43話 不審人物
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「申し訳ありません。少しお時間よろしいでしょうか?」
帰り道、突然声をかけられて、振り返る。
そこには、顔を黒いフードで覆った怪しい男が立っていた。
うん、逃げよう。
「あ!お待ち下さい!」
反射的に逃げ出すと、その男も追ってきた。
待てって言われて待つ人なんて居ないから!本当に誰よこの男!
今日はいつもと違い、重いドレスではなく、平民用のワンピースだ。走りやすいけれど、そもそも足が遅いわけで。
「あの!自分が怪しいのは自覚してるんですけど、少し待ってください」
やっぱり追いつかれて、手を掴まれた私が精一杯抵抗しようとすると、男が慌てて声を上げた。そう言われても抵抗したい気持ちは変わる訳なんてない。
「普通、いきなり顔も見えない男に声を掛けられて、逃げたら追ってくる。こんな人、怪しさ満点だと思うんですが!」
「あの、僕、オリバーです!ノア王子の専属騎士の」
『ノア王子の専属騎士の』だけ声を顰めた彼は、確かに以前ノアの隣で見た彼だった。
「あ、ごめんなさい。私、てっきり人攫いの類かと…」
「いえ、こちらこそ本当に申し訳ないです。あの、クソ王子め…」
互いの間に少し沈黙が落ちる。
「えっと、そういうわけで『主様』がお待ちです。ご同行願えますか?」
「あ、はい。すみません、騒いでしまって…」
騒いだからか、いつの間にか人が集まっている。これは、今日のうちにも父や兄に知られてしまう事だろう。
それを遅らせるためにも、一刻も早くここを離れなければ!
♢♢♢
看板もおしゃれな雰囲気もない外観のお店に連れてこられたと思ったけど、内装はモダンな感じで隠れ家みたいなお店だ。実際に、情報交換の場としても使われるらしい。
「やっと来たか」
派手でなく、上品な服を着ているノアは1枚の絵のようだ。
なんか悔しいけど。
「とにかく座れ」
オリバーが先回りして、椅子を引いてくれる。
こういう気遣いができるって大事だよね、と密かに私の中で彼の株が上がった。
「言われなくても座るわよ。あと、用件は聞かなくても分かるから、さっさと本題に入って」
いきなり連れてこられたのと、相変わらずの上からの物言いに、少し態度が悪くなってしまう。
「まあ、そう言うなよ。何頼む?」
そういってメニュー表を渡される。
「ふざけてるの?別に何もいらないわよ、話を聞いたらすぐに帰るし」
メニュー表を突き返そうとすると、にやっとノアは笑った。
「ちなみに、ここのチーズケーキは絶品なんだ」
この言葉に思わず、ピタッと動きを止めてしまう。そんな私に彼は続けた。
「ああ、あとここにはコーヒーも提供してるんだ」
「コ、コーヒーなんてあるの?」
この世界では見た事なかったのに。この話題に食いついた私を見て、彼は一層笑みを深めた。
ちなみにチーズケーキは私の好物だ。絶対それを分かって言ってる。でも、チーズケーキもこの世界で中々食べられる物じゃないし、コーヒーも…
「食べるか?」
「………食べる」
ククッと笑うと彼は注文を済ませる。
うう、本当になんか悔しい…




