44話 怪しいのは
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「学園の成績の件と、孤児がまだ、どこかへ売られてしまっている件、についてお前に話ししようと思うけど、どっちから聞きたい?」
「じゃあ、成績の方からお願い」
「お前ならそういうと思った。…まあ、想像通りだと思うが、ヘンリーが、順位を操作させたみたいだ。ただ、今回はあからさまにやり過ぎて、実行した先生は、退職させられたみたいだけどな」
そういえば、今日、いつもの数学の先生じゃなかったような。あの先生が実行犯だったのか。
「あ、でも、ヘンリー自身は何のお咎めもなし。もちろんソフィアも」
「…分かってたわよ。けど、なんか釈然としない」
「明日には、本来の成績表を出させるから、今はそれで満足してくれ」
そこが落とし所か。…ん?出させる?
「ねぇ、今出させるって言わなかった?」
「ああ、ヘンリーは有耶無耶にさせるつもりだったみたいだけど、裏から手を回した」
「え!そんな事して大丈夫なの?」
実質王太子であるヘンリーよりも優先されるような権力なんて、他にない筈なのに。一体どんな手を使ったのかしら。
「別に大した事はしていない。ただ、今回のテスト結果に不満を覚えた貴族達の背中を少し押しただけだ」
「…私、口に出してた?」
「いや、顔に書いてあった」
「……」
「あ、あの。チーズケーキとコーヒーでございます」
沈黙していた私達の所に、店員が私の頼んだ物を持ってきてくれた。…ん?
「ノアの分はまだ来ないんですか?」
「え?頼まれた物は以上となりますが…」
勢いよくノアの方を見ると、彼はなんでもないように言った。
「俺は頼んでない」
「はあ?なんで?食べれば良いじゃん」
「俺はジュースもコーヒーもケーキもそんなに好きじゃない」
『実は、今のノア王子に自由に使えるお金がそんなに無いんですよ』
そう耳元で教えてくれたのは、オリバーだ。
『え?使えるお金がないって、どういう?』
『今、記憶を無くしたふりをなさっているので、王城を自由に歩くことすら出来ないんです。今日の事は、誰にも知らせていないし、お金も渡されていないんですよ』
「おい、オリバー。何の話をしている。そいつから離れろ」
「はいはい」
凄い形相のノアに対し、オリバーは飄々としている。前回会った時は、こんなにオリバーと話していなかったから、なんだか新鮮だ。
「まあ良い。それから、孤児がまだどこかへ売られている事についてだが」
これは真面目に聞かないと、と背筋を伸ばし、座り直す。
「海から、外国へと売られているみたいなんだ」
「海から…」
「ああ、しかも海上で取引をしているらしい。だが、うちの国は領地が海に接している所は多い。だから、まだ絞り込めていないんだが、今怪しいと思っている家は3つだ」
「どこの家が怪しいの?」
「お前が仲良くしているフェリシアの男爵家。一緒に留学に行ったルイスの家、クレシリス伯爵家。そして、これが最有力候補なんだが…」
ノアはここで1度言葉を切って、気まずそうに私の方を見る。
まさか…
「お前の家、トスルーズ公爵家だ」