65話 ジャーヘッドが見るのは悪魔か天使か
ソラはMASADAを受け取るやカーチスへと突っ込んだ。
カーチスはその速さに驚いたが、冷静にソラの頭に狙いを定めMk18Mod1をバーストで射撃した。
カーチスはここで更に驚かされる。
ソラはカーチスの初撃の3点バーストを右手に構えたMASADAのバースト射撃で弾いた。
「嘘だろ……」
気付けば口からそんな言葉が漏れていた。
反動を物ともせずMASADAを片手で振り回し、弾を弾いて来るのだから。
カーチスは再度バースト射撃。
2点バーストや4点バーストも混ぜ、ソラに弾き返され無いようにするが、今度は射線自体を避けて回避してしまう。
相手の心理を利用し戦いを有利に展開しようとするソラに翻弄されるカーチス。
気付けばソラとカーチスの距離は5メートルまで迫っていた。
「……クッ」
至近距離にまで迫って来たソラにカーチスはMk18を一度引っ込め、レッグホルスターから抜いたM45A1を速射でソラの胴体に4発ほど撃ち込んだ。
金属に当たる音が響き今度こそと思うが、ソラの姿はそこには無く、射抜いたのはピンの抜かれたスモークグレネードだった。
ブシューと穴の空いたスモークグレネードから煙が漏れ、カーチスの視界を奪う。
視界、目を奪われたカーチスは感覚を研ぎ澄まし、ソラの位置を探る。
感じるのは何も無い。
辛うじて何かが動く音が聞こえるぐらいだった。
一瞬、後ろで何か動く音を聞くと、そこに向けてM45A1を射撃。
手応えは感じなかった。
「これならどう?」
またも後ろから聞こえて来る声。
コロンコロンと何が転がって来ると、今度は激しい光と共に爆音が響く。
カーチスが音を頼りにしてると分かるや、今度は耳を奪った。
「クソッ……」
視界も音も奪われたカーチスは舌打ちをした。
打開策は分からない。
このまま殺られるのかと思うと無性に腹が立った。
物は試しと呉で覚えた氣を利用しソラの位置を探ってみる。
何も見えない訳ではない、冷たい殺気の塊が動くのを見つけた。
「そこだ‼︎」
感じたのが冷たい殺気だと思うとゾクっとするが、カーチスはそこに目掛けて回し蹴りを放った。
「……ッ⁉︎」
気合と共に放った回し蹴りはソラに当たる事は無かったが、ソラの目は驚きに染まっていた。
ソラは構えていたナイフをしまうと、一度距離を取った。
気付けばロイド達からは離れており、このまま行けば孤立させられていたと、ソラの実力を改めて実感させられる。
「…どうやって?」
「そんだけ化け物じみていても分からない事はあるんだな、安心した。さっき使ったのは氣ってやつだ」
「どいつもこいつも俺を完璧超人の化け物と思ってるけど、俺は人間だ。分からない事なんか普通にあるんだけど」
ソラとカーチスの会話が初めて成立した。
カーチスがソラから感じたのは機械じみた人形のような感じだった。
無表情で感情が分からなく、向けて来るのは殺気だけ。
動きも的確に弾を弾いて来るような、まるで機械か何かかとも思ってしまうような印象だ。
でも、ソラの今の一言で人間だと確信は出来た。
「そうか、なら安心だ。相手が人間なら倒せるからな」
「ならやってみなよ」
「行くぞ!」
もう一度、カーチスとソラはぶつかり合った。
ソラとカーチスの戦いを傍観するしかなくなってしまった一同は、戦いの行く末を見守る。
それはロイド達も同じで、その隙を利用したりはしなかった。
「すまねぇな関羽の嬢ちゃん、獲物を奪っちまってよ。だが、よく見ておけ。ソラ坊の戦い方は俺たち未来の戦い方とお前達のような戦い方を組み合わせたような戦い方をするからよ」
