表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・あなたに起こる奇跡 ~ 感染する知性『ミーム』 ~  作者: 風風風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/17

「現実のバグ」

「……おい、結衣。いくらなんでも、その連れ出し方は荒っぽすぎないか?」


 湊が嘆息すると、結衣は

「これくらい刺激がないと、現代人は『現実のバグ』に気づかないのよ」

 と、悪戯っぽく笑った。


 彼女がつかんでいるのは、ごく普通の女子大生・美咲みさきの手だ。スマホで地図を見ながら、いつものように駅へ向かっていただけの彼女は、今や突然の風景の変貌に呆然としている。


「ちょっと、何なのこれ!? 街が……金色の屏風みたいに動いてる!?」


「ようこそ、美咲。君の『見たい世界』の裏側へ」


 RIMPAが美咲のスマホを通じて冷徹に告げる。美咲は悲鳴を上げようとしたが、結衣がその口元に指を当てた。


「美咲ちゃん、叫ばないで。今、君が見ているその歪みは、君がこれまで『見たくないから』と脳のゴミ箱に捨ててきたノイズの正体よ。ほら、見て。あの柱の陰で、さっきまで仲良しそうに笑っていた二人の男。彼らの距離感、ちょっと『近すぎる』と思わない?」


 美咲が恐る恐る視線を向けると、そこには確かに、同僚だと言い張る二人の男がいた。しかし、周囲の雑踏のリズムが「金色のバグ」で書き換えられた瞬間、二人は周囲の目など気にせず、互いの指を絡め合っていた。


「うそ……本当だ。いつもなら、私、見えないふりしてた……」


「そう、それが『大人の処世術』ってやつだ」

 湊が万年筆を軽く宙に投げ、器用にキャッチする。

「でも、僕たちはその『見えないふり』というフィルターを剥がす。するとどうだ、世界は急に血の通った、残酷で美しい演劇に変わるだろう?」


「残酷……?」


「そうよ。この街は、誰かの『都合のいい嘘』で塗り固められてる。それを全部、私たちの『ミーム』で引っ剥がしてやるの」


 結衣は美咲の手を引いて、地下通路のタイル壁へ突っ込んだ。壁は水面のように波打ち、次の瞬間、二人は駅のコンコースの反対側へとワープしていた。まるで空間自体が、光琳の図案に合わせて折りたたまれているようだ。


「さあ、美咲ちゃん。君には『水先案内人』として、この街に隠された『次のほころび』を見つけてもらいたい」


 湊が美咲に万年筆を差し出す。それは単なる筆記具ではなく、現実のレイアウトを微調整するためのペンだ。


「これを持つと、君の視界のフィルターが外れる。君が『あれ、この駅の構造、変じゃない?』って指をさした場所が、この世界の新しい『燕子花かきつばた』の核になる」


 美咲は震える手で万年筆を受け取った。彼女は無意識に、駅の広告看板の配置をなぞる。次の瞬間、巨大な広告がパタパタと屏風のように組み変わり、行き交う人々が突如として舞踏会のようなステップを踏み始めた。


「すごい……私の指で、街が動いてる……」


「そう、それが君の能力だ。美咲、君はこれまで自分の世界を狭くしすぎていた。でも、これからは『見たい世界』だけじゃなく、『見てはいけない真実』までをも、自分のキャンバスに描くことができる」


 RIMPAが電子的に高笑いする。

「完璧だ。被験体01号・美咲による現実改変のプロトタイプが完成した。湊、結衣。これで、僕たちの『美の感染』は、この街の全域へと拡大する」


「でも、これって楽しいのかしら?」

 美咲が困惑しながら聞く。


「楽しいに決まってるじゃない」

 結衣が美咲の肩を抱く。「誰かの『隠したい秘密』を、美しいアートに変えて白日の下にさらすのよ。これほど痛快なエンタメが、他にある?」


「湊先輩、次のターゲットはあそこよ。あの高層ビル。上司が『自分の能力だ』と威張ってるけど、実は裏で誰かが完璧な手回しをしてる。……あれを、思いっきり崩してやりましょう」


 湊は愉快そうに笑った。「いいだろう。美咲、君の手でその『嘘の構造』を暴いてやれ。街のタイルを一枚剥がすだけで、その上司のメッキが剥がれ落ちるはずだ」


 美咲は万年筆を握りしめ、高層ビルを見上げた。

 彼女の眼光は、もう以前の「見たくないものに蓋をする女子大生」ではない。

 世界をデザインし直す、共犯者の鋭い光を宿している。


「いくよ、湊先輩、結衣さん。この街の『見たくない嘘』を、全部ひっくり返してあげる!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