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死の舞踏会と見える嘘③ドキドキのワルツ


 ブリジットはエマと別れて軽食を食べることにした。会場から離れて軽食コーナーに向かうつもりが庭に出た。


「会場から外に出るつもりはなかったのに」

  

 庭は薄暗くおどろおどろしい。決して見どころではなさそうだ。


「ブリジット?」


茂みから声をかけられた。


「は、はい?」


 だ、だれ?


 ブリジットは暗闇から現れた人物を認識して、ほっとする。


「アレクかー」


「ブリジット、女性が一人でこんな暗闇にいると危ないぞ」


「迷ってしまって。アレクこそここで何を?」


「参加しないといけないから参加したが、気分が悪くなって休んでた。人混みが苦手でな」


「あら。じゃあ、お休みのところお邪魔して申し訳なかったわね」


「いやいや、もう戻ろうと思っていたところだ。一緒に戻るか?」


アレクがエスコートで手を差し伸べる。


「ぜひ」


ブリジットがアレクの手を取った。会場からワルツが流れてきた。


「踊るぞ」


アレクが急に方針を変えてブリジットの腰に手を添える。


「えっ。ちょっと」


ブリジットの制止も聞かず、アレクが強引にダンスをおどる。


 ブリジットは慌ててアレクに合わせて踊り始めた。踊り始めてすぐに驚愕する。



 驚いた。強引に踊らされたからリードも強引かと思ったけど踊りやすい。


 ううん。踊りやすいんじゃない、体が羽根のように軽くうまくステップが踏める。



 こんなのはじめて。踊りが楽しい…?


 ブリジットはアレクを見た。アレクも楽しそうだ。



 そう、楽しいのだ。くるくるまわって。


 ブリジットとアレクは一気に二曲踊りきった。流石に息が切れてきたので、踊るのはやめた。

 二人で手をつなぎ見つめ合った。


 

 ああ、アレクの瞳は紫なのね。すごく綺麗な色。


 アレクも同じことを思ったのかブリジットの瞳の色を褒めた。


「ブリジットは藍色の瞳だな。落ち着く」


 見つめ合った瞳が近づく。アレクの右手の指先が、ブリジットの唇を撫でる。


 アレクの顔が、ゆっくりと近づいてくる。


「や、やっぱりまって」


 少し怖い。アレクの紫の瞳に囚われそうで逃げたくなる。


「まてない」


 アレクが吐息を感じる距離まで迫ってきた。



が、大きな声と気配で邪魔が入った。


「アレクにブリジットだー!!おおーい!俺だよー!」


  二人して急いで体を離した。茂みからガサガサとした音がして黒い人影が見えた。


 ブリジットは動揺を隠すため耳を触った。イヤリングのアクセサリーの感触が冷たく感じた。


「フィン、何のようだ」

アレクが低い声を出した。


「アレクと一緒だよ。気持ち悪くなって休んでたら庭から出れなくてやっと庭をでれたとこ。ブリジットは?」


「会場から軽食コーナーに行こうと思って気づいたらここでした」


「庭と軽食コーナーは反対だよ。ブリジットは方向音痴なんだねー」


フィンがブリジットに残念なものを見るような目を向けた。

 


 フィンこそ庭で遭難しかかってたのでわ?!フィンも方向音痴じゃないの?


 ブリジットもフィンを残念なものを見るような目を向けた。


「いや、両方とも方向音痴すぎるだろ」


アレクがブリジットとフィン両方に突っ込んだのだった。




 アレク、ブリジット、フィン一行は軽食コーナーに向かうことにした。


 歩き出してフィンが思い出したように言った。


「そういえば、舞踏会が始まる前に妙なものを見たんだ」


「妙なものとは?」


 ブリジットが興味深そうに聞き返す。


「男同士のラブ現場」


「へ?」


「なんとなく居合せたらやばいかなーと思って野良猫のふりして茂みを揺らしたよ」


「それはそれは気まずいですね」


「フィン、動物のふり上手いからな、うまく誤魔化せただろうな」


 アレクが微妙なフォローをする。ブリジットは半笑いをする。


 アレクの声が浮かんでない。嘘でない、本気で思ってるの?それともジョーク??わからない。


「ほんとほんと。何が役に立つか分からないよね。その後、男女のカップルの痴話喧嘩してた。そっちはあっという間に男が去って泣いている女性が座り込んでてた。女性に道きけないからそっと離れたんだ」


