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第二十一話


 かなり期間があきました。すいません。駆け足気味ですが楽しんでいただければと思います。


 目の前には豪勢な食事が並べたてられていて、それを勢いよく食べる二人の若者。ゆうに六人前はあるだろうと思われる食料が次々となくなっていく。

 それを冷ややかに見つめる男性が一人。

「これ私のエビ」

「いやいや俺が先にフォークで突き刺していただろうが」

「あーん」

「やらねえよ」

「皇女の命令」

「お忍びっつたのはあんただろーが。その特権は使えねえな」

「レナードのいじわる……でもいじわるされるのも新鮮でいいかも」


 聞く人が聞けばまるっきり恋人同士の会話だ。だが恋人同士にしては着ている服はかなり高級なものでありまた制服には皇家御用達の紋章が刻まれている。おまけに三人のグループなのでカップルとはいいがたい。


「レナードよ……貴様一体何をしている?」


 今までの会話を冷ややかに見つめていた男が我慢の限界と言わんばかりに口を挟んできた。青い髪に恵まれた長身であり顔も相当整っている。

 現にこの店のご婦人方の視線が先ほどから彼にちらちらと注がれている状態だ。


「見てわからんのか? 飯を食っている」

 間髪入れずに堂々と答えるレナード。見れば一目瞭然の事であり、わざわざ口に出して言うほどの事でもないだろうと言うような口調だ。


「そんな事は見ればわかるわ! 私が言いたいのはだな。目的地を目の前にしてなぜこの場にて食事をしているかということだ!」

「そりゃあ腹が減ったからに決まっておろう。人は霞を食べて生きていけるような存在ではないからな。そんなこともわからないのかね? ベルネット君?」


 心の中でためた怒りを爆発させる準備に取り掛かるベルネット。ここは目的地の漁村の一歩手前にある中規模の街である。海に近いということもあり、新鮮な魚肉を売りにしている店が多く、また食事もそれに伴って相当に美味しい街の一つでもある。

 

 ここから三時間ほど歩いて北東に向かえば件の村にたどり着く距離ではあるのだが、時刻はすでに昼である。昨日ここに宿をとり一泊して本来であればすでに村にたどり着いているはずなのだが、まったく街を出る様子がないレナードと皇女であるエリザ。


 当の任務はすでに忘れていると言わんばかりに次々と食事を注文している。

 皇女であるエリザに惚れている弱みもあり意見しづらく、あえてレナードに文句を言うもどこ吹く風のごとく任務のことなど気にしている様子が一切ない。

 とはいえ目の前でいちゃつかれてしまえば嫉妬もあり怒りもこみあげてくる。

 そしてベルネットは大声を出そうとした瞬間。


「ベルネット。あーん」

 エリザの手からフォークに突き刺されたカキが差し出された。

 当然、ベルネットは怒りをひっこめだらしのない顔のまま口を開ける。

「あーん」

「でもあげない」

 そういってエリザは自分の口にカキを運んだ。


「ベルネット君。アホみたいに口を開けてどうしたんだい? 皇家の紋章を掲げながらそのようなアホ面を引っ提げていると品性が疑われるぞ?」


 ……初めて任務などではなく己の意思で人を殺したい。ベルネットがそう思った瞬間である。

「レナードよ。ここの支払いは私は出さんからな?」


「レナード。もしかしてベルネット怒っている?」

「だとしたら原因はあんただな。僕とベルネット君は親友だし……いやむしろ心友だし」


「誰が親友か! 気色悪い事この上ないわ!」

「レナードの親友は私の親友なのに」

「親友ですとも! ええ間違いありません!」

「お前も大概忙しい性格しているよな……」


 からかわれているのが手に取るように分かるだけにベルネット自身はものすごく落ち込んだ。が、すぐに切り替えて本題に入る。


「あのですね……目的地まではすぐそこなのですよ? なのにいつまでここにいるんですか?」

「そうは言ってもな……敵の情報を知らなければ……もぐもぐ……やはりここは慎重に……むしゃむしゃこれうめえ! ベルネットも……行ったほうが……うん、このソース絶品だわ。皇宮で仕入れたらどうだ? ベルネット君?」


