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77話 舞台の終わり

初めに投稿した内容から大きく変えた部分がありますが、話の大筋に変更はありません。

♦︎♦︎♦︎

舞台は終盤に差し掛かる。

ここが1番緊張する所であり、私からヘンリーとソフィアへ伝えるメッセージでもあった。


まず最初に大人1人が腕で抱えられるかどうかほどの木の幹が飛んでくる。

周囲はどよめいたが、私はそれを真っ二つにして見せる。


おおっ、と歓声が上がったが、私はそれどころではない。

前半、緊張で少し力が入りすぎていたのか、腕がどんどん重くなって来た。


でも、さっき切った丸太が私が演出で用意した物の中で1番大きい物だった。

大丈夫。いける。


クライマックスに差し掛かる直前、私よりも豪華な衣装を着た男性の登場に皆がシーンとしてしまう。

髪色、髪型、服装がヘンリーに似ていたからだろう。


登場した彼は私と同じように剣を持ち、剣先を私に向けている。

私も彼に剣を向けながら互いにジリジリと近づくと、同じタイミングで踏み込む。


そのまま、剣での勝負が始まった。

決まった型を決まった順で、何十回、何百回繰り返した動きのはずなのに、いつもより少し遅い。


このままでは最後の演出に間に合わない、そう思った時だった。

彼が突然、いつもとは違う動きをし出したのだ。


この動きは最後の演出の剣舞じゃ、と思ったら瞬間、用意していたキンセンカの花が降って来た。

この花は春に咲く花だが、隣国の一部では今でも咲いているらしく、特別に取り寄せてもらったのだ。


私がヘンリーに伝えたい花言葉。それは「失望」だ。


最初は「軽蔑」という意味のこもった花を探そうと思っていた。だが、私は『ヘンリーの裏切りに失望しただけだ、嫉妬などしていない。もし、婚約破棄の時に私を貶めるつもりなら正々堂々戦ってやる』という事を伝えたかった為、この花を選んだのだ。


他にもキンセンカには、「別れの悲しみ」「悲嘆」「寂しさ」などの意味がある。

別の意味に思われないよう、最後は剣をしまい、彼に向かって笑顔で一礼し、その後、互いに反対の舞台袖へと歩いて行く。


拍手はない。歓声も上がらない。

ただ、私の乱れた呼吸が会場に聞こえる。


ヘンリーの顔を見ようとするが、観客席は暗くてよく見えない。だが、舞台袖で見ていたソフィアの顔は青ざめている。


そのまま舞台幕が降ろされ、観客席からステージが全て見えなくなった事を確認すると、私は足から崩れ落ちた。


「おい、大丈夫か」

舞台で一緒に剣舞を舞ってくれた彼が私を支えてくれる。


さっきまで舞台の反対側に居たはずなのに、どうやったらここまで一瞬で来れるのだろうか。

とても不思議だけど、それよりも私を助けてくれたことにまずお礼を言わなければ。


何とか息を整え、彼の方へ向き直る。

「ありがとう、助かったわ。ノア」


♢♢♢

3日前。

突然私の家に来たかと思うと、文化祭の演目で最後の剣の相手を兄から頼まれたのだと、ノアが我が家にやって来たのだ。


「え、ちょっと待って。どういうことよ、お兄様」

「ノア殿下に頼んだんだよ。『学園をずる休みなさっている殿下なら、時間が有り余ってるでしょうから、文化祭でミアの剣の相手をしてほしい』ってね」


悪びれる事なく言ってのけた兄に、私はポカンとしてしまう。


「ノア殿下はずる休みではなく、記憶を失っておられて…」

「本人から直接全部聞いてるよ、ミアが命を狙われている事とか、ノア殿下に情報を提供してもらっている事とか」


兄の言葉にもう一度ポカンとしてしまう。


「ちょっと、何でお兄様にばらしちゃってるんですか」

「えっと、その…すまん」

「…ふっ、ミア、敬語になっていないよ」


目を吊り上げながら、ノアを問い詰めると、ノアは気まずそうな顔をし、兄は面白いものを見た、という顔をしている。

その後、どういう事があったか聞いた私は、父も知っている事を聞いて、大声で悲鳴を上げた。


こうして、私の演目にノアが参加してくれることになったのである。

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