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4話 魔界の神様に会いに行く生活

「して、そなたらの用事というのはなにかの? すっかり馳走になったことじゃ。大抵の頼みなら聞いてやろうぞ」


 神様が満足そうにお腹をさすりながら本題に入ってくれた。

 コレ、エッチさんの気の毒なお土産しか持ってこなかったらどんな空気になってたんだろう……


「えっと、実は私たちで魔王城のお庭の草むしりをしたのですが、そういうクエストっぽいものをこなした場合、神様から経験値がもらえるかも知れないと聞いたもので」


「なに、あの荒れ放題のきったない庭園を?」


 ブネさんの頭に乗り移って額に手をかざし城の方角を見やる神様。


「お~、本当じゃ! すっかりキレイになっておる。ワシが植えた花たちも見やすくなっておるわ」


 ここから城までちょっとした距離があるのでブネさんの頭に乗っても見えないと思うけど……そこは神様。見えちゃうんだろうなぁ本当に。


「ってあの花とか神様が植えたんですか?」


「うむ。マリアのヤツがあの土地に城を建てるというから贈り物のつもりでな。恩に着せるのも嫌じゃから特に教えはせんかったが、そうしたら草むしり一つしないで……まったくあの城の連中はどうしようもない輩ばかりじゃ」


「どうしようもない輩ばかりだって」


 私はチラリとエッチさんの方を見た。


「どうしようもない輩ばかりですよ、まったく」


 エッチさんは右から左に受け流した。


「ふむふむ、そうかそうか。これは大いに結構! あれだけの広さを綺麗にするのはさぞかし苦労したじゃろ。経験値の件は期待してよいぞ」


「やった!」


「それで? そなたの望みはなんなのじゃ?」


「え? えっと、ですから草むしりの経験値がもらえたら嬉しいな~って」


「それはワシ本来の義務をはたすに過ぎん。それとは別にあのトロピカルフルーツのせワッショイ超絶フレンチトーストの礼をさせてほしいと申し出ておるのじゃ」


 おお……!

 あの長い名前を一回聞いただけで覚えてくれたんだ!

 さすがにステータスが振りきれてる神様は知力もさぞかし高いんだろうね。

 私もレベルアップしたら賢くなれるのかしらん。

 しかし望みか。なんだろうね。

 予想してなかった展開だから急にパッとは思い付かない。


「あの、私、じつはこの世界とは違う世界から来ているのですが」


「ああ、それくらいは把握しておるぞ。マリアに魂を呼び寄せられたのじゃろ」


「では、そのぅ……元の世界の私の銀行口座に七千万ドル振り込むとか出来ますかね」


「ん? ギンコウコウザ? それが何かは分からんが異世界の複雑な事象に干渉することは出来ん。すまんのう」


 神様は申し訳なさそうな顔をする。


「いやいやいえいえ別に神様が謝ることじゃありません。あのその別に全然大したお願いじゃなかったのでお気になさらずに! 事情も知らないで勝手な事ほざいて申し訳ないです!」


 ヤバいヤバい。

 あんまり無茶ばかり言って恥をかかせるのはよくないぞ。

 えーっと、うーんと、どうするかな。

 コッチの世界でして欲しい事……部屋の模様替えは無事に出来たし、して欲しい事じゃなくて何か困ってる事……


「あっ」


「思いついたかの?」


 そういえばコッチの世界に来て、ずっと頭の片隅にひっかかってる厄介事が一つあった。

 ダメ元で頼んでみるか。

 ダメだったら私のちょっとだけポッコリしたお腹をひっこませてもらうとかでいいや。


「あの……なんというか、魔族が最近たるんでいるから神様は人類侵略をお命じになったと聞いたのですが」


「うむ、命じたのう」


「それって撤回しちゃったりするワケにはいかないんですか?」


「ひっ、ヒナ様!?」


 エッチさんの声が裏返る。

 まあ、私がとんでもない事を言ってるのは自覚してるが神様、思ったより話が通じそうだしホント、ダメ元で聞いてみようと思ったワケさ。


「断る」


「ですよね! 私も大賛成です! レッツ人類侵略♪ というワケでつきましては私のだらしないポッコリお腹をスッキリ……」


 さっきまでほがらかだった神様のプレッシャーが刃となって全身に突き刺さった気がしたので私はすぐ悪魔に魂を叩き売った。

 安いよ安いよ!私の魂の大安売り!


「そなたは人類侵略に反対か?」


「いえ、絶対に賛成です。心から」


「本心で語れ」


 うおおおっ怖っええええええっ!

 選択ミスったらダイ(死)ですか!?

 私のダイ冒険はここまでだぜ!?


「えっと、まぁ私はぶっちゃけ人間なので人間を殺したり傷つけたりしたくないし、コッチの世界に来て魔族の知り合いも出来てわりと仲良くなったから戦争みたいなバカでアホでマヌケな行為で魔族にも誰にも傷ついてほしくないです」


「つまり……ワシが間違っておると? バカじゃと、アホじゃと、マヌケじゃと言いたいワケか?」


「すいません、今のは全部ウソでした」


 ヤバいヤバい怖い怖い私の足の震えは誰にも止められないぜ!


「構わん、本心で語れ」


「えっと、正直、神様のお考えは私なんかには分かりません。神様にはここから魔王城の庭園が隅々まで見る事が出来るように私とは違う目線で世の中の物事が見えているんでしょうし」


「む……」


「ただ、少なくともトロピカルフルーツのせワッショイ超絶フレンチトーストはもう食べられなくなります」


「なに?」


 神様が氷のように冷めた瞳で私を見つめてくる。


「それはそなたがワシに腹を立て二度と作らんという意味か?」


「いえ、そういうレベルの話じゃなくてアレは神様が侵略してしまえと言ってる人類が生み出した食文化です。侵略されれば文化は破壊され失われてしまいます。あのトーストだけなら既にセーレさんでも作れますがこの先、人間の新たな料理が創造される可能性が失われるとかって話です」


 まぁ良い文化なら侵略されても残るんだろうけどね。

 ゲテモノ好き揃いの魔族に支配された場合、人類が伸びやかに美食を追及するのは難しくなるのではないでしょーか。

 神様が少し考えるような素振りを見せている。

 言っておくが私はいつでも土下座する準備は出来ているぞ!

 でも出来れば考え直してほしいな。


 と、その時だ。


「グルル……グルルォオオオオオ……!!」


「えっ?」


「む、どうしたのじゃブネ?」


 ブネさんが唐突に唸り声を上げた。

 いや、唸り声というよりコレはどこか苦しげな……(うめ)き声?

 次の瞬間、ジェットコースターみたいに長く巨大にうねっていたブネさんの身体がゆらりと揺らめいて


 ダッパァアアアアアアアン!!


 と、姿を見せた時の数倍の水飛沫を上げて水面に倒れこんでしまった。


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