「貴様は食い物の話をしているのか!? それとも僕の質問に答えているのかどっちなんだ!」


 情報も何も海で厄介な魔物が出たから退治してくれ。ただそれだけの話である。ここで足止めする理由など何一つない。

 レナードはここぞとばかりに食事を注文しているし、エリザはほとんど宿屋で過ごし時折この食事場に顔を出している。そんなこんなですでに昼過ぎ。二人とも任務を遂行するという意欲のかけらも見せない。

 そしてベルネットとしては怒りの矛先がどうしてもレナードに向かってしまうのも仕方のないことであるが、当のレナードは何を言っても暖簾に腕押し状態だ。


ここで金銭に絡む出来事があれば一にも二にも何をおいても動くのだろうが、生憎とただ働きという事が頭に動きたくないという心境だ。何やかや理由をつけて任務を先延ばしにしているというところだろう。

 最終的には働かざる負えなくなるのだろうが、その前に目いっぱい食いだめしておきたい。この贅沢を少しでも長く味わっておきたい。そういう思いが強いのだ。

 簡潔にまとめてしまえば明日から頑張る状態である。


 エリザはエリザでほとんど宿屋で過ごし、時折ここへきては食事をつまみ、また宿屋に帰るという完全にダメ人間モードである。まともな思考を持っているのはベルネットただ一人だ。


「お二方……いい加減にしないといつまでたっても皇宮には帰れませんよ? ここは早く任務を切り上げてですね」

「あーもうなんか働きたくないでござる」

「働いたら負けかな……お金はあるし」


 このダメ人間どもめ……エリザへの思いを一瞬忘れそう思ってしまうが、声を荒げても仕方ない。わずかな期間だがレナードの性格は把握している。あまり使いたくなかった手段だがこうなれば仕方ない背に腹は代えられないと考え最後の手段に訴え出る。


「レナードよ。この任務が終わったら僕からプレゼントがある」

 食事をしている手が一瞬止まり相手の顔をうかがうレナード。疑いの視線と好奇心の視線が入り混じったような何とも言えない目つきである。


「男からプレゼントだと? き、興味はないが……な、中身だけでも聞いておこうかな……なにしろ心友だし。僕たち心友だし」

「一々、二回も言うな! ついでに目をキラキラさせるな気色悪い! ま、まああれだ、せっかくこうして出会えたのも何かの縁だしな……丸っこくてキラキラしているものをお前にあげよう」

「ま、回りくどい言い方だな……あれか? そ、それは金で出来ていたりするものなのか?」

「さてな……だがこれ以上任務に時間がかかるようであればその件はなかったことになるな」


 瞬間、レナードは勢いよく立ち上がる。


「オヤジ! 会計だ! 支払いは僕の心友であるベルネット君がすべて払うから安心しろ。何をしているんですかエリザ様! ほらやる気を出して! 悪辣なモンスターの手から民を救いに行きましょうよ!」

「えー……私は寝ていたい。レナードも一緒に寝よ? 胸くらいなら触ってもいいよ?」

「んな事よりモンスター退治です! 馬を引っ張ってきますのですぐに出発しますよ!」


 そういってあっという間に店を出て行った。

 

「……あれが由緒正しきガードとは」

 

 あまりの態度の変わりようにその場で力が抜け思わず全体重を椅子に預けてしまうベルネット。

 エリザはそんなベルネットの声が耳に入っていないかのように放心していた。


「そんな事より……私の胸が……そんな事……ショックかも…」

 どんよりと暗い影を纏わせながら肩を落としている皇女の姿がそこにあった。



 なんやかやと色々とあり、ようやく目的地である漁村についた一向。

 村という事もありそれほど大きくはない。また住んでいる人たちもみな顔見知りなので、よそ者が集まるとすぐに注目される。そういうわけで村に入ると一行は村人たちから奇異な視線を向けられることとなる。

