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第38話 最後の夜



「よぉ。体調どうだ?」


 ナイトウは片手を上げて挨拶した。その表情は普段と何ら変わりがないように見えた。


「もう、大丈夫です。同行をお許しいただき、ありがとうございました」

「気にするな。おめえさんは自分で経験しないと納得出来ないタイプなんだろう。難儀な奴だ」


 難儀な奴、と表現されたことに修一は苦笑した。


「そうかもしれませんね。それから、明日の朝、ここを発つことに決めたのでご報告を。今までお世話になりました」

「そうか。なら今夜は送別会……いや、壮行会とすべきだな」


 その言葉を皮切りに静かに杯が傾けられた。

 同時に、料理の提供もなされ始めた。酒場の主に出発予定は既に伝えてある。修一には、心なしか豪華な内容になっているような気がしてならなかった。

 シンシアもゆっくりを料理を味わっているように見える。ラウラは食事開始早々に怒りに任せて修一のビールを強奪し、今はすっかり酔っぱらってテーブルの上で丸くなっていた。

 三人がそれぞれ舌鼓を打ちつつ、なんてことない会話に興じ、酒もある程度進んだ頃合いで修一は切り出した。


「……葬送(おく)りって呼ばれているんですね、あの行為は」


 修一に返答したのはナイトウだった。


「そういえば呼称を伝え損ねていたな。……そうだな。あれがあるから、俺は怪物になってもまだ人間扱いしてもらえる可能性が残っているのだと、希望が持てる。まあ、そう思わせたい誰かのコントロールっていう陰謀めいた考え方もあるようだが」


 時々修一から目線を外し、店の天井付近を見やりながら言葉を紡いでいく。今まで見聞きしてきた切れ味の良い話し方ではない。今朝方、あの墓石の前に佇んでいた時のナイトウの姿を思い起こさせるような、そんな雰囲気の話し方だった。


「葬送りの形式も地域によって差異がある。俺たちのところはどちらかというとスタンダードじゃない方だ……俺がそう始めたからなんだが」

「ナイトウさんが、始めた? このやり方をってことですか?」

「方式自体は、城郭都市にいた頃に知ったやつだ。あの頃は、転移者に対する扱いに内心怒りを溜め込んでいた。殺した後、本来だったら怪物は即、燃やした方が合理的だろう? それにそもそも怪物に対して弔いをするってこと自体しない所の方が多いかもしれない」

「……実を言うと、そう思います。でもそれなりの理由があるんですよね? あの時はとてもじゃないですが、訊けるような精神状態ではありませんでしたけど」

「敢えてそうしないのは、二つ。一つ、怪物の因果を解き明かしたいが為。二つ目は、怪物は元人間だった存在なのだと周囲の人間に問答無用で突きつけたかったからだな。俺が怪物に直接手を下すことを条件に、このやり方を定着させた。実際それが良かったのかどうか、答えは出せていない」

「怒りが、ナイトウさんの原動力なんですか?」

「昔は明確にそうだったと断言する。けれど今はそうだろうな、くらいだ。少なくとも、自分の中の正義を振りかざして他人に何かを強制するべきではなかった。独り善がりな始まりだった。だが幸いにもこの中の人々はそんな俺の意図を汲んでくれていてな、悼んでくれている事実に嘘はないんだよ。葬送りをして、終わったら日常へと後腐れなく切り替えるんだ」


 修一は店内を見回した。

 今夜も酒場は盛り上がっている。

 少し自身の中に澱のようなものを感じて、そのまま彼は口に出した。


「葬送りが終了したらその瞬間にいつも通りの日常に戻るなんて、少し薄情ではないかと思ったことはありませんか」

「おめえさんの言いたいことはよくわかる。でもな、それでも『自分の中の正義を振りかざして他人に何かを強制するべきではない』んだと、俺はそこに落ち着いたんだ」

「…………」

「誤解して欲しくないのは『俺はそう思う』ってことさ」

「最後に一つ。転移者は、どこまでいっても嫌悪あるいは恐怖の対象ですか?」

「おめえさんの目には、どう映ってる?」


 ナイトウは質問を質問で返した。

 修一は周りを改めて見回して――彼を見つめるシンシアの顔を見た。


「……愚問でした」


 ナイトウは初めて会った時のように豪快に笑った。

 『今夜は旨いもんをたらふく食っていけ』と勧められるがまま、満腹になるまで食べ、そして修一は次はいつになるかわからないベッドでの睡眠を十分味わった。


 


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