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「……あの、どんな料理が問題だったと言われてるんですか?」
沙耶の問いに、小さく小首を傾げる才葉。
「さぁー、詳しくは……ただ魚料理だったと伺っていますよ。骨でも刺さったんでしょうかね? さ、お運びいたしますから沙耶様はどうぞお先を……」
魚……? 更に良く分からない。
茶器の乗った盆を持ち先を促す才葉に礼を言い、前を歩きながら思案を続ける。
(垂氷様の降格処分は、深酒によって騒動を起こし、後宮内の秩序を乱したからだ)
飲酒を忠告に来た宮正や、昨日の蘭月様の取り巻き達の話からでも、それは容易に推察できる。だから、酒をすすめた女官らに文句を言うぐらいなら、心情的に理解できなくもない……のだが……。
(魚料理……に、酒と言えば、臭み抜きに使ったりするわよね……)
まさかそんなことで酔いはしないだろう。なにより、火を通してるんだから、アルコールなんて飛んでいる。
でも、でももし……、
(垂氷様が、お酒を飲んだ自覚が無かったら……)
料理に使われた酒を原因だと疑うかもしれない。
(……え、そんなことある? 臭み抜き程度のアルコールで、酔う? ……いや、体質なんて人それぞれか……でも火を通してるだろうから、まさか……)
「ぁあっ、沙耶様! 紅茶に入れるお砂糖をご用意し忘れておりました。今すぐ取ってまいりますので、先にお戻りくださいませ……!」
「あ、いいよ才葉。お茶菓子が甘いから、たぶん誰も砂糖を入れないだろうし」
「左様でございますか……? もしご入り用でしたら、いつでもお持ち致しますので、お呼びくださいませね」
あらぁやっちゃったわ、と眉を下げる才葉に笑いかける。
「いつも良くしてくださって、有難うございます」
「いいえ〜、役得なので私こそ嬉しいのでございますよ。周りの女官達にも羨ましがられちゃって……」
「は…………?」
「こんなにお優しく美人な戸部侍郎様が話し掛けてくださるんですからねぇ。目の保養ですよぉ〜」
「…………えー……っと……」
おほほほほ……と笑う才葉になんと返そうか悩んでいる間に、戸部の執務室に辿り着いてしまった。
「はいっ、お着き致しましたよ。今日は中までお膳させて頂いて宜しいんですか?」
「いえ、貰います。わざわざ持って来てくださって有難うございました」
「なんのお安い。では、お砂糖が必要でしたらいつでも。最近ご献上品が下げられてきて、たいそう潤沢にございますからね。ぜひお召しくださいな」
そう言って、深々と礼をした才葉は、足早に来た道を戻って行った。
ご献上品、と言えば陛下へのものだろう。そう言えば陸家の当主が、何か土産を、と渡していたような気がする。
(確かに高価なものだけど、そりゃ砂糖だけ贈られても困るか……)
あっちもこっちも砂糖が大量で、私ってば何の獣害について市場をチェックしてたんだか、分からなくなってくる。こんなに砂糖があるんなら、そりゃ陸家は梅酒ぐらい作るわな……と思ったところで、
(梅酒……いや、あれ、みんなは梅シロップだと思ってたなぁ…………。……いや……まさかね……)
蘭月様達のように、垂氷様もお酒と知らずに梅酒を飲んでいたら……?
甘さに紛れて結構な度数あるから、数杯飲んだら相当酔えると思う……けど……。
あまり考えたくない嫌な予感に、沙耶の口元は引き攣ったのだった。