 こんな田舎村に皇家の紋章を付けた立派な身なりの人たちが馬に乗ってやってきたのだ。注目されないほうが不自然である。


「なんかあまり活気がねえな」

 レナードの一言が村の様子を表していた。魔物が海に出没したという事で漁が出来ずに男衆はあちこちで愚痴をこぼしあっている。まさにそのような状況である。


「漁村の漁師にとっては魚が取れないという事は死活問題になるからな。ふてくされたくもなるのだろう」

「ふむ、そういうものか」

 ベルネットの言葉に納得はしたもののいまいち共感は出来ない。くさっている暇があるなら何とか魔物を退治すべく考えればいいものを大の大人たちが昼間っからこんな体たらくでどうするのだと自分のことを一切省みずに棚に上げている。


「私の胸は魔物より魅力的」

「あんたはさっきから何を言っているんだ!」


 先ほどの街を出るときのレナードの一言がよほど気に食わなかったのかここへ来る途中、何度も自分の胸をアピールし続けているエリザだが、レナードは一向になびかない。ますます不満を募らせより過激にアピールしようとしたところでベルネットにたしなめられ渋々諦めるが、それでも女の意地があるみたいだ。

 一行はさらに馬を進め、村長の家の前までやってきた。村長と言ってもほかの家と大して変りないような平屋造りの家である。


「我々は皇宮の使いで、この村に出没した魔物を退治すべく派遣されたものである。誰かいらっしゃいますか?」


 ベルネットが一行を代表して扉越しに声をかけるが、反応がない。もう一度同じように声をかけるがやはり扉はうんともすんとも言わない。


「おかしいな。先ほど村人から聞いた話によると村長は在宅しているはずなのだが……」


 そういって耳を扉に近づけると中からなにやら騒がしい声が聞こえてきた。人はいるようである。さてどうしたものかと考え込むベルネット。


「じれってえな。人がいるんだったらさっさと中に入ろうぜ」


 レナードはそういうや否や、いきなり扉を蹴飛ばし破壊する。ベルネットが止める暇もなく、無残にも扉は吹き飛び、中にいた人たちは何事かと家の入口に視線を向けた。


「なんじゃなんじゃ!」

 一番最初に声を発したのは初老の男性である。見ると入り口には目つきの悪い黒髪の男性。山賊かと思い腰を抜かす。


「か、金はこの家にはないぞ! み、見ての通り貧乏な村じゃ!、頼む見逃してくれ!」


 その言葉にレナードはニヤリと笑みを深め、一歩前へ進む。


「あー? その割にはずいぶんと楽しそうに宴会をしているじゃねえか……それにそこの床板……外れるようにできてんだろ? いざという時のたくわえがあるんじゃねえか? ついでにてめえらの着ている服も持っていくとこに持っていきゃ充分金になるんだよ。それにいくら貧乏っつったって女くらいいるんだろ? 高く買い取ってくれるとこ紹介してやっからおとなしく差し出せや」

 

「何を言っているんだ! 貴様は! 皇家の紋章を身につけながら山賊まがいな事するな!」

 


