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「父を笑った」継承する家宝。


公園から帰ってきた。


弟が家の鍵を開ける・・・・キーホルダーが仮面ライダーだった。・・・・そう、あの日・・・・弟が松山に行く時、叔母から買ってもらったやつだ。

塗料が剥げ・・・腕、脚が削れて細くなっている。・・・・それでも、弟は、このキーホルダーを使っていた。



「カァ君・・・・・お父さんから頼まれてたんや・・・・」



弟が自分の寝床、二段ベッドの下から小さな段ボール箱を取り出す。

ボクに差し出した。


箱の中に、紙にくるまれた小さな戦艦があった・・・・


1/700のスケールのものだ・・・・・・


父が作っていたのは1/350という大型のプラモデルだった・・・・1/700は、ボクが作っていたシリーズだ。

1/350は、小学生のボクには、まだ早いと・・・父が買い与えてくれたシリーズだ。


取り出してみる・・・・綺麗に塗装が施されている。・・・・これは父の手によるものだ。ボクには、これだけの塗装技術はない。・・・・・しかし1/700は父は造らないはず・・・・


・・・・手に取ってみれば・・・割れている・・・ところどころ破損しているのがわかった・・・・それを補修した跡がある・・・・パテで、塗料で巧妙に隠してはいるが、破損、ヒビ・・・それに欠損した部品があることもわかる・・・・


・・・・・記憶を手繰り寄せる・・・・細い糸の記憶・・・・徐々に大きな記憶へと繋がっていく・・・・


・・・・ボクが作ったものだ。

ボクが作っていた1/700の戦艦長門だ。・・・・・そして破損の跡・・・・



「お父さん・・・直しとったわ・・・・」


弟が言った。



・・・やっぱりだ・・・あの時のやつだ・・・・


父の運送会社が失敗に終わり、この廃墟のような家に引っ越してきた・・・・毎日毎日、弟の面倒をみる日々・・・・母が仕事から帰ってきたときにプラモデルを造っていて怒られたことがある・・・・その時に、感情を爆発させたボクは、全てを掴んで、裏の縁側に投げ棄てた・・・・・あの時のプラモデルだ。戦艦長門だ。

・・・・・もちろん、ボクは、そのあと拾ってはいない。片付けてもいない・・・・


・・・あの時・・・確かに壊れた音がした。割れた音がした。



「それ直すの、時間かかっとったわ・・・お父さん毎日直しとったわ・・・」


弟が呟くように言う。



割れた跡が補修されていた・・・・裏からプラバンで繋いで補修していた・・・・パテで巧妙に直している・・・・欠損した部品も、それらしくプラ棒で自作されている・・・・そして丁寧に塗装されていた。・・・父らしい、丁寧な仕上がりだ。


父は、トラック運転手という「荒くれ者」といったイメージの仕事をしていたが、繊細な、細やかな仕事のできる人だった。たまに見せる包丁さばき・・・・家で刺身を作る・・・魚を捌くのは父の役割だった・・・・盛り付けの美しさからして、見事な出来栄えだった。



・・・・丁寧に、丁寧に、ボクの戦艦長門は修復されていた。

丁寧に、丁寧に塗装がされていた。・・・・そして、見事に完成されていた。



・・・・いったい、どんな気持ちで父はこれを直したのか・・・・ただの気まぐれだったのか・・・・それとも、ボクへの詫び状のような気持ちがあったのか・・・



戦艦長門を手に取り、右にして・・・左にして・・・・上から・・・下から・・・隅々まで眺めた・・・


・・・それでも・・・・それでも・・・愛しむように直されていること・・・・愛しむように塗装がされてることはわかる・・・・


本物の船の甲板は木でできている。木材でできている。・・・・その一枚一枚を「木」として塗り分けていた。

一枚の甲板の大きさは、わずか2mmほどだ。・・・その一枚一枚を、微妙に色を変え、塗り分け、木の質感を表現している。・・・気の遠くなるような作業だ。

・・・さらには、その木板一枚一枚に「木目」すらを描いている。


とてもプラスチックでできているとは思えない表現だ。溜息がでるほどの仕上がりだ。


幼い日、プラモデルを造り続けた。

・・・・だからこそ、わかる。

どれだけに根気、時間が必要な作業か・・・・父の・・・父の・・・プラモデル造りの・・・いや・・・父の持つ、全ての能力を注ぎ込んだような作品に仕上がっている・・・


幼い日、父のプラモデルは「憧れ」だった。

どうして、こんなにかっこよく・・・・美しく・・・本物のように造ることができるんだろう・・・

プラモデルは、プラモデルでしかない。・・・・プラスチックでしかない。

それなのに、父の造る戦艦は、重たい鉄に見えた。

・・・・甲板は、木材に見えた。

翻っている旗は布に見えた。


・・・・全体が、戦艦・・・・本物の、鉄でできた戦艦に見えた。

写真に撮ったなら、本物の戦艦にしか見えない。見事な出来栄えだった。


なんとかして父の戦艦に近づきたかった。父から技術を懸命に学んだ。


父に全てを教えてもらった。

少しでも、上手に憧れの戦艦を造りたかった

・・・・父と子の会話だった。

プラモデル造りは、父と子の、男同士の会話の場だった。



戦艦長門は、縁側に投げ捨てた時にバラバラに割れて、壊れていた。


・・・・修復してある。懸命に修復してある。懸命に塗装で修復してある。


・・・・それでも、物理的に割れてしまった個所は、どうしようもない・・・・修復しても「壊れている」とわかる個所がある。


・・・・そこには「バトルダメージ」を入れていた。


「壊れている」・・・・ならば、壊したままの表現をすればいい。


戦闘で傷ついた態を表現していた。

砲弾を受けたように表現していた。

工具で「砲弾跡」を表現し、細心の塗装を施していた。被弾し、弾け、焦げ・・・・そして煤け・・・・剥き出しになった鉄骨の表現を施していた。


・・・・なんという技術だろう・・・なんという根気強さだ・・・・


ボクが壊した戦艦長門を、歴戦の勇士の・・・・傷だらけの「日本海軍旗艦」に仕上げていた。



戦艦長門が好きだった。


普通の子供なら「戦艦大和」や「戦艦武蔵」・・・・日本海軍を代表する巨大戦艦を好きになる。

しかし、ボクは長門が好きだった。


太平洋戦争初期の「日本帝国海軍旗艦」

大和や武蔵から比べればはるかに小さい。・・・・だから、その後は大和に旗艦の座を譲る。


それでも懸命に戦った。

そして、太平洋戦争を生き抜いた。

沈没させられることなく歴戦の戦闘を戦い抜いた。


・・・・太平洋戦争を生き抜き退役・・・・しかし、その後・・・・終戦後・・・・占領軍、米軍に接収される。

そして、原子力爆弾の実験材料とされ破壊、沈没させられた。


父が教えてくれた物語だ。

儚さに泣けてしまった。


戦争の悲惨さ、横暴さ、そして、人間という存在の儚さに泣けてきてしまった。



戦艦長門が好きだった。


華麗さや、華のある存在じゃない。

それでも、与えられた仕事を、任務を、実直に、堅実にこなす、こなした戦艦長門が好きだった。


・・・・その長門を・・・ボクが壊した長門を、父が懸命に修復していた。



「お父さん、病院でもずーーっと直しとった。・・・・・カァ君に渡してくれって」



幼い日・・・父と子の記憶が蘇る・・・


プラモデルを一緒に造った。


阿波踊りを一緒に見に行った。



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