関羽の横に着くと、ドッグは謝った。
その上でソラの事について語り始める。
愛紗は何故?と言う顔でジーっとドッグを見た。
「お前はあいつの戦い方を知りたそうな目をしてるからな。何故、あそこまで強いだろうかって顔してるぜ。一度負けたのが悔しかったか?まぁ、誰しも負けたらそう思う。俺だって初めてあいつに会って腕を折られた時は腹が立ったさ」
愛紗が早く続きをって目で睨むとドッグは続けた。
「ソラ坊は馬鹿力がある訳じゃないし、体が無駄に硬い訳でもない、ましてや刃物の達人って訳でも無い。技術を叩き込んだのは俺達だが、それでも一つの事に突出してる訳でも無い。じゃあ、何故強いのか?それは……」
《ドッグ!》
間が悪い事にドッグのオープンになっている無線にファントムの声が響いて来た。
ドッグは愛紗に待てと手でジェスチャーすると、ファントムからの無線に応答する。
「どうしたファントム、そんなに慌てて?」
《一刀君そっちに来ているか?》
「いや、来ては無いが……何だ迷子か?」
《迷子ならまだ良い!心配し無いで下さい、何時も前線で戦って来ましたからとか言って馬を出しやがった》
「またそれは結構な事で……って、あの小僧はどした?」
《一緒になってついて行ったぞ!このままじゃ、不味い。そっちに向かったあいつらを足止めしておけ》
「 了解した。……続きは俺からじゃなく本人から直接聞いた方が分かりやすい。因みに強い理由に誇りやプライドは一切関係ないのは確かだ」
無線を離すと愛紗との会話を適当に終わらせてしまい、こっちに向かってくる二人組を見つけて立ちふさがる。
目の前にいきなり現れたドッグに馬が驚き、前足が大きく上がる。
一刀と優二は馬をなだめながら、進むのを止めた。
「おっと、そこまでだ一刀君。勝手な行動をされるのは困るぞ。それに君もだ、ユウジ君。今行くと、ソラ坊の邪魔になる。そこは動くなよ」
「空が⁉︎」
「嘘っ、ソラ君また戦ってるの⁉︎」
ドッグに言われ2人は激しく戦ってる2人に目を向けた。
「だんだんそのスピード慣れて来たぞ」
こっちではカーチスがソラの速度に目が追いつき始めていた。
ソラの攻撃を避けたり、カウンターを狙うなど、カーチス自身に余裕が見え始める。
「チッ……」
舌打ちをしたソラは走る速度を落とすと、ファイティングポーズを取った。
これにはカーチスも驚かされる。
「徒手格闘も出来るのか」
「……一つアドバイス。いつから速度だけが強いと思ってたの?」
その瞬間ソラはカーチスに膝蹴りを放った。
カーチスはガードすると、膝蹴りを放った足を掴み地面に叩きつけようとした。
しかし、ソラはスルリと躱してしまう。
更に後ろから鋭いストレートパンチが飛んでくる。
反応が遅れたもののパンチを放った腕を両腕で掴み、お返しとばかりにソラを投げ飛ばす。
今度は投げる感触を確かに感じたのだが、ソラはそこから体をくねらせカーチスに足をかけながら倒すと肘関節を決めてくる。
「うぉ⁈」
ガッシリとしたカーチスをいとも簡単に関節技を決めてくるソラにマズイと思ったカーチスはソラの顔面目掛けてフリーになっている足で蹴りを放った。
ソラは避けるためにカーチスから離れた。
「その技、誰から教わった!」
「答える義務は無い」
「なら直接聞くまでだ」
「やってみろ!」
ソラはカーチスの顎目掛けて右ストレートを放つ。
カーチスはそれを弾くと、カウンターでソラの顎にアッパーを食らわせた。
確かに手応えを感じ、ソラは宙を舞う。
そこからカーチスの予想出来ない事が連続で起きた。