 ベルネットのすさまじい蹴りがレナードの背中を襲い、レナードは無様に床板に倒れこむ。

 いきなり当初の目的を見失い、おまけに山賊行為この程度で済んだことを感謝すべきであるが、レナードはむくりと起き上がり抗議の声を上げた。


「なにをするんだ! ベルネット! 痛いじゃないか!」

「やかましい! 貴様はここに何しに来たんだ!?」


 しばらく無言……やがて思い出したようにポンっと手を打つ。


「いやいやついつい昔のくせが……あははは」

「貴様の過去が非常に気になるところだが生憎とそれにかまう時間はない……全く失礼しました。みなさ」

 そこでベルネットの言葉が途切れる。なぜなら……。


「ふふふ、さあ早く金を出しなさい。私たちには時間がないの。そう愛の逃避行。すでに追ってはかかっている。急がなければお父様の手のものが私たちを引き裂きに来る」


 いつの間にか用意していた大きめのハンカチで口元を多い、サングラスをしているエリザ。自分の武器である杖を初老の男に突き付けて金を要求している。

 思わず頭を抱えるベルネット。


「エリザ様! 何をしているんですか!」

「チッチッチッ。私の名はスカーレット。これはもちろん偽名。その正体はさる帝国の第一皇女だけど望まぬ結婚を強いられ皇家のガードの手助けを借り皇宮から抜け出す。そして色々とあってガードは私の胸の魅力にメロメロとなり、私もガードの思いに答えることになる。しかしそこへお父様の追手が!」


「もういいです。演劇の脚本は皇宮へ帰ってから一人でじっくりと考えてください。一応私もお手伝いしますから……」

「残念……」


 これまでのやり取りを見て彼らの正体を看破できる人間がいたら、まさに慧眼の持ち主と言えよう。誰もが口を挟めず、ポカンとしている。身なりから察するに立派な身なりではあるが……また服には皇家の紋章が刻まれているが……どう考えても皇宮の人間とは思えない。


 扉を破壊され、金や女を要求され、宴会の邪魔をされる。これでお偉いさんと思えというほうが無理がある。


ベルネットは唖然としている村人に対してさわやかな笑みを見せ、挨拶をする。


「失礼しました。私達は皇家の使いの者です。貴方達が国に申し出た陳情により派遣されました。なんでも魔物が現れて村を脅かしているとか聞いていますが、詳細をうかがってもよろしいでしょうか?」


 村人の一部がざわめきはじめる。確かにそのような事を国に申し出た。しかし、派遣されたのがよりにもよってこのような人間とは国は村を見捨てるつもりなのだろうかと疑念を抱くのも無理はない。


 そしてその空気を敏感なベルネットはしっかりと感じ取るが、肝心のその空気を作り出した当の本人たちは勝手に家の中を物色し始めている。


「ほんと何もない……貧乏かわいそう」

「いやいや、庶民の生活にしてみりゃ立派なもんだぜ……俺の時なんか……クソ! なんだか怒りが込み上げてきた」


 顔を手で覆ってしまうベルネットこれでは話が進まない。二人の襟首をむんずと掴み取ると思いっきり外に放り出した。皇女をそのように乱暴に扱うのは気が引けるがこの際やむおえまい。


 そして再び村人に向かってニコリと笑みを見せる。


「と、ともかく我々は怪しいものではありませんので」


 ベルネットにやましい気持ちは一切ない。それこそ何の曇りもなく純粋に任務を遂行しようと必死であるのだが、自分で言っておいてなぜにここまで説得力がないのか……。


 だが、その誠意が伝わったのか村人の中から一人の初老の男が一歩前に出てベルネットに相対する。


「この村の村長を務めるものですじゃ。確かにその身なりから察するに皇家の者とお見受けいたしますが……」

「いや、言いたいことはよくわかります。あの者の存在は無視してください。何か村に迷惑をかけるようなことがあれば即刻私の権限で処刑いたしますので」


 放り出されたはずのレナードがいつの間にか宴会のごちそうを手に取り口に運んでいた。


「なあ、魔物に襲われている割にはずいぶんと陽気にどんちゃん騒ぎしてるな? どゆこと?」


 酒を片手にベルネットも抱いていた疑問を村人に問うレナード。村自体は活気がないのはこの村に足を踏み入れてから感じていたことであるが、この家だけはどこか陽気である。


「はい、魔物が現れてからというもの村人には活気がなくなりこのままでは村全体に悪影響を及ぼしますじゃ。ゆえに週に一度こうやって宴会を開き愚痴をこぼし合っていたところですのじゃ」

 

