社長秘書の証言
「丁度一週間前、私も社長もいつも通り仕事をしていました。あと一歩で大手との商談もまとまりそうだったのでいつもより忙しかったですね。」
「仕事は普段どのようなことを?」
友則はより状況を克明にしていくために質問を投げかける。
「社長は主にデスクワークを。私は主に社長のお世話をしていたので、その日もほとんど社長室で執務を行っていました。」
友則は納得を首肯で表し、続きを促す。雅臣は胸ポケットからメモ帳を取り出し、その内容を書き込んでいる。横では既に話を聞いたはずの永野刑事もメモ帳を取り出している。
「丁度午後2時半頃です。社長より所用を承りまして、30分ほど営業部の方へ。」
「差し支えなければ所用の内容をお聞きしても?」
葉山さんの口調に淀みはない。
「交渉資料を下ろしに。その後の方針なども確認をとって時間がかかりまして…。」
「なるほど。そこで帰ってくると社長が倒れていた、といった所ですか。」
首肯。その時のことを思い出したのだろうか、彼女の顔からは血の気が引いていた。雅臣はとにかく手と頭をフル稼働させ、当日の状況を思い描く。
「倒れていたのはこの場所。入り口の側です。葉山さんの話によると、ナイフが腹に刺さり、うずくまっていたそうですね。指紋も調べましたが、被害者、柴田義重さんのもの以外は検出されませんでした。」
葉山さんの体調を気遣ったのか、永野刑事が横からフォローを入れる。落ち着くのを待って、再び友則が口を開く。
「鍵はどうしたのですか?みたところ電子キーのようにお見受けしますが。」
「私は部屋を出るときに鍵を閉め、帰ってから改めて開錠しました。実質、その間は密室だったということです。」
葉山さんは、気を取り直して毅然とした表情で答えた。
密室とはいえ、社長室の周りに監視カメラなどはなかった。一体何をもって誰も立ち入ることのできない密室だと言うのか。
続く友則の質問は、そんな雅臣の疑問に対する答えを導くものだった。
「なるほど、密室ですか…。ちなみに社長室の開錠ができるのはどなたですか?」
「社長室のセキュリティは非常に堅固で、社長室を開錠するカードキーは私と社長と鍵の管理人の3人しか持っていません。ちなみに管理人は、一日中管理室にいたようなので、当日自分の意志で開錠できたのはいないということです。」
友則は深く頷き、納得を表した。しかし、雅臣にはもう一つ気になることが残っている。
「…ちなみに開錠の履歴などは残るものなのでしょうか?」
葉山さんは後ろでひたすら手を動かしていた助手があげた声に一瞬の驚きを見せる。副社長も訝しげに雅臣を見ていた。しかし流石社長秘書と言えようか、葉山さんの驚愕は本当に一瞬だった。
「私も詳しいことは分かりません。後で管理人に聞いてみるといいかと。」
雅臣は軽く頭を下げて了解の意を伝えた。友則は雅臣の意を汲んでさらに質問を加えていく。
「開錠できるのは3人だけと仰いましたが、施錠をするのはどうですか?」
葉山さんはそういえばといった顔を浮かべた。
「中からは誰でも施錠できますが、外からだとその3人に限られます。」
「要するに、カードキーが必要なのは外からここの鍵を開閉する時のみ、ということですね。」
再び首肯。雅臣も軽く頷く。それを合図にしたかのように、友則と十津川が寄ってきて3人で向かい合う。
ある程度の情報は揃った。早速友則に一芝居打ってもらうこととしよう。




