56話 ブリーフィング
本当ッ!すいません!
書いてるやつが消えたり、書き直したりしてる間に一ヶ月近く経っているとは……
袁術の支配する土地、荊州。
その土地のある場所にて、金に光る防具に身を包む兵士達が駐屯していた。
まるで、何処かに戦争でも吹っかけるのでは?と言うべき忙しなさである。
その駐屯地の一角、端の方だが中央より異質さを放つ場所があった。
そこに立つ1人の黒髪の少年。
黒髪の少年ことシエルはこちらにやって来る集団を見てニコッと笑う。
「来ると分かってたよ」
シエルの見つめる方向には5人の男達。
呟いたその言葉には予想出来ていたと意味が含まれているかのようだ。
シエルの方へ歩いて来るのは巨人の雷槌の4人とカーチス・ランバートの計5人だ。
「久しぶりだな……」
「ええ、お久しぶりです。ロイド・パーカー」
丁寧に挨拶をを返すシエル。
しかし、何処か含みのある笑顔にデイヴィッドとネロは何かないかと勘ぐってしまう。
「お久しぶりです、巨人の雷槌の皆さん。そして初めましてカーチス・ランバートさん。僕は隻眼の死神のシエル。絶対的な解放者とも呼ばれています。」
「隻眼の……死神」
そうぽつりと呟いたのはカーチスだった。
何かを噛み締めるかの様に吐き出された言葉は心当たりがあり、記憶を掘り起こしていた。
あの時のオルカとの戦いを。
そんなカーチスを見るシエルはニコニコと笑っていた。
「どうやら知っているみたいですね」
「お前、あの少年とどう言う関係だ?」
「あなたが戦ったのは隻眼の死神の1人、オルキヌス・オルカだと聞いているよ。彼は僕と同じく死神の1人」
「あの少年みたいなのが複数いるのか⁉︎」
反則じみた強さをしていた少年を思い出し、それが複数いる事に少し絶望するカーチス。
あの時の相手が1人だけで良かったとホッとしていた。
「もちろん。隻眼の死神と呼ばれたのは正確に言うと100人いた。けど、全員生きてるかは分からないけど。生き返ったのを含めると多分、今は20人もいないと思うよ」
「それって、どう言う事だ?イマイチ分からんのだが」
訪ねたのは巨人の雷槌のロッタ・ヘイズルウッドだった。
予想外の人からの質問に少しだけ戸惑うシエルだったが、直ぐに説明し始める。
「ここで説明するのもアレだし。こっちについて来て」
そう言ってシエルは顔を天幕の方へと向けた。
天幕に移動した5人はシエルの説明を聞いていた。
シエルは簡潔にブラッドダイヤモンドの事をカーチス達へと説明した。
「ブラッドダイヤモンドとは反政府組織に見せかけた研究者達の研究機関って訳。これでどう?」
「なるほど……俺には難しい……」
10分間ほど説明を聞いた5人のうち、ロッタは全く理解出来ずに首を傾げて唸っていた。
「ロッタは頭で考えるより、体で覚えるタイプだからな」
「あぁ、カーチス。自分でも痛感してるぜ。ハハッ!」
「だろうな。ハハハ」
笑い合う2人。
シエルは何かを思い出したのか、手をポンっと叩いた。
笑い合ってた5人の視線は一気にシエルへと向けられた。
「言い忘れてたけど、カーチスさんが戦ったオルキヌス・オルカは隻眼の死神の中じゃ8番目ぐらいに強いよ。手加減されてたとは言え、生き残るなんて中々無いと思うよ」
「あの少年、そんな強いのか⁉︎」
「ええ、オルカは十分過ぎるぐらいに強い。戦車5台程度に囲まれても全滅させる事が出来るぐらいに」
シエルが言った比較対象に呆れるしか無い5人。
ロイド・パーカーはこめかみに手を当てて溜め息をついた。
「例えが兵器だとは………」
「他に比較する物がないって言ったら分かるかな。彼等がどういう存在であるのか、そこの2人なら痛感してると思うけど」
そう言って、シエルはロイドの横に座っているデイヴィッドとネロの2人へと視線を向けた。
「…………」
「あんなのは……人じゃ無いネ…」
「そうかもね。普通の人から見たら僕達は異常だ」
あっさり認めるシエル。
「それより、あまりここでダラダラしている暇が無いからそろそろ本題へと入らせて貰うよ。確認するけどこの依頼を受けるか受けないかは選べる。どうする?受けないのなら帰って構わないよ」
「この依頼を受けるメリットは何かを教えてくれるか。受けるか受けないかはそれから決める」
シエルに答えたのはロイドだった。
シエルは少し考える素振りを見せると、シエルの思うメリットを言い始めた。
「メリット……袁術の疲弊を手助けする事かな。徐州で兵力を使った袁術は暫く戦える戦力で無くなるのは間違い無い。そこを君達の主君が簡単に落とす。独立を果たしたい君達の国にとっては大きなメリットかな。もし仮に敵が弱くて疲弊すらしなくても、僕が無理矢理疲弊させるからそこは大丈夫だよ」
「無理矢理ぃ?」
「そう無理矢理。駄目だったら僕が1人で国ごと壊滅させるから心配しなくても良いよ」
「おいおい、国一つだぞ!馬鹿げてる」
「舐めてもらっちゃ困るよ、カーチスさん。僕は隻眼の死神と呼ばれる1人なんだ。出来なくは無いよ。それに、実験とは言え、たった8人で国を落とした化け物もいる。そこの2人は嫌と言う程知ってるよ」
シエルはだろう?とデイヴィッドとネロの2人へと視線を向けた。
2人はシエルの言った事を答えるように頷いた。
「賭けになるかも知れないが受けよう。少しでも独立が楽になるならそれで良い」