 ブリジットはフィンのミラクルぶりに驚く。



 あんまりみたいと思っても見れない現場ばかりですよね…

 そしてフィンかなり迷ってました?会えてよかったです。でもフィンのことだから庭でしっかり生き残れそうですが…


「フィン、お前一人で行動はやめとけよ。必ず誰かと行動しろよ」



アレクがフィンに念をおす。ブリジットは呆れた様子でアレクとフィンを見た。



 はは、お母さんと子どもか…



 軽食コーナーに行く前にアレクはゴテゴテとした派手な団体に捕まってしまった。


 フィンが「アレクなら大丈夫」と太鼓判を押したので、アレクを置いて二人で軽食コーナーに着いた。


「わぁ。美味しそう。ブリジット何から食べよう」


 フィンの声が嬉しそうであった。


「そうねぇ」


ブリジットはまわりを見回す。

じゃがいものガレット、生ハム、いろどりきれいなピンチョス、スープ、イカのフリット、ほうれん草のソテー、ローストビーフなど多種多様だ。


「どれも美味しそうですね、目移りします」


「そうだよね。楽しみ」


ブリジットとフィンは舌鼓をうちながら楽しくご飯を食べていたが、ブリジットは何ともなしに周りの雑談が目や耳に入った。

それに混じる嘘も。


「そういえば、ヘルガ様みた?」

「さすがよね。素晴らしいわ。触ることはできないから誰も触っていないの」

「あんな重いもの頭に乗せて心配だわ」

「体調は問題ないみたいよ」

「私もヘルガ様みたいなファッションリダーになりたいわ」

「まあ、奥様も素晴らしい装いよ」

「ありがとう?あなたこそ素朴な色がとても似合ってるわ」


『素晴らしい』

『誰も触っていない』

『心配』

『体調問題ない』

『ファッションリダー』

『素晴らしい装い』

『とても似合ってるわ』

『飲み物しかしか口にしていない』

『楽しいわ』

『素敵な夜ね』

『あなたが一番よ』



 浮かぶ言葉。嘘。

 誰が言ったのか把握はできない。自分が聞いた以外の言葉も混じって浮かぶ。


 ブリジットは左手のブレスレットを確認する。兄からのアクセサリーは変わらず美しい輝きをはなっている。


 舞踏会って相変わらず嫌なものも見ることがあるわね。やっぱり舞踏会に嘘はつきもの。嘘が多い。


 まあでも美味しいものがあるから今回は当たりの回だわ。フィンもいるし、それにアレクも。また会うわ、きっと。


 ブリジットが恋の予感にわくわくしていたが、フィンが現実に戻す。


「食事は美味しいけど椅子が欲しいね。椅子があるエリアは軽食から離れてるんだよね。デザートいっぱい取ってそこで食べる?」


 意見には大賛成なので、すぐにブリジットは同意する。


「はい、そうしましょう。メインで美味しかったものの情報共有しましょう、私はローストビーフと」


会場の方から誰かの悲鳴があがった。

「きゃあ、だれかー!!ヘルガ奥様が…!!」


 ブリジットは、突然の悲鳴にフィンと顔を見合わせ、走った。



 現場に着いたときには、すでに人垣ができていた。倒れている女性がいた。


 倒れている女性はみごとなかつらをした豪華なドレスを身につけた女性だ。


 白く塗られた肌は血の気を失い、微動だにしない。近くには割れたグラスがあった。そして、溢れた赤ワイン。

 

  ブリジットは周囲を見回した。



 やはり、ただ事ではない。事故ではなそうだ。殺人の可能性が高い。


 そのときだった。


 言葉が、浮かぶ。

『知らない』『なぜ』『とてもいい方だったのに』


 ざわめきの中、誰のものか分からない嘘が、いくつも混じっている。その中で、ひとつだけ異質なものがあった。


『あの飲み物に毒が入っていたんだ』


 ブリジットは眉をひそめ、ぴたりと動きを止めた。


 …嘘。


  ブリジットは、視線を割れたグラスとこぼれた赤ワインに向けた。



 そこには何もない。

 毒は、そこにはない…

 それを知るものがこの場にいる。



 最初から。



 ブリジットはもう一度、嘘の文字を確認した。だが、誰が言っているのか、多すぎてわからない。



 フィンが近づいてその女性の脈を確認した。


「だめだ。亡くなっている」


 フィンが首を振る。

そして、会場をぐるりと見回した。


「関係者、主催者と話して状況確認してきます」


と言い残しその場を離れた。


「関係者以外は下がってください!」


 どこからかやってきたセルジュがフィンにかわり現場保全に務め始めた。


「さっきまで普通に踊ってたのに?」


 あまりの衝撃に倒れる女性や青ざめる男性、帰り支度をするもの三者三様だった。


 ブリジットは冷静に状況判断する。



 毒は、ワインにはない。


 ーーなら、どこにある?


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