「んなことした逆にすぐに干上がるじゃねーか……」


「とは申してもわが村には魔法の使い手はおりませぬ。食料を保存するのも限界があってのう。ちなみにそなたが食うておるのは半分くさっておる物じゃぞ」


「へえ、結構いい味してるじゃん……いい保存方法を使っているんだな」


 要するに賞味期限の過ぎた食料を大盤振る舞いして現実逃避をしていたという事だろう。レナードにとってくさりかけなどどうでもいい部類に入る。貧民街で暮らしていた時の食糧事情のほうがよほど切迫していた。なんの遠慮もなくパクパクと口に運んでいる。


「全くあの魔物ときたら俺らの縄張りに堂々と居座って我が物顔で海を支配しやがって舐めている野郎です!」


 若者の一人が声を荒げて怒りに満ちた表情を隠そうともせずに床を踏みしめる。よほど腹に据えかねているのだろう。


 村自体にはさほどひどいダメージはなく、それほど深刻な被害をもたらしているわけではなさそうだが漁村で近海を支配されているというのは兵糧攻めにあっているようなものだ。このままじわじわと干上がれば最悪、子供を殺して消費される食料を少しでも減らすという行為に発展しかねない出来事になる可能性がある。


「ほんとあいつが現れてからというもの俺たちは……俺達は……あの野郎俺の船を壊しやがって……まるで俺をあざ笑うかのようにクソ! 舐めやがって」


「事情は分かりました。その魔物を退治するために私たちは派遣されてきたのです。ご安心ください」


 村人の事情を汲んだベルネットがそういうと家の中に一人の若者が飛び込んできた。

 顔を蒼白にして息を切らせている。


「あ、現れました! 奴です! ついに浜に上陸しました」

「なんじゃと? あの魔物が浜に? おのれええええ! 皆の者武器をとれ! 女子供は家に隠れるように指示しろ! 舐めおって」


 村長がそういうとこの場にいた若者たちが気勢をあげ、もりを片手に家を出ていく。あっという間の出来事に取り残される皇家三人。


「なあ。俺達が派遣された意味あるのか? なんかずいぶんとやる気があるみたいだな」

「貴様もちったあ見習ったらどうだ? ともかく一般の者が魔物と渡り合うなど無謀な行為だ。我々もいくぞ」


 そういわれてエリザとレナードは渋々ベルネットの後についていく。


 そして浜に出るとその魔物が三人の視界に入った。大きさは二階建ての家一軒分ほどある巨体である。白い肌にはぬめりのような粘液を纏っていてそれが日の光に照らし出され体全体が光沢を帯びたような感じである。


 長く丸い胴体に、顔と思われる部分は触覚のようなものが二本生えているようだ。


 レナードは村人の一人を捕まえて質問を始める。


「おい……」

「なんだ? 今忙しいんだ」


 いきり立っているのかいささか乱暴な口調だ。


「ありゃなんだ?」

「見りゃわかるだろーが! 魔物だ」

「ナメクジじゃねーか!」

「だから舐めているやつと散々教えただろ! クソ舐めやがって!」

「ナメクジならナメクジと初めから言わんか!」

「えーいうるさい! ともかく邪魔をするな!」



 珍しくレナードが頭を抱えたくなる。なぜナメクジが海に生息できるのか……大量の塩をまけばそれで一発のはずである。そしてベルネットもそのことに関しては同意見だ。思わず顔を見合わせてしまう。


「ナメクジ……皇家のガードがナメクジごときに駆り出されるとは……」

「取りあえず塩をまいとけばいいんじゃねーか?」

「ナメクジなのに海に潜れる……きっと新種のナメクジ。海ナメクジとなずけよう。きっと仲間がいなくて寂しいんだわ」



 三者三様に意見を述べる。村人たちはあちこちから銛を投げつけナメクジに対抗しているが銛を体に吸収されるだけで効果はほとんど見込めないようだ。

 やはりナメクジだろうと魔物は魔物である。

 

