36話 アルバートの行方は
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今宵は、満月がいつもよりも明るく城下町を照らしている。
今日の月はいわゆる、スーパームーンだろうか。そもそも、この世界にも『月』ってあったのね。
今まで、色んなことでバタバタしていたから、ゆっくり空を見る時間が無かったかも。たまには、こういうゆったりした時間を取っても良いかな。
大きく背伸びをして、再び勉強机に向かう。
明日の小テストに備え、勉強していると、突然バタバタと足音が聞こえてきた。
え、もしかして賊?と思ったけれど、このホテルは警備面でも優れたホテルだから、そんな訳ないか、ともう一度、教科書に向き直る。
だが、足音はどんどんこちらに向かって来ている。
今は夜の11時よ。こんな時間に、大きな音を立てるって、非常識でしかない。一体何処の誰だ、と思ったその時、ドンドン、と私の部屋の扉が叩かれる。
エミリアが警戒しながらドアの前に立ち、少し後ろに私も立つ。
「ミア・トスルーズ様、事態は急を要するのです。とにかく扉を開けてくれませんか」
切羽詰まった男性の声が聞こえる。他の宿泊客を憚ってなのか、小さめの声だ。
うぅ…どうしよう…
エミリアがチラッと私の方を見る。さんざん迷ったけど、こくりと頷いた。ここで開けないと、取り返しがつかなくなるような、そんな気がして。
エミリアが恐る恐る扉を開ける。
ドアの前には騎士の人が2人立っていた。だが、制服からして普通の騎士ではない。この制服は近衛騎士団だ。顔も見覚えがある。
「このような時間に申し訳ありません。しかし、他の方に聞かれてはいけないので、中に入れてくれませんか?」
騎士の2人は少し青ざめているようにみえる。
「な!深夜に淑女の部屋を訪れ、入れろだなんて!非常識にも程があります!」
エミリアは激怒していたが、私は嫌な予感しかしなかった。
王族警護を主な近衛騎士団の人が、敬語を崩し、しかも無礼と分かっているであろうことをしようとする。
緊急性がものすごく高い問題が発生したということだ。
「分かりました。どうぞお入りください」
「っ!ミア様!一体何を!」
「失礼する」
2人は私の部屋に入ってくると、バタンと扉を閉めた。
エミリアはいつでも武器を取り出せるように準備している。
私の背中を冷や汗が一筋伝った。
騎士の2人をホテルで1番大きな部屋に案内すると、突然片膝を立てて跪いた。
「実は先程、王城にて、アルバート王太子が何者かに攫われました」
目の前が真っ白になる。一体誰がそんな事…
「アルバート様が誘拐されたって…」
しかも、私に聞きにくるということは…
「もしかして、私の事を疑っているのでしょうか」
私の言葉に騎士はブンブン首を振った。
「いいえ、陛下は決して貴方のことを疑ってはおりません。ただ、貴方がアルバート王太子の居場所を知っている可能性があるのだ、と陛下が仰られたのです」
私が彼の居場所を知っているかもなんて。陛下は一体どうしてそんな事を…
「何か、ご存じありませんか?」
彼らが焦ったように私に聞く。だけど、私に心当たりなんて。
そこまで考えて、ふと先日の茶会で聞いた、公爵夫人の言葉が頭をよぎった。
『あの大きな時計を動かすこと自体が大変なのです。とても大きな犠牲を払って、あの時計は動いているのです』
『日が変わってから1時間は、空気を入れることができず、密室状態になり、息をすることが困難になるのです』
もしかして、孤児の売られた先を調べてしまったから、アルバートは攫われてしまったんじゃ…
だとしたら、孤児達の行方って…
私は、自分の考えを否定する材料を必死に探した。でも、考えれば考えるほど、私の考えが当たっているようにしか思えない。
「…っ!ミア様!!」
「ミア様の行く手を邪魔するな!」
私を捕まえようとした騎士をエミリアが足止めしてくれる。
杞憂だったのなら良い。だが、もしこの嫌な予感が当たったら…私はホテルを飛び出し、月が照らす街へと駆け出したのだった。




