37話 時計塔の中へ
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街は、こんな時間でもまだ明るく賑やかな所と、すっかり寝静まっている所がある。
どんな街にも曲者はいるもので、賑やかな所は、酔っ払いに絡まれる可能性があるし、静かな所は、誘拐などの危険もある。
要するに、夜の街は危険なのだ。まして、一目見て高級な服と分かる服を着て出歩くなど、自殺行為でしかない。
けれど、私はそんな事はお構いなしに、目的地の場所まで一直線に走っていた。
つまり、この国のシンボル、からくり時計の所へ。
今日の昼、私はアルバートに、この国の貴族の誰かが、違法に孤児を買っている可能性がある、と話した。もしこれを、犯人か、協力者が聞いていたとしたら…
彼を排除しようと動いても、おかしくはない。
そうして、全ての換気口が閉まる0時から1時までの間、アルバートを時計塔の中に閉じ込めておけば、魔石から発生する毒ガスで彼は亡くなってしまうだろう。
だが、犯人が公爵ならば、わざわざ犯人が自分しかいないと分かるような、こんな愚かな事をするだろうか。
公爵は多分、相当な切れ者。こんな明らかすぎるヘマをするとは思えない。
もしかして、彼が犯人ではない…?それとも私の推測が間違ってる?
少し、不安に思いつつ、私は一心不乱に夜の街を走っていた。
♢♢♢
「はぁ、はぁ、つ、着いた」
今、私がいるのは時計塔の真下。
多分、20分は走ったと思う。体力はそんなにないけど、火事場の馬鹿力ってやつだろうか。
汗だくで息も上手く吸えない。ゼェ、ゼェと歩きながら息を整える。
幸いにも、誰にも絡まれず、トラブルに巻き込まれる事もなく、無事にからくり時計にまで辿り着くことができた。
さて、この中に入るには入り口を探さなければならないが…
「大きいし暗いから、何処に出入り口があるのか、さっぱり分からないわね」
こんな事になるなら、事前に探しておけば良かった、と今更ながら後悔する。
高さは80〜90m(?)ぐらいだと思う。(何せ目測だから正確には分からない…)
しかも、土台の部分を1周まわるにも、数分はかかりそうだ。
けど、ここで諦めてしまうわけには行かない。
私は、出入り口を見つけるため、暗闇の中を時計塔の壁に沿って歩き出した。
「ここ、みたい、ね」
1分ほど歩いた所で、ドアらしきものを見つけた。
開いてるわけ無いよね。そう思いつつ、ドアに手を掛ける。
ガチャリ。あれ、開いた。少し驚きつつも、そんな事を気にする時間は無い。
ドアをめいいっぱい開けたまま、私は時計塔の中にある階段を登りはじめた。
♢♢♢
もし、アルバートを亡き者とするため、この時計台に閉じ込めたのだとしたら、彼は何処に閉じ込められたか。
1番の可能性が高いのは、おそらく時計台の上部。
最上階には時計機械室もあり、おそらく魔石もそこにあるはずだ。なおかつ、アルバートが助けを求めたとしても声が地上には届きにくく、脱出にも時間がかかる。
闇雲に捜すよりも、ずっと良いはずだ。私は一心不乱に階段を登りはじめた。
「ここが、さい、じょう、かい…」
息絶え絶えになりつつ、私は時計塔の最上階までたどり着いた。すぐそこには、時計盤の裏側や、ぜんまい、歯車などの時計の部品が見える。
「はぁ…アルバート様!いらっしゃいませんか!」
息を吸って大きな声で彼の名前を呼ぶ。喉がカラカラだったせいか、少し掠れ声だったのは勘弁してもらいたい。
しばらく待っても返事がなく、下の階を捜そうと階段に足をかけたまさにその時、カタ、という音が聞こえた。
普段なら気付かないくらい微かな音だった。だが、彼を見つけなければ、という緊張からか私の耳はその音を拾った。
「アルバート様!」
階段にかけた足を戻し、さっき聞こえた音の方へ走り出した。