 そのナメクジがやる気をそがれている三人に触手を伸ばし始めた。レナードとベルネットは何のこともなくひょいとその触手をかわしたが二人に対して身体能力が劣るエリザがその触手に捕まってしまった。


「あ……」

「おや?」

「エリザ様!」



 四方から触手が伸びてエリザの体に巻きつけられる。ナメクジのぬめりとした粘液が舐めるようにエリザの顔をはっていく。もう一つの触手が太ももに巻きつけられ服を通してナメクジの粘液がエリザの体全体を侵食していく。


「気持ち悪い……」


 さすがのエリザもこれには参ったようだ。眉をひそめ不快感をあらわにする。


 そしてエリザの胸元に触手の魔の手が伸びる。一気に服を引き裂こうと首元からうねうねと動く触手。


「おのれ! 魔物風情が! それ以上エリザ様の神聖な体を汚すなどまかりならん! その魂ごと打ち砕いてやるわ」

「まあ、まてベルネット君」 

「グエ!」


 ベルネットが黙ってみていられるはずがなく剣を片手にナメクジに飛びかかろうとしたが何者かによって襟首を捕まれ首を絞められた状態になる。


「貴様……なにをする!?」

「いやいやあれを見ろ」


 とレナードが指をさす。戦っていた村人達はいつの間にか戦いの手を止めて全員がある一点に集中していた。


 その視界の先には触手につかまり粘液によって服を溶かされている半裸のエリザ。そしてその胸元からしっかりと育った果実があふれそうになっている。


 そしてどこからともなく声があげられる。


「お……?」

「いいぞ……もう少しだ」

「いけ! 行け!」

「頑張れ! 魔物!」

「おっしゃ! そこだ! 一気に引き裂け!」

「ええなあ。若い女はええなあ」


 いつの間にか声は大きくなり盛大になっていく。中には指笛を吹いてはやし立てる者も出る始末だ。


 


「というわけだわかったか? ベルネット君」


「なにが『というわけだ』だ! こら! 貴様ら! 目をそらさんか! あの方を誰だと思っている! 本来なら貴様らが目にするのもおごがましい高貴なお方だぞ!」


「まあまあ、娯楽の少ない小さな村にある程度の刺激は必要だろう? いやいやこうしてみると中々立派なうんうん。皇女じゃなかったら」


 ギラリと剣先が突き付けられる。


「皇女じゃなかったらなんだ? ええ?」


「い、いやだなあベルネット君……君同僚を殺す気かい? 殺気が出ているんだけど」


「アホには構っていられん。ともかくさっさとお救いするぞ。ちなみにこれ以上グダグダと何かを言うのであれば例の件はなかったことになるからな」


 例の件とはベルネットと個人的に約束をしたプレゼントの事である。これはレナードにとって相当刺激になったようであっという間に駆け出して行った。

 あまりの速さに思わず唖然としてしまうベルネット。後れを取るわけにはいかないとレナードの後に続く。


 白い燐光を体にまとい、ナメクジの触手を足場にして一気に駆け上がる。ベルネットも風を体にまとい自らの体を宙に浮かばせ風を剣先から飛ばしエリザをつかんでいる触手を見事切り裂く。


 突如の攻撃にわずかに戸惑う魔物が最後に見たのは上空から飛来する一つの人影。そして痛みとともにその意識は霧散した。



 着地と同時にエリザの体をしっかりと受け止めるレナード。どうやら服以外は無事であるようだが生肌がじかに感じられるわ、半裸の状態だわとさすがに色々と刺激的である。


「エリザ様!? 無事ですか?」


 ベルネットが駆け寄りエリザの体を心配する。


「レナードに汚された。もうお嫁にいけない」

「汚したのは魔物だろうが! しれっと嘘をいうな!」

「エリザ様の体が汚れるなどそのような事があるはずがなかろう! 訂正せんか!」


 あっという間の出来事に村人一同あいた口がふさがらない。そして魔物を退治した当の本人たちは訳の分からないことを言い合っている。

 唯一理解できたのはこの村は救われたという事であった。




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