がちょこっと嬉しそうな顔をしてエッチさんの持つ包み紙の前に文字通り飛んできた。

 こんな凄まじそうな存在の者でもやっぱりお土産ってワクワクするのかな。

 神様の近さに圧を感じてエッチさんが冷や汗をダラダラかいてる。

 がんばれー。

 彼女は包み紙の紐をほどきながら説明を始めた。


「これは我らサキュバス族に代々伝わる秘伝の一品。私の愛する母が丹精込めて十年間世話をすることでようやく熟成された五十年に一度の出来を越える味わいでして」


「ほう、なんだか凄そうではないか! あ。でも言っとくがコウモリの干物とかトカゲの尾のごとくおぞましいモノだったらそなたの耳から脳味噌を絞り出すからの?」


「そぉぉおおおおおおおい!」


どっぽぉーんっ


 次の瞬間、包み紙の紐を振り回して円盤投げみたいに回転したエッチさんは気合いの大絶叫とともに愛する母が丹精込めて十年間世話をした大切なコウモリの干物を湖に投げ棄てた。

 なんのためらいもなく。


「ああっ、せっかくの土産をどうしたというのじゃ!?」


「ハァッ、ハァッ、ご安心を。アレは投げ込むことで湖がキレイになる五十年に一度の出来のゴミ、じゃなくてお土産でございます」


 もう思わずゴミって言っちゃてるよこのコ。

 丹精こめて作ってたお母さんかわいそー。


「そうかそうか。 水がキレイになればブネも喜ぶ。将を射んと欲すれば先ず馬から、と人間の諺にあるがワシを喜ばすにはどうすればよいか心得ておるのう、そなたら」


 この神様、よっぽどブネさんが好きなんだなぁ。

 彼女らの存在は相変わらず恐ろしいが彼女らの関係性はなんだか微笑ましいね。


「しかし、あまり変なものは投げ込んでくれるなよ? ブネのやつ、湖にあるものはなんでも喰ろうてしまうからのう」


「おや、それはいけませんね。では私めが処分しておきましょう」


 エッチさんはキィィンッと指先に紫色の光を発生させて湖に撃ち込んだ。

 するとコウモリの干物が沈んだあたりでボォンッと小規模な爆発が起きる。

 おお、カッコいい!まるで少年マンガの主人公みたい!

 やってる事は最低だけど。


「これで安心ですね!」


 愛する母が丹精こめて作ったコウモリの干物を自らの手で粉々に爆発させてとびっきりの笑顔を見せた。

 なんてしびれる生き様だろう。

 人間ああはなりたくないぜ、と私は思った。


「なんだかすまんのう。ブネはこんな図体をしてすぐにお腹を壊すから心配なのじゃ」


「へぇ~そうなんですかぁ……。でも、そういうところがまた愛嬌あって可愛いじゃないですかブネさん」


 と、すぐさまヨイショする私。

 ヨイショというか正直な感想でもあるけど。

 こんなにデカいドラゴンなのにお腹を壊すなんてなんだかシンパシーが湧いてしまう。

 私も牛乳ガブ飲みするとすぐお腹壊すし。


「ふむ……言われてみれば確かにな。バカなコほど可愛いというがあまり手間がかからんのは可愛いげがない。マリアが良い例よ」


「えっ」


「フン」


 なんかちょっとフキゲンになった!

 やっべぇぞ!

 しかし、マリアって魔王の事だよね。

 可愛いげがない、って仲悪いんだろうか。

 親しい間柄のジョークで言ってるなら良いんだけど派閥争いとかやめてよね面倒だから。

 まぁ今はとにかくゴキゲンになぁれ♪


「ところで神様、私からも手土産があります。よろしければお召し上がり下さい」


 セーレさんの反応を見るに魔族にとっても喜んでもらえるハズだが、それでもドキドキしながら今朝、新たに作ったフレンチトーストを容器から出した。


「おや、見慣れぬものよな。パンを調理してあるようじゃが」


「神様、しばしお待ちを」


 道中グチャグチャになると良くないので別々の容器に分けて持ってきたバナナにハチミツ、それとセーレさんが準備してくれたブルーベリージャムと桃とマンゴーも新たに乗せた、かなり豪華な超フレンチトーストに進化した。


「うおっ! ソイツは食べないでも分かるぞ! 絶対ウマいヤツじゃ! あと、かわいい!」


 神様のワクワクが止まらない……!

 たぶん喜んでるだけだと思うが彼女の内側から不可視のパワーが噴き溢れ、私のガクブルも止まらないよぉおお!


「でででは実際にお召し上がりくださいねっ」


「うむ、う~む! ハグ……モグモグ……!」


 愛らしい幼女の姿をした神様は飢えたブタみたい……じゃなくてお腹を空かせた小鹿ちゃんみたいにお手製スイーツにパクつく。

 お口の周りをジャムとパンの食べカスでドロドロにしながら夢中で食べる様子は製作者である私を嬉しくさせた。


「はぁ……うまかった……。ごちそうさまでした」


 あっという間に平らげて両手を合わせてペコリとおじぎをする。

 このコ、パワーが凄すぎるだけで本質的には礼儀正しいコなのかなって思った。

 怖そうな大型犬だからってコチラらがビビりながら接すると向こうにも恐れが伝わって吠えられたり噛まれたりするそうだ。

 こういう場合は恐れずに堂々と接する方が、かえって失礼がない気がした。


「神様、お口の周りがベタベタですよ、っと」


「ん……」


 私はハンカチで彼女の口周りをぬぐってあげた。

 神様は一瞬、意外そうな顔をしたが私のされるがままになる。

 遠慮がちに拭いても汚れがとれないのでゴシゴシ拭くと顎をなでられるネコみたいに気持ちよさそうな顔をした。

 よしよし、かわいいな。

 さっきのブネさんとちょっと似てるかも。


「おお、すまんな。いやいや、こんな甘美な食べ物を喰ろうたのは初めてじゃ。今のはなんというものじゃ?」


「トロピカルフルーツのせワッショイ超絶フレンチトーストと申します」


 私が勝手に命名した。今。


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