「そう。ありがと」
ロイドが出した答えにニッコリと笑いお礼を言うシエル。
受けると決まり、シエルは紙束を取り出すと机の上に置いた。
「これは今回のミッションプランだよ。状況によって分岐させるから後で各自確認して置いて。じゃあ、本題に入るよ」
ミッションプランなどと言われる紙束を受け取るが、予想外の重さに5人は一瞬落としそうになった。
どうにか自分の手元へ紙束を置くが、最初の1ページ目から文字だけがずらりと並んでいる事に溜め息をつくしか無い。
それが大量の紙束となっているのだから尚更だ。
全員に計画書が渡るのを確認したシエルはブリーフィングを開始した。
「先日も言ったけど、君達には徐州に攻めて貰うよ。目的は天の御使いと名乗る本郷一刀の排除及び、不知火空の奪還。協力して貰うにあたって袁紹の協力もつけた。君達には遊撃部隊に入って貰い、敵を各個撃破して貰う。ここまでで、何か質問」
特に質問も無く、静寂が天幕の中に訪れる。
「無いなら次に行くよ。敵の情報は世界で最も戦闘情報が少ない傭兵グループ不明のローンウルブズ。情報が少ないのは敵対した者達を確実に撃破、口を滑らそうとする者は暗殺されている。数少ない情報のうち、ローンウルブズの構成メンバーは元特殊部隊、元諜報機関の構成員、元犯罪者、元少年兵などと情報が入ってる。で、その中でも一際目立つ存在がいる」
そこまで説明したシエルはまた別にある資料を5人に投げ渡した。
飛んでくる資料を5人はなんとか受け取った。
資料にぼやけた黒い影が映る写真とそれの報告書が書かれていた。
「それが世界戦闘スキルランク57位、通称切り裂きジャック。目撃した者が撮った写真はそれ一枚だけだけど、彼はローンウルブズの構成メンバーの1人である不知火 空だ。知っての通り、切り裂きジャックはあらゆる特殊部隊相手にナイフ一本で全滅させて来た。戦闘力は未知数で狙撃、射撃にも適正があり、あらゆる事をこなすローンウルブズの主力メンバーの1人だ。正面からの戦闘は自殺行為に等しい」
そこまで言ったシエルは何か思うとこがあるらしく、言い直した。
「いや、彼1人だけが危険じゃない。狙撃の天才、爆弾魔、元ブラッド・ダイヤモンドなどなど……敵の全てが危険で正面から挑むのは得策じゃ無い。だから、君達には対応出来るようにこの世界での戦い方を教えるよ」
そう言ってシエルは座ってた椅子から立ち上がった。
「君達も不思議に思ってるかも知れないけど、創造すれば欲しい物が手に入る力。これは応用が利くんだ。戦闘中で、もし弾が切れたら新しいマガジンを創り出せは良い。刃が欠けたら新しいのを創り出せば良い。これはもう分かってるよね」
「あぁ、嫌と言うほどな」
「でも、自分の集中力には限界がありそこまで多くの物は創り出せない。それが君達のネックとなってる部分なのは分かっている。で、ここからが応用」
シエルは適当な感じでM16ライフルを創り出した。
一瞬普通に見えるM16だが、シエルが空中に放り投げると光となって消えていく。
「わざと曖昧に創造する事で一時凌ぎに使える。マガジンを曖昧に創造すれば、弾を撃ち切ると消滅する。刀剣は手から離れた消滅する。これを上手く使う事で個人の戦闘力は格段に上がる。なにより、曖昧の方が疲れ無い」
「そんな事まで教えて良いのか?」
「僕の善意は素直に受け取って置くべきだよ、カーチスさん」
「そ、そうか」
「でも、忠告。あまり切り裂きジャックの前でそれを見せてると同じ事をさらりとやってのける可能性があるから気を付けて。真似されると手の付けようが無くなるから」
シエルの忠告には呆れが混じっていた。
前に体験でもした事があるのかと思う3人だが、デイヴィッドとネロの2人だけは違った。
思い出した記憶に青ざめる程だった。
「じゃ、僕はあのお馬鹿さん2人と話しを着けてこ無いといけないから退席させて貰うよ。何かあったらそこら辺にいる黒ローブを被ったやつに言っておいて」
そう言ってシエルは天幕から消えて行った。
天幕に残された5人は渡された資料に目を通しはじめるが、量が量なだけあって読むのは苦痛そうだ。
特にロッタは最初で読むのを諦めてしまっている。
「しっかしどうするよ、パーカー。俺達はあんな化け物相手にやれんのか?」
「無理だろうな。だが、やってみる価値はある」
「でも、社長!あいつはヤバイネ!」
「正直勝てるかどうか……」
「安心しろ。俺は元がつくかも知れないが不明にいた。あの中じゃ落ちこぼれだったがな」
「余計不安になるネ………」
衝撃の事実を言うロイドだったが、最後の一言で全て台無しにしていた。
「あんな人外の巣窟、他を探しても見つからんだろうさ。100メートル先からRPGを戦車の砲にピンポイントで入れるとか、グレネード一個で攻撃ヘリ落とすとか……本当あり得ない。しかも、迫撃砲で飛んでるヘリ落とすとか……」
「社長、しっかりするネ!もうそれはトラウマになってるネ!」
「だが、得たものは大きかった。だから、今こうしてやってる訳だ」
「大変だな、あんたも」
あまりのトラウマをかかえている事にカーチスは同情の眼差しでロイドを見ていた。
「ああ、あんなとこは二度と御免だ。命がいくつあっても足りない。それより、俺達は雪蓮達の為にできる事をしよう」
「そうだな」
こうして彼等5人は無駄に結束を固めたのだった。