ソラは気を失ってはおらず、バク転の要領で地面に両手をつくと、カポエラのような回転蹴りをカーチスの顎に二三撃お見舞いした。
カーチスも避けれずにクリーンヒットを貰った。
「ハァ……ハァ……なんだ今のは。人間かよお前」
よろめくカーチスはなんとか踏ん張り意識を留めた。
それでも脳が揺れ、視界が霞んでいる。
「ゔっ……そんなもの見たら分かる……」
ソラもソラでさっきの一撃で脳が揺れていたようで手で頭を押さえている。
2人共フラフラになっていた。
しかし、それでも戦いを止めない。
「殴り倒して、直接聞いてやる」
「……やってみろ」
2人が拳を構えた時、それを押さえる真っ黒の影が現れる。
その影に戦いは中断させられた。
「戦いはそこまでだよ」
影は笑うとカーチスの腹にソラよりも速い回し蹴りが減り込む。
「うぐっ⁉︎」
あまりの衝撃に受け身すら出来ずに吹き飛ばされた。
飛んでくるカーチスをネロとデイヴィッドの2人が受け止める。
30メートル程一気に飛んだカーチスは肋骨部分を押さえる。
「大丈夫か⁉︎」
「……二三本逝ったかもしれん」
気付けば二陣営と対峙するかのように立つ影は気絶させたソラを担いでいた。
拡声器を取り出すとクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「連戦の数々、見せて貰ったよ。兄さんをここまで追い詰めるとはなかなかやるね、おじさん。君達のお陰で時間稼ぎはもう十分。必要なモノは全て揃ったよ」
カーチス達を褒めるとその影はフードを取り出し、顔を出す。
気絶しているソラと瓜二つの顔をしたシエル。
「「シエル!」」
「空が2人……」
一陣営からは怒りを孕んだ叫びが、もう一陣営からは嘘だろといった驚き声が上がる。
シエルは一刀が漏らした言葉を聞き笑う。
「面白い事言うね君。僕は兄さんのクローン。完璧とは言えないけどほぼ兄さん自身そのものさ。信じられない顔だね、フフッ。でも大丈夫、これから信じるしか出来なくなるから。改めて名乗るとするよ。僕の名はシエル、隻眼の死神の1人さ」
「隻眼の……死神」
優二が発したその言葉に怒気が含まれる。
「どうやら君は僕達に激しい恨みを持っているようだ。その様子だと幽州で仲間を殺されたようだね」
「おっ、お前が‼︎」
「教えてあげるよ。この戦いは全て僕が仕組んだ。袁紹達が幽州を攻める事も、1日目も今日こうなる事も全て。君達は見事に僕の手の上でワルツを踊ってくれた。まぁ、予想外だったのは1日目で死ぬ手筈だったそこの天の御使いが生きてる事ぐらいかな、本郷一刀君。でも、それはこれから達成させられる。その為に集まるように仕向けたのだから」
シエルは一瞬で一刀達の前に現れるとソラを地面に叩けた。
ソラは痛みで目を覚ます。
しかしシエルは馬乗りになり、逃げれないように押さえた。
「さぁ、目覚めの時だ」
シエルはソラの首にガス圧式無針注射器を当てた。
ブシュッ!とガスが放出する音がすると、注射器の中の液体がソラの体内へと入って行く。
その瞬間、ソラの体のあちこちに激痛が走った。
「ぐぁぁぁぁあああ‼︎」
痛みでのたうち回るソラ。
押さえても別の場所が痛み、苦痛の声を上げる。
「やめ……これ以上殺させない……で」
記憶が混濁しているのか、頭を押さえながらそんな言葉を漏らす。
ソラとは思えないほど弱々しく、子供っぽさが出ている。
「置いてかないで……父様…母様」
その言葉を最後にソラは静かになった。
そんなソラを見てシエルは笑う。
「さぁ、地獄の門は開かれたよ!君達は耐えられるかな殺戮という狂気に」
次回!空虚な殺戮者
と次回予告的な事をやってみる。




